研究内容 - 自治医科大学 分子病態治療研究センター 細胞生物研究部

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研究内容

ヒトの体は一つの受精卵からはじまり、時間的空間的に厳密に制御されたシグナル分子や転写因子のネットワークによって、数多くの異なる機能を備えた細胞集団からなる個体になる。多くの難治性疾患は遺伝子機能の異常や発現の異常によっておこるが、発生過程にかかわる遺伝子異常による疾病も数多くみられる。
 私達はホメオボックス転写因子 Six ファミリーに注目し、発生過程におけるSix遺伝子のエンハンサー調節機構や器官形成における機能解析を進めている。また、ナトリウムポンプのサブユニットに注目し、生後脳におけるそれらの遺伝子機能や様々な病気との関わりについて、欠損マウスの表現型の解析を柱に研究を進めている

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感覚器プラコード・感覚ニューロンの発生とエンハンサーの進化

six1ppr.jpgSix1mRNAのPPRにおける発現(左)。Six1のPPRエンハンサー活性をGFPの発現で観察したもの(右) (ニワトリ胚)

私たちの眼や耳、鼻などの感覚器は、感覚器プラコードと呼ばれる領域から派生します。これまでに、Six ホメオボックス遺伝子群は、耳胞や嗅上皮をはじめとする感覚器原基や脳神経節における細胞増殖・ニューロン分化に必須の遺伝子であることを明らかにしました (Ozaki et al., Development 2004; Ikeda et al., Dev. Biol. 2007; Suzuki et al., Cell Tissue Res. 2010; Suzuki et al., J. Mol. Histol. 2010; Ikeda et al., Int. J. Dev. Biol. 2010; Suzuki et al., J. Anat. 2011)。
 現在私たちは、感覚器の発生メカニズムをより詳しく知るために、感覚器プラコードを生み出すの共通のPPR (pre precodal region)と呼ばれる領域の細胞に注目しています(右図)。私たちは、マウスにおいて、外胚葉におけるSix1の発現領域がPPRであることを明らかにし、Six1のPPRエンハンサーを同定しました(Sato et al., 2010, Dev. Biol.)。


enhancer.jpgSix1の発現は様々なエンハンサーによって制御されているこれまでに、ニワトリ胚へのエレクトロポレーション法やトランスジェニックマウスの手法を駆使することにより、進化的に高度に保存された Six1 遺伝子周辺の配列の中から、胚発生の特定の時期、特定の場所での発現を司る転写調節エレメントを数多く同定し、Six 遺伝子を起点した器官形成における遺伝子ネットワークの解明において、世界をリードする研究を展開しています(Sato et al., 2012, Dev. Biol.)。現在、さらに、同定されたエンハンサー領域を詳細に解析し、エンハンサーへの結合因子や、エンハンサーを利用した感覚器プラコードの発生メカニズムの解析を進めています。


six1e8.jpgSix1の後根神経節エンハンサーの活性の検出(マウス胚)


Six1は神経堤細胞に由来する後根神経節内の感覚ニューロンにも発現しています。これまでに、これらの細胞におけるSix1遺伝子のエンハンサー配列を同定しています(右図, Sato et al., PlosOne 2015)。さらに、カエル、ニワトリ、マウスにおけるエンハンサー活性をトランスジェニック技術や電気穿孔法を駆使して解析し、脊椎動物の進化の過程における感覚ニューロンの発生進化と遺伝子制御について研究を進めました。Six1は発生の過程のみならず、進化の過程で感覚神経細胞の所在を脊髄内から脊髄外へと変化させる鍵になっていると推測されました(Yajima et al., BMC Biology, 2014)。

組織幹細胞の維持分化と再生


musclesix1.jpg成体骨格筋におけるSix1タンパク質の局在骨格筋において、筋衛星細胞は成体の幹細胞として機能していることが知られています。Six1, Six4, Six5は筋衛星細胞に発現しており、培養系においてSix1, Six4のノックダウンを行うと、筋分化が抑制されました。Six5のノックダウンでは、細胞の増殖亢進が見られました。また、Six4/Six5の遺伝子変異マウスを用いた解析においても、細胞の増殖亢進が見られました(Yajima et al., 2010, Exp.Cell Res.)。さらに、個体レベルにおいて、Six遺伝子の欠損と骨格筋再生効率について新たな知見を得ています(Yajima and Kawakami, Dev. Growth Diff. 2016 in press)。



また、Six 遺伝子ファミリーは、神経堤細胞に由来すると考えられている歯周組織(歯根膜)の前駆細胞に発現することを報告しました(Nonomura, Takahashi et al., 2010. J. Anat.)。歯根膜に存在し間葉系幹細胞様性質をもつことが知られている歯周組織幹細胞(歯根膜幹細胞)や線維芽細胞の増殖・分化に着目し、Six遺伝子ファミリーによる制御機構について研究を進めています (Kawasaki, Takahashi et al., Dev. Growth Diff. 2016 in press)。

ナトリウムポンプサブユニットと脳機能


Naポンプは細胞膜のNaイオンとKイオン勾配を維持する能動輸送酵素です。Naポンプをコードする遺伝子に変異が入ることによって、偏頭痛やジストニアパーキンソニズム、小児交互性片麻痺が起こることがわかってきました。celeberum.jpgα3サブユニットの小脳プルキンエ細胞における発現しかし、Naポンプ遺伝子を欠損させたマウスでは、ヒトの病態とは異なり、恐怖不安行動や摂食行動に影響が観察されました。ヒトの病態では、遺伝子変異によるNaポンプ機能の変化が鍵となっている可能性が考えられるため、これからは患者で見られる遺伝子変異を導入したモデルマウスを作製し、病態と治療法の開発に向けた研究を行っていきます。

α2サブユニットの研究について 詳しくはこちら


plusmaze.jpg高架十字迷路による行動解析ナトリウムポンプは、α, β サブユニットからなる膜タンパク質です。私たちは、これまでにαサブユニットアイソフォームをコードするα2, α3サブユニット遺伝子の欠損マウスを作製し、小脳や脳幹部の神経回路におけるこれら分子の生理的意義について、研究を推進してきました。行動解析や電気生理学的解析により、小脳プルキンエ細胞に強く発現するα3サブユニット遺伝子(上図)の欠損と、痙攣や異常な筋収縮を呈するジストニアパーキソニズムの発症との関係について解析し、α3サブユニットは小脳においてシナプス伝達効率を制御する機能がある事が初めて明らかとなりました。(Ikeda et al. J. Physiol. 2013)。また、Atp1a3欠損マウスにおける慢性的拘束ストレスにより、メスでは歩幅の減少、オスでは歩幅の減少とHanging Box Testにおけるぶら下がり時間の短縮といった運動機能低下を示しました (Sugimoto et al., Behavioural Brain Research, 2014)。これらの運動機能低下は急性発症型ジストニアパーキンソニズム(RDP)の特徴を再現しており、今後、このマウスの運動機能低下の原因を明らかにすることで、RDP病態解明につながることが期待されます。

脳の発生・発達の分子細胞メカニズム

高橋 将文 Masanori Takahashi
基礎系大学院本務 講師 (細胞生物研究部 講師 兼任)
mouseinuterogfp.jpgマウス大脳皮質原基への遺伝子導入
脳の発生は、遺伝的プログラムによる領域化により、多様な個性をもつニューロンやグリア細胞が決められた場所で生み出され、脳内を移動するという非常にダイナミックなプロセスです。私たちは、領域化や細胞分化といった脳構築の分子・細胞メカニズムについて興味を持っており、菱脳や大脳に発現する転写因子や細胞接着分子の役割に注目しています。脳の中には私たちがまだ知らない細胞の挙動や美しい光景がひろがっています。分子生物学的手法や哺乳類全胚培養法・子宮内電気穿孔法による遺伝子導入(右図)、AAVベクターによる遺伝子導入などの分子発生学的手法に加え、組織化学的手法、さらには蛍光タンパク質を用いたスライス培養・タイムラプスイメージング等を駆使して研究を進めます。

培養マウス胚の動画はこちら


cortex.jpgさらに脳は生後において、様々な外部からの刺激に反応して、最終的に緻密な神経回路を作り上げます。特に、利き手などの脳機能の側方化(機能的左右差の形成)のメカニズムは、未だ良くわかっていない課題の一つです。モデル動物における大脳皮質体性感覚野(左図)や大脳基底核に注目し、生後脳における機能的左右差の形成に関連する神経路の解明を目指しています。




研究室の風景より

胚操作したニワトリ胚学部生のラボ体験会の様子医学部学生のラボ体験会大実験室のベンチマウス小脳に発現するナトリウムポンプ遺伝子 J. Physiology, 2013子宮内電気穿孔法による大脳への遺伝子導入