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同窓会会報から 阿江竜介(兵庫県)

同窓会会報から 阿江竜介(兵庫県)

親の心子知らず

自治医科大学 地域医療学センター 公衆衛生学部門
阿江竜介(兵庫26期)

阿江竜介「ドイツは野菜が不味い」。ドイツに留学経験がある先輩から聞いた話だ。一方、それに比べて日本の野菜はびっくりするほど美味しいのだそうだ。先輩の調査によると、日本とドイツの野菜には、遺伝子上の違いがまったくないとのこと。にもかかわらず、味が格段に異なる。美味しさの秘密は、野菜の「育て方」にあると言う。

日本の野菜作りは、広大な農場で放任する欧米式とはまったく異なる。「精魂を込める」という言葉のとおり、日本では手間暇かけて個々の野菜に「魂」を吹き込む。このプロセスが野菜の美味しさに大きな影響を与えると言う。食べる人の笑顔を想像し、「入魂」のプロセスに試行錯誤を重ねるプロの農家が日本にはたくさんいる。「これは客に出せる代物ではない」と出荷を見送るストイックな農家もいる。

精魂を込めて育てれば、人間も野菜と同じように立派に成長するのだろうか。たとえば、医学生に「入魂の教育」を施せば、すばらしい医者になるのだろうか。私は「きっとそうに違いない」と信じている。だから私は、ずっと前から「自治医大の教育理念は入魂だ」と言い続けている。本学で働く卒業生(教員)は皆、私と同じ志を持っているに違いない。「できる限り最高の状態で送り出したい」といつも考えながら、学生一人ひとりを育てている。

にもかかわらず、残念ながら我々教員の理念がまったく伝わらない学生もいる。やっぱり人間は、野菜と違って、素直でないケースが多少含まれている。「親の心子知らず」というように、医者になって実際に社会に出てみないと、我々教員の気持ちなど理解できないのかもしれない。

学生が野菜とまったく異なるところは、出荷された(卒業した)あとにある。野菜は出荷後に、客に食べられた時点で評価が決まる。美味しいか、不味いか、その評価は不可逆だ。ところが学生は違う。たとえば大学教員から「医者として患者の前に出せる代物ではない」と心配されていた学生でも、その後の努力次第で評価を逆転させられる。ただし、これにはもちろん、卒後の教育が大きく影響する。大学教員は、出荷後の入魂はできない。卒後に「自治医大の魂」を吹き込むのは、大学以外で働く全国の卒業生の役目だ。

正直なところ、私自身も学生時代は「親の心子知らず」な、しょうもない人間だったかもしれない。でも今は「親心」がよくわかる。卒業生の「親心」とは「後輩を見捨てず、入魂し続ける愛情」だと思う。この「親心」を、他大学の出身者は「甘やかし過ぎ」とか「何でそこまでやるのか」とか、奇異に感じることもあるようだ。だが、この「親心」が卒業生同士の不思議な絆を生み出していると私は感じている。全国の卒業生には是非、「親心」を持って、卒後の医者を「精魂込めて」育てていただきたい。やがて成長した後輩たちも「親心」に気付き、誇りを持って自治医大の魂を伝承してくれると信じている。