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同窓会会報から 市川万邦(山梨県)

同窓会会報から 市川万邦(山梨県)

リレーエッセイ(北から南から)〜 地域を守る、覚悟はあるか 〜

南部町医療センター 所長 市川万邦(山梨18期)

月刊地域医学が毎月送られてくるたび、裏表紙の「地域を守る、覚悟はあるか。」の文字に心が引き締まります。私は平成22年から山梨県、南部町医療センターに所長として勤務しております。南部町医療センターは南部町が平成元年に設立した無床の公立診療所で今まで自治医科大学山梨県人会の義務年限内医師が勤務しておりました。南部町は山梨県最南端、静岡県との県境に位置し平成29年10月1日現在の人口は8,049人で人口減少が続き、高齢化率は39.4%で山梨県の中で高齢化率の高い市町村第5位です。町は富士川に沿って集落が点在し、特産物はお茶、たけのこが有名です。毎年8月15日には「南部の火祭り」が開催され多くの観光客が訪れます。「南部の火祭り」は盆の送り火と川供養の奇祭であると同時に稲を病害虫から守るための虫送りの意味も込められているといいます。オープニングを飾る「投松明」、「大松明」の炎が仏様の道明かりとなり「灯篭流し」が厳かに行われます。一斉に点火される「百八たい」が富士川の両岸で燃え上がると、祭りはクライマックスを迎え、二尺玉の花火で祭りは終わります。

私は無医村であった山梨県、旧芦川村に生まれ、中学2年生の時に叔父が山に狩りに行った際にくも膜下出血で倒れ亡くなったことを経験し、無医村で働く医師になりたくて自治医科大学に17期で入学しました。同期は現生化学講座病態生化学部門教授の大森司先生で、私は不真面目な学生生活を送ったこともあり18期の卒業となりました。そのため義務年限は10.5年に延長となり卒業後は山梨県立中央病院で2年の初期研修を行い、その後都留市立病院の内科として5年、道志村国民健康保険診療所で4年勤務し義務を開けました。都留市立病院では訪問診療、在宅医療を経験し、道志村国民健康保険診療所では村一人の医師としてへき地医療の魅力を再認識しました。義務年限終了後は4年間自治医科大学とちぎ子ども医療センターでお世話になり、勤務中は大病院でのNICU勤務を含めた小児科医療や地域病院での小児科医療、小児在宅医療を経験しました。勤務地ごとにお世話になった先生方や医療スタッフがたくさんおり、その方々とのかかわりは今の私の宝となっております。その後一人診療所での勤務を希望し、平成22年から現在の南部町医療センターに義務年限外の身分で勤務となりました。くしくも南部町医療センターは同期の大森司先生も勤務された場所でした。

そんな南部町の医療状況ですが、入院施設はないものの診療所は当院を含め5施設あり、南部町医療センターが町唯一の医療機関というわけではありません。私が赴任した際に@高齢者医療、A在宅医療、Bへき地医療、C小児医療、D救急医療、E災害医療、F行政との連携、G学生教育の8点についての充実を目標としました。高齢者医療に関しては高齢化率の高い南部町においては当然必要かつ重要な医療でした。在宅医療はこのようなへき地でもニーズはあり都留市立病院での経験を活かし展開しました。へき地医療としては月1回、いわゆる限界集落である南部町佐野地区に診療所の車で約40分の道のりで出向き出張診療をしており、毎回約10名の診察となりますが、来年の2月で100回目の出張診療になる予定です。小児医療はとちぎ子ども医療センターでの勤務を活かし小児科診療を行い、都留市立病院でともに勤務した小児救急看護認定看護師と「小児の救急法」の講演会を役場保健師とも協働し定期的に開催しております。救急医療では当院に併設してヘリポートを作っていただきドクターヘリが来るまでの救急患者の対応ができるような体制を取りました。災害医療としては平成26年の大雪の際に災害弱者である在宅酸素患者をリストアップし、避難所への誘導を行いました。また、これから起こるといわれる南海トラフ巨大地震に備えた対策も考えている状況です。行政との連携は当院も公的診療所なので行政の一部として南部町の医療にかかわろうと考え、特に保健師との連携や顔の見える関係は重要と考えました。学生教育に関しては自治医科大学の学生実習の受け入れはもちろんのこと山梨大学や山梨県立大学の学生実習の受け入れも行い学生に南部町における地域医療の魅力を紹介しております。


  • みんなで考える認知症の会の一幕

すでに南部町での勤務が8年目となり当初の目標を継続しながらその時々のニーズに沿い、活動の幅も広がってきました。地域包括ケアシステムの構築のためには多職種連携が重要であり、平成23年から医師、保健師、訪問看護師、ケアマネジャーを中心に官民の区別なく自然発生的に「顔の見える関係」の構築を目的に「南部町在宅医療連携協議会」が設立され、月1回の定例会におけるケースカンファレンスなどを開始し、平成29年12月で第79回となりました。協議会では定例会の他にも様々な活動を行い、地域住民を対象とした「みんなで考える認知症の会」を平成24年から開催し平成29年で第6回となりました。内容は医師による講義、長谷川式の実践、認知症患者への良い対応・悪い対応の紹介、認知症カフェの紹介、他市町村の認知症の取り組みの紹介、南部町在宅医療連携協議会メンバーによる寸劇、男性介護者の講話、認知症初期集中支援チームの紹介など、住民参加を念頭におきながら行い、毎年150名を超える参加者となっています。

また、南部町では平成26年4月から「なんぶ健康会議」という町長を筆頭とした役場担当4課、愛育会、食生活改善推進員による会議を立ち上げ、「スマイルなんぶ」〜健康・長寿、日本一を目指して〜をキャッチフレーズに活動を行っております。なんぶ健康会議は「町民と共に生活習慣病の発症と重症化を予防する」を目標に、「一次予防の重視」、「町民主役の健康づくり」、「健康づくりを支える環境づくり」、「重症化予防の徹底」の基本方針の元、構成メンバーが3つの小委員会(運動部会・食生活部会・医療部会)に分かれ、それぞれ健康事業等について検討し、私は医療部会に所属し、総合健診、糖尿病・高血圧教室の実施や健診結果を一括してファイリングできる健康ファイルの作成を行い、地元紙「山梨日日新聞」でもとりあげていただきました。

病診連携、診診連携も重要で南部町医師5名が互いに連携し、訪問診療、在宅医療を行った結果、平成26年度の厚生労働省の在宅死の市町村別の集計で山梨県平均が12.7%、全国平均が12.8%のところ南部町は21.4%と山梨県内で3番目に高い数値となりました。南部町医師は南巨摩郡医師会に所属し南部町は南巨摩郡医師会の南部地域となります。平成29年10月に南巨摩郡医師会北部地域において「災害時の医療救護に関する協定」が結ばれ、その南部版を考えようと、先日南部町医師の会合に南部町長をお招きし話し合いが行なわれました。

以上が私の行っている医療活動の紹介になりますが今までの経験を活かし、その地域のニーズに合ったフレキシブルな活動になっていけたらいいと思います。町を歩けば「先生!」と声をかけられ、「息子さん受験だね」とか「息子さん中学校の音楽会で指揮者をしていたね」とか夫婦でウオーキングしていると「仲のいい夫婦だね」とか言われるたびに私だけでなく市川家が南部町に受け入れられているように感じうれしく思います。「地域を守る、覚悟はあるか。」になっているかな?