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Episode.4 有効で安全な肥満治療の実現を目指して (2/8)  New

肥満の薬物治療と外科治療

小沢:肥満の薬物治療について教えていただけますか?

小沢一世さん

矢田:これまで半世紀ほど、抗肥満薬の研究開発が世界中で進められてきました。臨床の現場で使われたものもあるのですが、ほとんどがなんらかの副作用が出たために中止になっています。抗肥満薬には大きく分けて作用の仕方が違う3つの種類があります。

1つ目は食欲中枢に効くもの。食欲を抑制する薬が作られました。ところがこれは循環器の副作用や自殺率が増えるために中止となる歴史が続いています。これには、深いわけがあります。食欲を調節するニューロンのうち、神経伝達物質としてセロトニンやノルアドレナリンを持つものは、循環器や精神機能なども制御しているため、副作用が出やすいのです。将来、循環や精神に関与せず食欲だけを調節する神経を狙った治療ができれば、副作用のない薬ができるかもしれないですね。

2つ目はエネルギーを消費させるものです。体内の脂肪を分解した後に熱を産生してやればエネルギーが外に出ていく。しかし、その反応を促進する交感神経の伝達物質アドレナリンのβ3レセプターの活性化は、マウスではある程度上手くいくのにヒトでは上手くいかなくて、今止まっています。

3つ目は分解酵素の阻害剤です。大分子の形で摂取される糖は分解され、最終的に腸で二糖類分解酵素の作用を受けてグルコース(単糖)に分解された後に吸収されるので、分解させないで二糖類の状態でいれば吸収されにくい。そこで分解酵素をやっつける阻害剤を与えれば、少しずつしか分解されないし吸収も遅い。血糖値が上がらないということで糖尿病の薬として使われてきました。それから脂肪分解酵素の阻害剤もあります。糖と同様に食べた脂質は分解されないと吸収されないので、その分解を抑制するものを与える。そうすると脂肪の分解が遅延して吸収されにくくなる。日本で開発された薬があり、承認間近です。

もう一つ、グルカゴン様ペプチド(GLP-1:食後に腸から放出されてインスリン分泌を促進し血糖値を下げるホルモン)の関連薬があります。これは食欲を抑えて体重を落としてくれるので、現状で、肥満に一番有効で副作用が少ない薬だと思っています。しかしこれは糖尿病の治療薬なので、糖尿病のある肥満の方にのみ使うことが可能で、一般に肥満の治療薬として使うことはできないのです。

小沢:今ある薬は食欲を抑えて食べないようにする、エネルギー消費を促して溜まらないようにする、吸収できなくすればいいという3つの観点ですよね。内臓脂肪だけを合成できないようにするのは難しいのでしょうか。

矢田:それはとても良い発想ですね。今まさに基礎研究が行われています。内臓脂肪と皮下脂肪は分化がどう違うのか、それぞれの分化を誘導する因子や増殖を促す因子はどう違うのか、そういう研究が行われています。

小沢:じゃあ今後はもしかしたらそういう薬物治療の可能性も?

矢田:あるかもしれませんね。それに関連した話をすると、脂肪細胞は大きく分けると白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があります。白色脂肪細胞はエネルギーを溜めておく組織。皮下脂肪にしても内臓脂肪にしてもそうです。もう一つの褐色脂肪細胞は熱を産生する組織。溜めている脂を燃やして分解して熱にしてしまう。これはエネルギーを逃がすにはとてもいい。白色脂肪を褐色脂肪に転換できるという話が最近出てきて、今研究が活発に行われているところです。白色脂肪を褐色脂肪に変える操作や薬ができれば肥満の治療に使える可能性もあります。

小沢:海外だと肥満の外科手術も行われていますよね。

矢田:小沢さんよく勉強していますね。欧米などではBMIが35とか40のような高度肥満の人達もそう珍しくない。大きな健康障害が近々に予想される人達や、歩けないとか乗り物にも乗れないなど日常生活ができないという人達もいます。そういう人達はとにかく体重を減らす必要があるので肥満の外科治療が行われます。

矢田俊彦教授具体的には胃を操作するものです。胃を縛る「バンディング」、胃を外して十二指腸と食道を結ぶ「胃バイパス術」、胃の外側2/3を切り取って細く長い胃にする「スリーブ状胃切除術」があります。その結果、体重が劇的に落ち、さらに肥満に合併する糖尿病、高血圧や高脂血症も著明に改善することが多いため、海外では外科治療が頻繁に行われるようになり、現在世界で年間40万件に上っています。

ただし、肥満の外科治療は慎重に進める必要があります。まだ始まって日も浅いので、安全性や長期的な予後が明らかになっていません。私が理事を務める日本肥満学会では、食事療法、運動療法、内科的な治療を全て試みて上手くいかない場合や、肥満から予想される健康障害を放っておくことができない場合に限り、内科・外科・精神科/心療内科・栄養部などがチームを組んで行うことにしています。肥満の外科治療は自治医大では年間10例ぐらいかと思います。さらに重要な点は、日本で一番多いBMIが25-30の小太りの人達は外科治療の対象になりません。

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