第36回 学 術 集 会

第36回日本下垂体研究会学術集会のご案内

      
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(2021年 10月 21日)


第36回日本下垂体研究会学術集会のご報告

第36回日本下垂体研究会学術集会は、コロナパンデミックがダイヤモンドプリンセス号に端を発して3年目となり、ワクチン開発と治療法の開発により漸く社会が再稼働し始めた今年8月に東海大学山中湖セミナーハウスにて開催することが決まりました。当初、6月までは感染者数も抑えられ、明るい兆しが見えていたのですが、7月以降の急激な患者数増加に伴い、学術集会開催もon siteでは難しいのではないかとの状況となりました。

そこで、今大会の運営にあたり、事務局長である菊地元史先生及び幹事の先生方にご意見をお伺いした上で、
(1)政府から行動制限があればon siteは中止
(2)参加機関の行動制限が大多数になればon siteは中止
(3)山梨県の感染者数が関東近郊の他県と比較して高くなれば中止
(4)これら3つの原則以外の状況下では最大限の注意を払ってon siteで運営
この原則で準備を進めさせていただきました。
また、ハイブリッド開催については準備が出来次第その形式とすることとし、zoomでの開催体制は直前までに何とか整えることができました。現地参加者43名、on line参加者22名で、少々の不手際がありましたが、何とか無事にハイブリッド形式での運営を行うことができました。

また、今回の開催にあたっては、山梨県の感染者数が、関東近郊では一桁異なるほど低いなど、大変幸運にも恵まれました。また、開催数日後には台風など天候の変化もありましたが、幸い学会期間中は天候に恵まれ、山中湖畔の景色は訪れたことを後悔させない美しいものとなりました。

本学術集会の準備を進めながら、昨年開催された上田陽一先生が、どれほどお心を砕かれたかとやっと想像することができました。当初はファイルオンザデスク、エクスカーション、懇親会を予定しておりましたが、感染の急拡大に伴い、これは中止することにいたしました。先生方へどうにか歓迎の気持ちをお伝えしたいと思い、ご来場いただけた先生方には、「富士山クッキー」をお渡しすることにいたしました。また、高橋先生からは昨年同様、日本酒「浜千鳥」をみなさんへお贈りいただきました。北里大学は被災地東北に校舎と研究所があり、私の愚息も行く予定でしたが、震災の年入学のため、ついに足を運ぶことができなかった地です。まだ、お忘れなく当地を応援していらっしゃる姿勢に、感銘を受けました。
ファイルオンザデスクの代わりにフリートークを行いましたが、セミナーハウスにご宿泊でない先生にも足をお運びいただいて、本当にありがたく思いました。特に上田先生は、大変お忙しい中、わざわざおいでくださり、ご自分の昨年の学会のご経験から、私たち運営スタッフにもさまざまな場面で言葉をかけてくださり、写真も撮ってくださるなど、本当に細やかで深いお心遣いをいただきました。

さて、今学術集会のテーマについてですが、免疫学者の立場から見た下垂体・ホメオスタシスについて、異分野との融合を指標にした視点を持つことを目標にいたしました。
免疫学の分野に研究の軸足を置くと、そのカオスに足を取られそうになります。シンポジウムの前置きでお話しした様に、免疫系は、脊椎動物が進化するに従い、急速な進化を遂げたシステムです。その進化を推進したのは、レトロウイルスであると考えられています。彼らは脊椎動物のゲノムに侵入し、重複し、変化し、やがて認識力の高い獲得免疫系という特異的に侵入者を殺傷するシステムを構築しました。しかし、免疫系を活性化するシステムは飛躍的な進歩を遂げたにもかかわらず、収束、抑制システムは十分ではなく、しばしば免疫系の活動状態を示す炎症は遷延します。
同様に、胎盤の進化も著しく、哺乳類になってからその浸潤性は飛躍的に高まりました。このような胎盤の進化にも、レトロウイルスが関与していることが報告されています。そして、がんは胎盤で発現する様々な分子を用い、致死的な疾患を発症させます。
そのため、進化の過程で、視床下部・下垂体およびその下流の内分泌系がせっかく構築したホメオスタシスの系は、レトロウイルスが推進する進化の過程で、追いついていない部分があるのではないか、あるいは薄氷を踏む様なバランスの上に成立する個体のホメオスタシスは、環境要因により、いとも簡単に打ち破られてしまう様な脆弱なものになってしまっているのではないか、との仮説を立てることもできるかと思います。もしも胎盤が下垂体とクロストークすることができ、下垂体支配下に位置されれば、癌という疾患はなくなるのかもしれないのです。
その様な観点で、今回は、2つのシンポジウムを企画させていただきました。一つは「光環境と動物の行動」、もう一つは「下垂体とホメオスタシス、その撹乱」です。最初のシンポジウムは、すでに進化的に確立された外的環境に対する調節機構の研究について、松田恒平先生に企画をお願いいたしました。もう一つは、先生方に講演者をご推薦いただきながら、私が企画をさせていただきました。こちらは進化の過程で、生物は内分泌系を利用し、外的環境をモニタリングしながら自身の内的環境を構築し、それを次世代に繋ぐことができるか、それが破綻するとどの様な疾患が生じるのかについて、包括的に考える場とさせていただきました。
「光環境と動物の行動」では、高橋明義先生が、「魚類の行動に及ぼす光環境の影響」について、カレイ類におけるさまざまな色の光とMSHの複雑な関係性についてご講演くださいました。また、安東宏徳先生が、「月周同調産卵魚クサフグにおける生殖神経内分泌系の周期的調節」についてクサフグの脳を経時的に採取してRNAseqによりその遺伝子発現変化を見るという大変な実験を通した、体内時計の解析についてご講演くださいました。望月貴年先生は、昼行性ラットという珍しい行動様式をとる齧歯類を用いて、時計遺伝子およびそれに支配される睡眠覚醒行動についてご講演くださいました。渡邊桂佑先生は、α-MSHの体色調節と行動制御という2つの異なる作用の統合についてご講演くださいました。全体として、環境に対して動物が適応していく過程での内分泌制御について大変まとまったシンポジウムであったと思います。
また、「HPA軸とホメオスタシス、その撹乱」では、井口泰泉先生が、さまざまな動物の性決定の機構について、最初はマウスから、様々な種における温度依存生成決定まで幅広くお話しくださいました。生水真紀夫先生は、「エストロゲン・プロラクチンと生物進化」というテーマでプロラクチン受容体欠損症という疾患から始まり、進化の過程で様々な生物がプロラクチンをホメオスタシス形成に利用してきたのではないかという仮説まで、非常に俯瞰的なご講演をしてくださいました。また、根本崇宏先生には、「胎生期低栄養により誘発する下垂体グルココルチコイドフィードバックの異常と疾患発症リスクの形成」というテーマで、環境要因によって引き起こされるエピジェネティックな変化が、世代を超えて維持される現象についてご講演いただきました。大須賀智子先生には、「アンドロゲン暴露によるキスペプチン/ゴナドトロピン分泌異常と不妊症(多嚢胞性卵巣症候群))というテーマで、アンドロゲン暴露によるHPG軸の変容の疾患モデルのご講演をいただきました。それぞれ大変興味深く、ホメオスタシスの撹乱が進化に及ぼす影響について深く考えさせられました。
今後の下垂体研究に、何らかの示唆のあるシンポジウムとなっておりましたら、企画者として、大変光栄に思います。

また、本大会では、特別講演として、名誉会員でいらっしゃる長村義之先生にお越しいただき、「WHO 5th 2022における下垂体腫瘍 Update: Pituitary Neuroendocrine Tumor (PitNET)」というテーマでご講演いただきました。最新の下垂体腫瘍に関する名称についての大変興味深い議論を拝聴いたしました。長村先生もご帰国直後でしたが、お疲れのところ山梨まで来てくださりました。

スペシャルトークでは、山梨県水産技術センター忍野支所の青柳敏裕先生に、「富士五湖の魚類」というテーマで、特にクニマスの歴史についてお話しいただきました。本当は、エクスカーションで忍野八海を訪問する予定でしたので、もしこれが実現していれば、さらに興味深い体験ができたかと思います。
教育講演では、実験動物中央研究所の伊藤亮治先生に、「免疫不全マウスの開発とヒト化マウスへの応用」というテーマで最新のヒトを模倣するマウスについてのお話をいただきました。
当初意図した内容は未熟なものであったにもかかわらず、先生方のご講演により、今回の講演は大変素晴らしいものになったと存じます。
ご講演いただいた全ての先生方に深く感謝申し上げます。

また、第21回(2022年度)吉村賞の発表・授賞式・受賞講演が行われました。

吉村賞
渡辺 元(東京農工大学)
「哺乳類におけるインヒビンによる卵胞刺激ホルモン分泌調節の解析とその応用」
渡辺先生は、大変な質・量のご研究があり、インヒビンに関するご研究についても大変深いお話をしていただきました。

また、最優秀発表賞の候補には7名の方が応募し、大変素晴らしい発表をされました。以下の方々が最優秀発表賞・優秀発表賞に選ばれ、表彰されました。

最優秀発表賞 副島佳晃 (岡山大学)( on line)
「オレキシンおよびBMPシグナルが下垂体ゴナドトロピン分泌に与える影響」

優秀発表賞 峯 朋葉(神奈川大学)
「ラット下垂体におけるサイロスティムリンαサブユニット(Gpa2)発現細胞の同定」
優秀発表賞 和泉知輝(東邦大学)
「ウナギC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の受容体解析と受容体脳内マッピングによる新規機能予測」

長い間下垂体研究に真摯に向き合ってこられた先生方、将来の下垂体研究を担う若き先生方の今後のさらなるご活躍に、大いに期待したいと存じます。

一般演題にご参加いただいた先生方、また、座長の先生方、on lineからご発表やご質問くださいました先生方も、活発な議論で会を盛り上げてくださいました。
全ての参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。

最後に、本大会開催にあたり、全てについて支えてくださいました菊地元史先生と、折々にご相談に乗っていただきました上田陽一先生、高橋明義先生、阿見彌典子先生はじめ幹事の先生方、そして東海大学チームで支えてくださいました大会実行委員長の関敏郎先生、和泉俊一郎先生とラボメンバー、特に献身的に本大会運営にあたってくださった杉山久枝さんに深謝いたします。

来年は宮崎大学・内田勝久会長のもと、宮崎の素晴らしい景観の中でお会いし、議論を深めることができることを祈念いたします。



2022.8.29
第36回日本下垂体研究会・学術集会・会長
東海大学医学部客員准教授・亀谷美恵


(2022年 8月 29日)