形成外科学講座

顔面神経麻痺

顔面神経は表情筋を動かして、眉毛を挙げる、目を閉じる、笑う、口をすぼめる、唇をひっぱるなどする神経です。顔面神経麻痺になると、まぶたを開ける、目を動かす、アゴを動かすなど生きていくために必要な動きは残るのですが、顔が曲がってしまったり、目が閉じにくくて乾いてしまったりして、一番困るのは見た目が悪くなってしまいます。
原因はケガやできもの、手術でなることもありますが、特発性といってウイルスの感染などで突然なってしまうこともあります。形成外科は顔面神経麻痺の手術治療を専門としています。手術の方法も、大きく根治的治療と対症療法の二つに分けられます。
運動は、脳から出る命令を、神経を介して筋肉に伝えられます。分かりやすく、脳を電池、神経を電気コード、筋肉をモーターに例えて説明しましょう。

電気コード、つまり神経がだめになってしまいました。原因は、ケガや手術で切れてしまうこと、ウイルスなどでコードを電気が通らなくなることです。原因がはっきりせずに突然発症する場合はウイルスなどによる特発性と呼ばれ、ステロイドなどでよくなる可能性があるので、すぐに耳鼻科などに行きましょう。ケガや手術でコードが切れてしまった場合は、つなげばいいので、神経吻合術を行います。

神経をつなぐ場合は、つなぐ両側がないとできません。腫瘍や外傷の多くは、神経の出口付近でダメになることが多く、根っこをみつけることができません。この場合、べつのシステムから電源をもらう方法があります。これが神経バイパス法です。一般に舌を動かす舌下神経のシステムを使います。足や首などのとっても大きな問題になりにくい神経をとってきて、神経をバイパスするのです。たこ足配線みたいですね。ここまではもともとの表情筋をそのまま再建する方法なので、根治的治療です。

次はモーター、つまり表情筋がだめになってしまった場合です。原因はケガやできものによる筋肉そのものの障害もありますが、問題は陳旧性といって、麻痺の期間が長くなったために筋肉が動かなくなってしまうものです。モーターがさび付いてダメになったと思ってください。この場合、動かさなかった表情筋すべてだめになってしまうので、一部だけが障害される外傷などとは異なり、すべての表情筋が動かなくなってしまいます。

さて、モーターがダメになった場合、この図ではモーターはひとつだけですが、実際の筋肉は30種類くらいある、つまり、30個くらいのモーターがあるので、すべてのモーターを再建するのは不可能です。そこで別の考え方をします。症状ごとに対して治療を行う対症療法です。
眉毛が下がってものが見にくい場合、眉毛を挙げた状態で固定する手術をします。眉毛の上の皮膚を切って行う方法や、内視鏡でおでこの皮膚全体をひっぱり挙げて固定する方法などがあります。 目が閉じにくい場合、これは角膜障害など視力悪化の原因にもなりうるので可能な限り早期に行います。上まぶたにおもりをいれたり、下まぶたをもちあげて軟骨で固定したり、側頭筋とい噛む筋肉をずらしたりする方法があります。
口が曲がってしまっている場合、もしくは笑いの表情が出来ない場合、笑いというのは動きがあるので基本的には背中やふとももの筋肉を移植する方法をしていますが、ほかにも側頭筋をずらしたり、ふとももの筋膜でつりあげたりする方法があります。
他にも、下唇をひっぱったり、顔全体をひっぱりあげたり、いくつか方法をありますが、外科治療というのは負担も伴うので、患者さんの状態と天秤にかけて相談して決めます。 このように対症療法は、1-2週間の入院を要するものから日帰りの簡単な手術までたくさんの方法があります。悩んでおられる方は、まずは相談に来てください。

形成外科で扱う疾患