形成外科学講座

乳房再建

近年、乳腺科による乳癌治療の進歩ならびに形成外科との連携により、乳癌手術のあとの乳房の欠損を再建することが可能となってきました。侵襲の小さい手術も増えて治療法の選択肢も広がり、またその多くの再建治療が保険診療で受けられるようになってきました。
しかし、乳房再建も外科手術であるが故にそれにともなうリスクもあります。再建の方法も一通りではなく、患者様の乳房の切除範囲、体型、健側乳房の大きさや形、生活環境や個人の希望により再建方法の選択肢が異なります。
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乳房再建とは

乳がんの治療のための、手術や放射線治療でできる乳房の欠損や後遺障害を、元に戻すための再建手術治療のことです。
乳房の大きさや形を回復することだけでなく、乳房の傷跡や引きつれ、皮膚の硬さや色など、組織の形態や機能に関するあらゆる問題を取扱います。

乳房再建を受けるためには

まずは担当の乳腺科の先生に、検討したい考えがあることを伝えて、乳癌の治療方針や再建治療の時期などについての指示やアドバイスを受けることになります。

ここでは、代表的な再建の方法について概略を説明します。それぞれの治療法の詳細については、自治医科大学形成外科の乳房再建外来(月曜、水曜、木曜の午前中)を受診して、具体的な説明を受けてください。最終的には患者さんご自身で再建治療の方法を選択することになります。

これから乳房全摘手術を受ける方

乳房再建を希望する患者さんの多くは、乳房全摘手術を受けることになります。

乳腺全摘手術を受ける方で放射線治療の予定がない場合は、乳がんの切除手術と同時に再建治療を始めることが可能な場合があります。このような再建を一次再建と呼びます。再建治療は、時間が経ってから、受けることもできます。そのような再建を二次再建といいます。

一次再建では、自分の身体の別の部分の組織を移植して再建する治療(皮弁移植)と、まずは組織拡張器(別名:ティッシュエキスパンダー、略してエキスパンダーとも呼ばれます)を挿入して皮膚を拡張して取り戻す治療を行う場合があります。以下に、一つずつ説明致します。

皮弁移植による再建方法

皮弁移植とは、自分の皮膚と皮下組織を一塊として別の場所に移動させる方法です。お腹の臍の下の組織(腹直筋皮弁やDIEP皮弁と呼ばれます)や、背中の組織(広背筋皮弁やTAP皮弁と呼ばれます)が利用されます。ともに、採取した場所に、横方向の長い線状の傷跡が残ることになります。ご自身の組織を使い、欠損部の組織と皮膚を同時に再建することが可能です。お腹と乳房に移植した皮弁に線状の傷跡ができますが、一度の手術で再建することができます。

エキスパンダーを挿入する方法

乳がんの手術と同時に、もしくは、時間が経ってから、エキスパンダーという風船のような人工物を胸筋の下に挿入します。左図のティッシュエキスパンダーには、針を刺して、水を入れて、膨らませることができます。

エキスパンダーは永久に入れておくものではありません。手術後に外来に通院して、この人工物に少しずつ水を入れて膨らませることによって、乳房の皮膚を拡張していきます。数か月をかけて皮膚が十分に拡張したら、この人工物を取り出す手術を行います。エキスパンダーを取り出して、インプラントや脂肪で置き換えることになります(詳細後述)。

エキスパンダーを用いる利点は、皮弁移植のように身体の他の部分を犠牲にする必要がなく、侵襲の小さい手術で、切除された皮膚を取り戻すことができることです。但し、入替が必要ですので、複数回の手術が必要になります。

*乳房全摘で放射線治療を受ける予定の方

すぐにエキスパンダーを入れることができませんので、乳房再建を検討される場合は、形成外科を受診して、個別にご相談ください。

*これから乳房温存手術を受ける方

乳房温存手術を受ける患者さんは、乳房再建をする必要はありません。ただし、術後の傷跡や変形などが気になる場合には、治療を行って改善できることがあります。詳しくは、自治医科大学形成外科の乳房再建外来で、ご相談ください。

乳房全摘後にエキスパンダーを入れた方

エキスパンダーは数か月を目安に取り出します。それを置き換えるものとして、①インプラント、と②ハイブリッド法(インプラントと脂肪注入移植の併用)があります。

インプラント(人工乳房)

乳房インプラントは、シリコンジェルが充填されたバッグで、長期的に体内に入れておくことができるものです。大きさ、形、表面の 性状の違いで、多くの種類の中から適切なものを選んで使用します。利点は身体の負担が小さい手術であること、欠点は人工物であるため乳房の形や硬さが自然とは違うこと、長期的には新しいものに入れ替える必要があること、などです。

ハイブリッド法(インプラント+脂肪注入移植)

脂肪注入とは、自分の身体のお腹や太ももから、皮下脂肪を吸引して、乳房に注射する方法です。ハイブリッド法では、エキスパンダーを取り出して、小さいインプラントを入れると同時に、その外側の皮下には脂肪注入移植を行う方法です。欠点は侵襲が小さいとはいえ、自分の身体から組織を取る必要があること、移植で生着するのは半分程度であること、利点はインプラント単独よりも自然に近い形態や柔らかさが得られること、その後の手術でインプラントを完全に取り出すことができる(ステップ法)ことです。

ハイブリッドから脂肪だけの乳房へ(ステップ法)

下半身の皮下脂肪が多い方は、ステップ法を用いて、最終的にはインプラントを取り出して、自分の脂肪だけの乳房にすることも可能です。ハイブリッド法で再建した後、半年の間をおいて、2回目のハイブリッド(小さいインプラントと脂肪注入)を行います。さらに半年の間をおいて、この小さいインプラントも取り出して脂肪注入を行います。欠点は、複数回の治療で、治療期間が長期にわたること、利点は最終的に人工物の心配から解放されるとともに、自然な形態と柔らかい乳房を獲得できることです。 この治療法の詳細はこちら

過去に乳がんの手術を受けた方(二次再建)

乳房全摘で放射線治療をしていない方は、エキスパンダーを入れて、インプラントやハイブリッド法を行うことが可能です。それ以外の場合は、皮弁法や脂肪注入などの自家組織を用いた治療を利用した治療を組みいれます。これまでに受けた治療やご希望に応じて、カスタマイズした治療計画をご提案します。

*乳房温存術後変形に対するBrava®と脂肪注入による治療

最近の乳癌手術では乳房温存術が主流となり、当院においても70%近い症例に施行され、可能な限り乳房を温存する方向に変わってきています。しかし癌の部位や元々の乳房の大きさによっては、温存といえどもかなりの変形が生じることが少なくありません。さらに温存術の場合は、術後に放射線照射が必須となるために皮膚の拘縮も強く人工物での修正は困難となります。このような変形に対して、BravaRを併用した脂肪注入を導入して治療を行っています。

*その他の変形に対するBrava®を併用した脂肪注入による治療

その他の様々な乳房の変形に対しても、適応を選んで積極的にこの術式を適応しています。

*その他の変形に対するBrava®を併用した脂肪注入による治療

*その他の変形に対するBrava®を併用した脂肪注入による治療

当たり前のことですが、乳がんの治療が最優先です。乳房再建の是非、受けられる時期などについては、乳腺科の担当の先生の指示に従ってください。この冊子に記載のある治療はすべて保険診療で行うことが可能です。ここに記載してある内容がすべてではありませんので、患者さん個々人に応じた最適な治療選択のためにも、実際に診察を受けて、相談してください。

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