自治医大神経内科の目標は、質の高い最高レベルの診療の実施、神経内科若手医師の教育・育成、最先端の臨床神経学的研究の遂行です.この三者は3つはそれぞれが孤立して行われるのではなく、互いに有機的な関連を持って実施されるのが理想です.日常の神経内科診療を通して新たな研究テーマを見出し、研究成果が診療に反映される.そしてこのような、活気ある環境の中で若手神経内科医が育ち、より優れた診療と研究と教育を発展させていくこと、これが我々の目指すところです.
当科は、自治医大脳神経センター内科部門として51床という、神経内科としてはまれに見る多くの病床を擁しています.診療対象疾患は、脳血管障害、てんかん発作、髄膜炎・脳炎などの救急疾患から、慢性に経過するALSやParkinson病などの神経変性疾患、さらには重症筋無力症、ミオパチーまでほぼ全ての神経・筋疾患が網羅されています. 新入院患者数は週平均15人、年間では800人近くになります.症例の内容も豊富で、上に述べた疾患に加えて、痙攣重積、Gullain-Barre症候群、慢性炎症性多発根ニューロパチーなども日常的に入院します.私にとって教科書の中の病気でしかなかった破傷風にも年に1例はぶつかります.先ほども、破傷風患者が一人入院し、典型的な痙笑が見られました. 私が医学部を卒業した頃は、神経疾患は治らないと言われていました.しかし、今は違います.「治る神経内科」と言われます.重症筋無力症、Guillain-Barre症候群、慢性炎症性多発根ニューロパチー、脳炎の多くは治るようになりました.難治性てんかんやParkinson病の治療薬も数多く開発され、その用い方によって症状が非常に軽くなります.まさに、神経内科医の腕の見せ所です. 当科では、内科的治療の他にも種々の先端的治療を行っています.Parkinson病に対しては脳神経外科と共同で深部脳刺激術を実施し、好成績を挙げていますし、顔面痙攣、痙性斜頚のBotox治療、物忘れ外来での認知症診療にも積極的に取り組んでいます. 他科との連携も良好です.当科は内科学講座の一部門であり、また脳神経センターの内科部門でもあります.このような関係で他の内科、脳神経外科とは緊密良好な関係を保っております.特に脳神経外科とは年に数回合同カンファランスを開いて症例を検討し、つながりを深めて互いの診療の質を上げております. 脳卒中センターの開設:神経内科と脳神経外科が中心となり、放射線科、救急救命センター、放射線科、リハビリテーション、看護部、地域医療連携部を巻き込んで自治医大脳卒中センターが2008年4月に稼働し始めました.これと連動して、脳卒中センターが中心となって、近隣の急性期病院、回復期リハビリテーション病院、慢性期診療施設と共に薬師寺脳卒中ネットワーク(http://www.jichi.ac.jp/brain/yakushi/index.htm)を構築し、脳卒中を急性期から慢性期まで効率良くかつ円滑に診療できる体制が整いました.脳卒中地域連携パスも作成し、順調に活用されています. 2005年10月よりrt-PA治療が認可されました.当科は早速この治療法を取り入れ、2008年4月からは脳卒中センターとしてrt-PA治療を行ってきました.積極的にかつ治療適応を遵守して実施した結果、大きな副作用もなく実施症例は2008年2月までに24例に達しました.この中には脳底動脈の塞栓で突然昏睡に陥ったもののrt-PA治療によって正常なADLに復した劇的効果例もあります.今後はこの大きな可能性を秘めた方法を正しく使うべくrt-PA療法の周知を図り、脳卒中患者の早期来院を促していくべつ関係方面に働きかけています.
研究に関しては、臨床神経学の基礎的な研究から臨床・治療研究まで幅広く行なっています.当科ではパーキンソン病の遺伝子治療臨床研究を押し進めています.ドパミン合成酵素の1つである芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素(AADC)を搭載したアデノ随伴ウイルスをパーキンソン病患者の被殻に定位脳手術的に注入し、発現したAADCの基質となるL-DOPAを経口で投与する治療戦略です.この臨床研究第I / II相では予定したParkinson病6例への遺伝子導入が終了し、現在解析を進めているところです.遺伝子治療前臨床研究として、脳梗塞やALSのモデル動物の遺伝子治療、さらには再生医療の研究も行っています. 分子遺伝学的研究も精力的に行っています.その対象疾患は、脊髄小脳変性症、遺伝性痙性対麻痺、ALSなど各種変性疾患であり、学外施設との共同研究も数多く行い、その機序に迫り、治療法を見出すべく努力しています. また、パーキンソン病の深部脳刺激に関する治療研究、ALSの喉頭摘出などの対症療法研究、またレスピレーターを装着したALS患者の意思伝達手法の研究も積極的に展開し、患者のQOL向上に寄与しています.重症筋無力症や大脳皮質基底核変性症など、当科に集積されている多数症例の治療効果判定研究や予後研究も精力的に行っています. 我々は症例報告にも力を入れております.歴史上、1例報告から新たな疾患の発見・確立へと至った事例は数多く見られます.それのみでなく、貴重な症例の知見は個人あるいは一施設の経験に終わらせることなく広く世に知らせて、他の患者の診療に役立てる、これも我々の重要な責務です.
若手神経内科医師の教育は、当科の、ひいては我が国の臨床神経学を担う人物を育てることであり、最重要事項と位置づけています.当科には上に述べたように豊富な症例があり、優秀な指導医がいます.彼らを先達として適切な指導を受け、症例を数多く経験することにより、優れた神経内科医がこれまで多数育ってきました. 神経内科診療と教育はベッドサイドに始まりベッドサイドに終わるというのが私の信条です.病歴をきちんと取り、多く診て良く診る、そしてよく考える、これに勝る研修はありません.その際の先達の役は、私と当教室のスタッフが引き受けます.回診は毎週水曜日午前7時半からのチャートラウンドで始まります.その際、新入院患者の中から、神経学的に検討を要する1人ないし2人をカンファランスルームで診察します.私が神経所見を取り、全員で議論します.若い医師は、この時の私の診察法を観、教室員との討論を通じて確実に実力が付いてゆきます. 神経救急は毎日のように入院する脳血管障害や脳炎・髄膜炎、あるいは痙攣重積例から学ぶことができます.関連諸科からのコンサルテーション依頼も多く、脳神経外科、整形外科的神経疾患を学ぶことができ、Medical Neurologyの力が養われます. 毎週火曜日の夕方には、MRIを中心とした画像カンファランスを約2時間行い、画像の読み方を学びます.神経生理学的な知識と基本的な技能の習得は生理グループが教えています.神経病理は、本学病理学教室と共同で私が神経疾患のBrain Cuttingを行い、所見の読み方を教えています.筋生検、神経生検は受け持った症例を通して指導医の指導のもとで直に経験できます.現在の神経学に必須である分子生物学的な知識や考え方は、当科の分子遺伝学グループから学ぶことができます.日々進歩している治療法も日常の診療の中で身につけてゆくことができます. このようにしてオールラウンドの研鑽を積み、卒後6年を経て7年目には神経内科専門医の受験資格が得られ、高い合格率を誇っています. 今、神経内科医は非常に不足しており、神経内科医の需要は高まる一方です.当科は神経疾患の診療と研究に熱意を持って取り組む若い医師を求めています.「日新(日に新たに)」をモットーに我々と共に神経内科診療に取り組もうではありませんか.