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研究情報

[医学部] 小児神経難病AADC欠損症に対する遺伝子治療で全例運動機能が改善 さらに認知機能の改善・治療の安全性も確認〜重症型は寝たきりから歩行器歩行へ、中間型は介助歩行から自転車走行・独歩へ〜研究成果がBrain誌に掲載

2019年1月25日

ポイント

  • 自治医科大学 山形崇倫らは、小児神経難病の一つである芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素(以下AADC)欠損症患者に対し、2015年6月29日から遺伝子治療を行っている。国内外の6例の患者(重症型5例、中間型1例)の長期経過をまとめた。
  • 重症型全例で、全身が強直するジストニア発作が消失し、QOLが大きく改善した。
  • 運動機能の改善について、重症型では治療前寝たきりの状態から、自力で歩行器歩行や背這い移動が可能となった例もある(5例中3例)。中間型では、治療前は手を引いて歩く介助歩行だったが、自力で走り、自転車やブランコに乗るなども可能となった。
  • 認知機能は、中間型では治療前は単語数語のみの発語から、九九を計算しスムーズな会話が可能となるなど著明に改善した。
  • 観察期間(6か月〜2年7か月)において、遺伝子治療ベクターによる副作用は確認されなかった一過性の舞踏病運動は全例にみられたが、6か月以内にほぼ消失した。1例で無症状の軽度硬膜下血腫が手術直後一過性に観察された。

概要

自治医科大学 小児科学教授 山形崇倫らは、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業「AADC欠損症等の小児神経疾患に対する遺伝子治療法開発」において、難治性小児神経疾病であるAADC欠損症患者にアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を2015年より実施しています。これまでに治療を実施した国内外の6例の患者(重症型5例、中間型1例)では、全例で運動機能が改善し、認知機能の改善も得られています。

治療後、遺伝子治療による副作用は現在のところありません。一過性の舞踏病運動は全例にみられましたが、6か月以内にほぼ消失しました。1例で無症状の軽度硬膜下血腫が観察されました。

また、治療前は頻繁に見られた全身が強直するつらいジストニア発作が治療後数か月で消えました。

AADC欠損症

ADCは重要な神経伝達物質であるドパミンやセロトニンの合成に必須な酵素です。ドパミンは、おもに線条体というところで運動機能を調節します。ドパミンの欠乏により、体をうまく動かすことが出来なくなり、また、ジストニアなどの不随意運動が起こります。セロトニンは、睡眠、食欲、体温などの体のリズムや感情などの調節に関わっています。

AADC欠損症は、生まれつきAADC遺伝子の変異により、AADCが働かなくなる常染色体劣性遺伝性の疾患であり、現在、世界中で140例程度、日本では8例が診断されている希少疾病です。重症型は乳児期早期に発症し、眼球が上転する発作や全身を硬直させる発作(ジストニア)がみられます。自発的な運動は少なく、首もすわらず、ほとんどの患者が生涯寝たきりの生活を送ります。重症型が80%を占めますが、運動発達遅滞・知的障害を呈するも独歩可能な軽症型が5%、その間の表現型の中間型が15%です。根本治療はありませんでしたが、2012年に台湾から、AADC欠損症に対する遺伝子治療を実施し運動機能の改善がみられたという結果が報告されました。

なお、小児神経難病にはAADC欠損症のように単一遺伝子変異により発症する疾患は多く存在します。

AADC欠損症の遺伝子治療

定位脳手術により両側線条体(被殻)へAAVベクターにヒトAADC遺伝子を組み込んだAAV-hAADC−2ベクターを注入する遺伝子治療が、自治医科大学附属病院/自治医科大学とちぎ子ども医療センターで行われました。

【定位脳手術のイメージング画像】
両側被殻(各2か所、計4か所)へ定位脳手術により、
AAV-hAADC-2ベクターを注入しました。

AADCの働きを検出するFMT-PET検査で、治療前は被殻に信号がみられませんでしたが、治療6か月後、さらに2年後のPET検査で被殻にAADCが働いていることが確認されました。

AADCを検出するFMT-PET検査

治療前は脳全体にAADCの発現が見られないが、
治療6か月後・2年後にベクターを注入した両側被殻で、AADCの発現を確認した。
遺伝子治療が成功し、AADCの発現が長期間見られている。

治療効果

運動機能の改善:
運動機能をAlberta Infant Motor Scales(AIMS)を用いて評価したグラフでは、重症型(Patient 1,2,4,5,6)の全員で数値が上昇し、運動機能が改善していました。Patient 2は自力で歩行器歩行が可能、車椅子の自走ができ、家の中は背這いや寝返りで自由に移動できるようになりました。中間型のPatient 3は、治療前は手を引いてもらう介助歩行でしたが、治療後には自力で走り、自転車やブランコに乗るなど運動機能が改善しました。

認知機能の改善:
中間型 Patinet3は治療前は数単語の発語のみでしたが、会話がスムーズにでき九九を全て暗唱するなど言語機能が改善しました。新版K式発達検査においても、言語―社会性の発達指数が、40から84と改善しました。(70以上は正常域)

ジストニア発作の消失・気分の安定:
週に数回、数時間持続する四肢を強直させるジストニア発作で、患者本人・家族は苦しい思いをしていました。治療後約2か月で全例でジストニア発作が消失しました。また常に機嫌の悪さが見られていましたが、治療後は笑顔が増え、穏やかに過ごすことができ、QOLが大きく改善しました。

今後の発展

今回報告した6例の他に、さらに2名のAADC欠損症患者に遺伝子治療を実施し、順調に経過しています。

AADC欠損症と診断されている患者は他に日本に2名おり、また、海外からの治療希望者も10人以上います。

AADC欠損症の診断は、髄液検査が必要で、診断が困難であるため、未診断の患者もいることが考えられます。そのため、自治医科大ではAADC欠損症の酵素活性および遺伝子検査を可能にし、少量の血液で患者を早期に診断するスクリーニング体制を構築し、パイロットスタディを行っています。今後、全国展開を行い早期診断・早期治療が行えるようにする事を目標としています。

AADC欠損症に対するAAVベクターを用いた遺伝子治療の有効性と安全性が示唆されました。本治療は、未だ治療法が無い多くの難治性小児神経疾病の治療法開発に光明をもたらす成果です。本研究の成功は、AADC欠損症の治療が可能になっただけではなく、多くの難治性小児神経疾患に対するAAVベクターを用いた遺伝子治療法開発への第一歩を踏み出す成果であると言えます。

研究協力者

治療用AAVベクターは、共同研究者 自治医科大学 神経内科学特命教授 村松慎一らが開発し、日本のタカラバイオ社に委託しGood Manufacturing Practice(GMP)グレードで製造されています。定位脳手術は自治医科大学 脳神経外科学講師 中嶋剛、術前術後の患者管理は自治医科大学 小児科学講師 小島華林、宮内彰彦らと、麻酔科学准教授 多賀直行らが中心になり実施されました。酵素活性測定、遺伝子診断は、自治医科大学 小児科学教授 小坂仁が実施しました。他に、自治医科大学 遺伝子治療研究部教授 水上浩明、昭和大学医学部 小児科学講師 加藤光広、自治医科大学子ども医療センタースタッフ一同の協力の下に実施されました。

本研究の論文は下記のアドレスからご覧いただけます。