自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

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腹部大動脈瘤

大動脈は体の中で最も太い血管です。心臓から上向きに出た後、弓状に左後方へ大きく曲がり、腹部方向に下っています。心臓から横隔膜までを胸部大動脈、横隔膜から下の部分を腹部大動脈といいます。
腹部大動脈の直径は正常では約2cmですが、正常の1.5倍である3cmを超えると、腹部大動脈瘤と呼ばれます。腹部大動脈瘤とは、血管壁がもろくなり大動脈にできた“コブ(瘤)”のことで、動脈硬化や高血圧が原因で発症します。特に喫煙との強い関連性が報告されています。時間経過とともに徐々に大きくなり、最終的には破裂し、死に至ります。破裂するまで無症状のことが多いのでサイレントキラーと呼ばれることもあります。一旦破裂すると、救命することは難しく、現在の医療でも、破裂症例の死亡率は90%近くにも上るといわれています。ですので、腹部大動脈瘤が、もし何らかの形で発見されたのであれば、破裂前に治療を行うことが大切です。瘤の直径が4~5cm以上になると破裂のリスクが高くなり、治療対象となります。また、動脈壁の一部が突出して拡張するタイプの嚢状瘤や、感染を起こしている感染性大動脈瘤などではサイズが小さくても破裂しやすいため、手術治療が推奨されています。 

腹部大動脈瘤の治療方法(薬物・手術)

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◆薬物治療
動脈瘤自体を小さくする薬はありませんが、動脈瘤のサイズが小さい時には、破裂・拡大予防として血圧を下げる薬が使用され、定期的な経過観察を行います。また、喫煙は大動脈瘤の拡大を進行させる大きな要因の一つであり、禁煙が非常に重要です。経過観察中に、破裂のリスクが高まる大きさになると、人工血管置換術あるいはステントグラフト内挿術(EVAR)を行うことが唯一の治療法となります。管の内腔を確保します。

◆手術治療
腹部大動脈瘤の治療については、大きく分けて二つの方法があります。一つはおなかを開けて大動脈瘤を直接切開し、人工血管で置換し、縫合糸で縫合する人工血管置換術です。二つ目はカテーテルを挿入してステントグラフトを大動脈瘤内に装着するステントグラフト内挿術(EVAR: endovascular aortic repair)です。それぞれ、長所と短所があります。

開腹手術とは

通常の開腹手術による人工血管置換術では15~20cm程度の腹部正中切開を行います。腹部大動脈の血流を一時的に止め(遮断といいます)、動脈瘤に代わり、人工血管を大動脈の健康な部位に縫い付けて埋め込む手術です。この治療法によって動脈瘤の破裂を未然に防ぐことができます。手術による患者様への負担がステントグラフト内挿術と比較して大きいため、高齢の患者様、全身状態に問題のある方、多数の開腹歴のある方には合併症の危険率が高くなるという問題もあります。しかし現在のところもっとも確実な治療とされる方法であり、近年の米国の大規模多施設研究でも、開腹手術の方が遠隔期の血管関連イベントが少ないという報告がなされています。開腹手術のもう1つの欠点は、開腹操作によるもので、 大動脈イベントが少ない一方、ヘルニアや腸閉塞などの合併症を遠隔期に起こしやすいことも知られています。

ステントグラフト内挿術(EVAR)とは

比較的新しい方法です。ステントグラフトとは、人工血管にステントと言われるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管です。これを圧縮して7-8mmの太さの棒(シースといいます)の中に収納します。両方の足の付け根に4~5cmの小切開を行い、動脈内にカテーテルを挿入し、腹部大動脈瘤の部位まで運んで収納してあったステントグラフトを放出します。放出されたステントグラフトは、金属バネの力と患者様自身の血圧によって広がって血管内壁に張り付けられるので、開腹手術のように直接縫い付けなくても自然に固定されます。大動脈瘤は切除されず残っているわけですが、ステントグラフトにより動脈の壁が2重に補強されることにより、かつ大動脈瘤が蓋をされることになり、瘤内部の血流が減少し、かさぶたのようになります(血栓化といいます)。血流による瘤の拡大を防止できれば破裂の危険性はなくなります。このように、ステントグラフトによる治療では腹部を切開する必要がなく、切開部を極めて小さくすることができ、患者様の体にかかる負担は少なくなります。 EVARは国内10学会から構成される「日本ステントグラフト実施基準管理委員会」(http://stentgraft.jp/、一般の方向けのサイトもございますのでぜひご覧ください)によって認定された施設・医師のみが行うことのできる手術です。当院では2008年に腹部大動脈瘤ステントグラフト実施施設に認定され、EVARを開始し、現在(2020年12月)までおよそ480例の治療を行っています。当院の手術死亡率は1%以下であり比較的安全に行える治療法です。

手術方法の決め方

ステントグラフト内挿術は確立した治療法ということができますが、すべての患者様に安全に実施できるわけではありません。ステントグラフト内挿に伴う解剖学的要件(瘤の部位、形態、動脈壁の性状など)が細かく決められていますので、術前CTを詳細に検討し、さらには全身状態等も十分に考慮してEVARまたは開腹手術の適応を決めることになります。また、EVARは比較的新しい治療法ですので、長期成績が不明瞭なところもあり、近年の米国の多施設大規模研究では、追加治療などの血管関連イベントの発生率が高いという報告がなされました。
特に大きな病気をもっていない若い患者様にとっては開腹手術の方が確実で安全な治療法となることもあります。当科は、なるべく患者様の希望に沿った治療法を心がけていますので、外来で是非一度ご相談ください。

腹部大動脈瘤の治療実績

当科における腹部大動脈疾患手術の治療実績を下記に示します。現在、自治医科大学附属さいたま医療センターでは、主に腹部大動脈瘤を対象疾患として、手術治療(開腹手術+ステントグラフト内挿術)を年間120-150件程度実施しており、これは国内有数の規模を誇ります。待機的手術に関していえば、開腹手術の在院死亡率は1.5%程度ステントグラフト内挿術の在院死亡率は1%以下と良好な治療成績が得られています。
腹部大動脈瘤破裂に対する緊急手術も、年間10-20件程度実施しております。動脈瘤は破裂してしまうと、何とか病院にたどり着くことができても出血多量により、術前の状態が悪いため、在院死亡率は15%と通常よりかなり高い死亡率になります。 私どもは、今後も、近隣の循環器科・救急診療に携わる先生方と連携して、埼玉県在住の皆様方の健康な生活の維持に貢献していきたいと考えております。
尚、自治医科大学附属さいたま医療センターでは、手術治療のみならず、腹部大動脈瘤の病状診断と定期的なCT検査による経過観察も実施しています。近隣地域のみならず、遠方からの受け入れも積極的に対応しております。検診などで、腹部大動脈瘤の可能性があると診断された方は、かかりつけの先生より紹介状をいただき、お気軽に当科外来を受診してください。

冠動脈バイパス手術件数
冠動脈バイパス手術件数

連絡先

心臓血管外科外来は毎日行っていますので、お時間に余裕があれば下記予約コールセンターまでご連絡ください。

お急ぎの場合は、心臓血管外科担当医師と直接相談いただければと思います。