自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

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スタンフォード大学心臓胸部外科学教室

横山 野武(群馬大学医学部平成23年卒)

スタンフォード大学は、アメリカ、カリフォルニア州シリコンバレーにある創立130年ほどの伝統のある私立大学です。各界に著名人を多く輩出し続ける全米でもトップレベルの大学で、サンフランシスコから車で1時間ほどのパロアルトという町にあります。緯度としては埼玉よりも若干北に位置していますが、地中海式気候で年間300日の晴天があり、夏は涼しく冬もそこまで寒くないという過ごしやすい場所です。シリコンバレー周辺はIT関連企業の一大拠点で、Google、Apple、Facebookなどの本社があり、世界のイノベーションのスタート地点となっています。スタンフォード大学の研究者も、校訓であるDie Luft der Freiheit weht (The wind of freedom blows) の通り日々創造的な研究を行っており、非常に活気に満ちています。

私は平成23年に群馬大学医学部を卒業後、自治医科大学附属さいたま医療センターで2年間初期臨床研修を行いました。その後、平成25年に自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科に入局、数か所の関連施設にて心臓血管外科医としての修練を行った後、令和1年11月よりスタンフォード大学にて研究留学を開始しました。スタンフォード大学心臓胸部外科教室は、1960年代初期に心臓移植のパイオニアである Norman E. Shumway教授により創設されました。心臓移植開始当初から手術技術の確立と拒絶反応に関しての研究が重ねられ、サイクロスポリンなどの免疫抑制剤の実用化への道を拓き、重症心不全症例に対する心臓移植治療の確立に貢献してきました。

臨床面では、現在も世界的に有数の心臓・肺移植症例数を誇り、全米のみならず世界の胸部臓器移植医療をリードする優れた成績をあげています。また、移植以外の成人・小児の心臓血管外科の幅広い分野でも、質の高い先進医療を実施しており、D. Craig Miller教授、Michael Dake教授、 Frank Hanley教授など高名な先生方が多く在籍されています。現在はJoseph Woo教授が心臓胸部外科部門のdirectorとなり、カリフォルニア州を中心に多くの手術患者さんが病院を訪れています。 
私が所属するStanford Thoracic Aortic Research Laboratory は、成人心臓胸部外科部門所属のFischbein准教授の研究室で、Fischbein准教授は手術治療と外来診療を行う一方、我々研究員の研究指導も行っています。自治医科大学さいたま医療センター心臓血管外科との人的交流は、当科山口教授が初代研究員として留学されたのを皮切りに、以後20年以上に渡って継続しています。

その間、自治医大附属さいたま医療センター心臓血管外科所属の諸先生方がスタンフォード大学に研究留学され、多くの研究成果をあげてきました。2010年までは心臓移植後の拒絶反応に関する基礎的研究が中心でしたが、2011年以降は、マルファン症候群を初めとする遺伝性結合組織疾患における胸部大動脈疾患の病態解明が、当研究室の主な研究テーマとなっています。現在は数種類の動脈瘤マウスモデルや、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使用した遺伝子発現、蛋白機能の解析を行っています。留学前は臨床のみの生活で、iPS細胞と言えばニュースなどで見かける程度の存在でしたが、思いがけず自分もiPS細胞を使った研究に関わることとなり、臨床とは違った新しい刺激で充実した日々を過ごしています。また、アメリカのスケールの大きさや人種の多様性などを目の当たりにし、日本(しかもその中の心臓血管外科)という狭い領域を抜け、視野を広げる良い機会になりました。サンフランシスコを始め、Napa valleyのワイナリーやヨセミテ、ロサンゼルス、グランドキャニオンなどの観光地も多くあり、研究以外の部分でも非常に恵まれた環境です。
研究留学という貴重な機会をくださった山口教授を始めとする諸先生方に感謝するとともに、長く引き継がれてきた医局の留学の襷をしっかりと次にわたせるように、研究に注力して参りたいと思います。この留学生活が、年を取るにつれ凝り固まってきた思考回路を今一度広げ、今後の人生における大きな財産になると確信しています。