自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

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心臓弁膜疾患

全身へ血液を送るポンプとして働く心臓には大きく分けて4つの部屋があり、血液の逆流を防止するために各々の部屋の出口に弁があります。このうち、全身から酸素が少ない血液(静脈血)が心臓に戻ってくる部屋を右房(右心房)と呼び、右室(右心室)に連続します。右室から肺動脈を介して、肺に血液は流れます。肺で酸素を渡された血液が戻ってくる部屋を左房(左心房)といい、全身に血液を送るポンプの役割をしている部屋を左室(左心室)と呼んでいます。その中で左室と大動脈の間にある弁を大動脈弁、左心房と左心室の間にある弁を僧帽弁と呼び、右房と右室の間にある弁を三尖弁と呼びます。これら弁の働きにより、心臓の内部では規則正しい一方向性の血液の流れが維持されています。

心臓弁膜疾患とは、通常とは逆に血液が流れたり(閉鎖不全症:逆流症)、血液がスムーズに通過できなくなったりする状態(狭窄症)の総称です。これら、心臓弁の閉鎖不全症や狭窄症は進行すると、全身に血液を送るポンプとしての心臓の機能が非効率化するだけでなく、心臓自体にも大きな負担がかかることになります。各疾患によって異なりますが、労作時の息切れは、進行した心臓弁膜疾患に共通した症状です。 当科は、日本循環器科病学会の定めるガイドライン(弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン2012年改訂版)を元に、各患者様の状態に照らし合わせて一番良いと思われる手術術式を選択し実施しています。以下に代表的な心臓弁膜疾患の病態とその治療法について解説します。

大動脈弁閉鎖不全症

弁の変性、弁輪拡大、感染、先天性二尖弁などの原因で弁が上手く閉じなくなり逆流が生じてしまう病態が大動脈弁閉鎖不全症です。本来ならば心臓から全身へ送り出されるべき血液が左心室内へ逆流するため、心臓には過大な負荷がかかります。初期の段階では、心雑音はあっても無症状で経過するということが少なくありません。しかし、負担が重なると徐々に心機能は低下し元に戻らなくなっていきます。逆流の程度がひどくない場合や心不全症状が軽度の場合は、利尿剤や降圧剤などで心臓の負担を軽減することも可能ですが根本的な治療ではありません.心不全症状がある、無症状もしくは症状が軽度であっても心臓エコー検査で心機能低下(左室駆出率50%以下)や心拡大の進行(左室収縮末期径55㎜以上または、左室拡張末期径75㎜以上)などが確認された場合は、患者さん各々のリスクを考慮したうえで手術の適応を判断します。自分の大動脈弁を切除して人工弁に置き換える手術や、自己大動脈弁を温存し閉鎖不全を改善させる形成術を行います。

大動脈弁狭窄症

動脈硬化、変性、先天性二尖弁などさまざまな原因でこの弁が硬くなって動きが悪くなり、血液の出口が狭くなってしまう病態が大動脈弁狭窄症です。出口が狭くなると血液を送り出すために心臓には過大な負荷がかかりますが、初期の段階では無症状で経過することが少なくありません。しかし、負担が重なると徐々に心機能は低下し、狭心痛(心筋への血流が不足し胸の痛みが出る)、失神発作(突然意識がなくなる)、心不全(息切れ、むくみ、易疲労感など)などの症状が出始めてからの予後は急激に悪化すると言われています。また、突然死の危険性もあります。狭窄の程度が高度でなければ内科的に利尿剤や降圧剤などで心臓の負担を軽減することも可能ですが、根本的な治療ではありません。症状がある場合、心臓エコーで狭窄の進行が確認された場合には、患者さん各々のリスクを考慮したうえで手術の適応を判断します。狭窄した大動脈弁を切除して人工弁に置き換える手術を行います。また、今まで心臓手術に耐えることが難しいと判断された方にも、実現可能な新しい治療法が、近年、我が国でも行えるようになってきました。この体に負担の少ない治療法は、経カテーテル大動脈弁留置術:TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)と呼ばれており、当院でも積極的に実施しています。詳細はTAVIの項目で御覧ください。

僧帽弁閉鎖不全症

心臓が拡張するときに僧帽弁が開いて、左心房から左心室に血液が流入します。心臓が収縮して左心室の血液が全身に送り出される時にはこの弁は閉じて、左心房へ血液が逆流しないようにしています。種々の原因で弁が閉じずに合わさりが悪いと、心臓が収縮するたびに大量の血液が左心室から左心房に逆流するようになります。血液の逆流によって、左心房の圧は上昇し、心臓に負担がかかり、肺に血液が停滞して心不全の原因となります。また、心房細動(不整脈の一種。心房が不規則に収縮する状態)も発生しやすい状態になります。僧帽弁閉鎖不全症の外科的治療は、心臓の機能と心不全症状を改善させることが目的となります。僧帽弁手術の方法には大きく分けて、次の2つがあります。 (1) 弁形成術 :自己弁を温存して行う手術です。逆流の原因となっている部分を切除し縫い合わせる、あるいは拡大した弁輪を縮小して僧帽弁がきちんと閉じるようにする手術です。

(2) 弁置換術:僧帽弁を切り取って、代わりに人工弁を縫いつける手術です。 当科では、僧帽弁閉鎖不全症の90%以上の患者様に僧帽弁形成手術を実施しており、本疾患における標準術式としています。さらに近年では、従来の胸骨正中切開による僧帽弁手術に加え、右小開胸僧帽弁手術(MICS:Minimally Invasive Cardiac Surgery)を適応のある患者さんには積極的に行い、手術による体への負担を減少させ、入院期間を短縮化させています。

僧帽弁狭窄症

左心房と左心室の境界にある僧帽弁が狭窄し、左心房から左心室に血液が流れにくい状態です。原因の多くは小児期に罹患したリウマチ熱とされています。弁が硬くなり動きも悪くなるため、血液の通りが悪くなって、心臓に負担がかかった状態が持続します。リウマチ熱に罹患してから、徐々に弁の変化が始まり、症状が出現するまでに20~40年かかるといわれています。 心臓に負担がかかった状態が持続すると、左心房が拡大し、息切れ、胸苦しさなどの心不全症状が出現します。また右心系にも負荷がかかり、三尖弁(右房と右室の間の弁)に逆流を認めることがあります。また心房細動(不整脈の一種。心房が不規則に収縮する状態)、動脈塞栓症(左房内の血流がよどむことで、血栓ができ、脳梗塞などの原因になる)といった合併症が発生しやすくなります。内科的には心不全に対する治療(利尿剤)、心房細動に対する治療(抗不整脈薬、抗凝固薬)がありますが、根本的な治療ではありません。僧帽弁の狭窄を解除するためにはカテーテル治療による交連切開術が行われておりますが、適応が限られており、高度な僧帽弁狭窄症の場合には、手術による人工弁置換が必要とされます。

人工弁に関して

心臓弁膜症手術で使用する人工弁には、生体弁と機械弁という二種類の弁があり、それぞれ長所と短所があります。

●機械弁:【長所】耐久性が優れている。 【短所】一生、ワーファリンの内服が必要。血栓症、出血、催奇形性のリスクあり。
●生体弁:【長所】原則、ワーファリン内服を中止できる(不整脈が無い場合)。 【短所】劣化し、再手術が必要となることがある。

どちらの弁を使用するのがよいか?という点は、年齢・併存する他のご病気・術後希望されるライフスタイルなどによって異なります。近年、生体弁の使用頻度が上昇していますが、患者様それぞれの ご希望に沿った弁の選択を当科では行っています。 血液は人工弁と接触することで、血栓(血の塊)を形成しやすくなります.人工弁に血栓ができると弁が正常に作動しなくなります。また、弁からはがれて流れ出した血栓は、脳梗塞などの塞栓症を引き起こします。特に、機械弁では、これら血栓塞栓症の予防が非常に重要です。機械弁での弁置換術後は生涯、血液を固まりにくくする薬(ワーファリンなど)を服用する必要があります。ワーファリンを継続的に内服することによって、年間1~2%の割合で出血または塞栓症の危険性が生じると報告されています。

Maze手術

心臓の動きは、心房の収縮の後に心室が収縮することを繰り返しています。心房細動とは不整脈の一種で、この状態では心房の電気的興奮が無秩序となり、心房が有効な収縮をすることができなくなっています。一時的なものから永続的なものまであります。この不整脈の問題点は、2つあります。一つは心房に血液がよどむことで血栓ができ、脳梗塞などの塞栓症の原因となることで、もう一つは心機能が低下してくることです。Maze手術とは無秩序な電気的興奮を断絶させ、心房の収縮を改善させる手術術式です。単独で外科的治療を行うことはなく、通常心臓弁膜症手術と同時に施行します。この手術によって心房細動から正常な状態(洞調律)に復帰する確率は約70%とされています。また、年齢、心房細動の期間、心機能の程度などにより、Maze手術の治療成績は影響を受けるとされています。当科は、高周波エネルギーを使用した焼灼法によるMaze手術を、標準的に実施しています。


高周波エネルギーによる焼灼法で使用する医療機器 (日本メドトロニック社より提供)

心臓弁膜症手術の治療実績

当科における心臓弁膜症手術の治療実績を表に示します。現在、自治医科自治医科大学附属さいたま医療センターでは、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を除く心臓弁膜症手術を年間250件程度実施しており、これは国内有数の規模を誇ります。僧帽弁閉鎖不全症に対する右小開胸僧帽弁形成手術も2016年度は17件実施しましたが、来年度以降、さらに適応を拡大していく予定です。大動脈弁と僧帽弁双方に対する連合弁膜症手術や、虚血性心疾患や胸部大動脈疾患に合併する複合手術も数多く実施しております。より安全で低侵襲な心臓弁膜症手術の実践を目指し、今後も治療内容を充実・発展させていきたいと考えております。また、感染性心内膜炎などの緊急な治療を要する心臓弁膜症疾患に対しても、引き続き、迅速に対応して参ります。
心臓弁膜症の各種疾患は、急速に進行するものもありますが、ゆっくりと進行し、人間ドックや検診での心雑音聴取により発見されることも珍しくありません。症状がなく、心臓超音波検査を中心とする各種検査で、心臓に対する負担がそれほど強くないと判断された場合には、内服治療で経過観察することになります。その場合には、今後増悪する可能性も踏まえ、定期的な経過観察することが重要となります。
当センターでは、手術のみならず、心臓弁膜症の病状評価も、当院循環器科および地域の循環器科診療の携わる先生方と連携して行っておりますので、心臓弁膜症の可能性があると診断された方は、お気軽に外来を受診してください。

連絡先

心臓血管外科外来は毎日行っていますので、お時間に余裕があれば下記予約コールセンターまでご連絡ください。

お急ぎの場合は、心臓血管外科担当医師と直接相談いただければと思います。