総合教育部門について

総合教育部門の目指すもの

 ある資料によると、医学分野における知識が2倍に増えるまでに費やす時間は、1950年代が50年であったのに対し、1980年代では7年、2010年では3年半となり、このままでいくと2020年には73日になるだろうというデータがあります。それほど医学における情報量の増加はすさまじく、医学生は国家試験に向けてますます多くの知識を要求される時代になったということです。そこで、医学生はますます多くの知識を詰め込んでいかなければなりません。実際に本学においても、膨れ上がる医学分野の情報量に対応し、一般教養の講義時間を短縮せざるを得ない状況があります。

 ここで、一つのパラドックスが生じてきます。それは、医学部で学ぶ医学が、人間の病を治す学問のはずが、いつしか「人間」を離れ、「症状」に対する「処置」の仕方の単なる暗記となってしまうというパラドックスです。このパラドックスは、アメリカのように医学部が大学院に設置されており、学部ではそれぞれの学生がリベラルアーツをしっかり学んだ後に医学を学ぶという制度ならば生じないでしょう。しかし日本における現在の制度を考えると、このままでは、高校までに受験勉強の知識詰め込み型の「勉強」をして大学生になった者に、新たな知識詰め込み型の「勉強」を強いる結果となってしまいます。しかしながら、本学は、医療の恵まれない地域に医療を提供するという目的で設立された世界にも稀な大学です。「人間」が作り上げる「地域」に入っていくためには、「人間」に対する興味、知識は絶対条件として求められています。そのような「知識」や「興味」は詰め込み型の教育では決して身につきません。

 そう考えると、本学で一般教養を担当する「総合教育部門」には非常に重要な任務が与えられていると言えます。総合教育部門の各教科の根底には人間社会の作り上げた「人間」に関する「知識」の習得と、その「知識」の再検討を行うという姿勢があります。各科目責任者は、研究者として、それぞれの研究分野で、日々新たな視点の発見を目指しています。それは、学問の基礎であり、医学にも共通しています。さらに、教育者集団としての総合教育部門は、より一般的な視点から「学問する態度」、「人間をより深く知ろうとする努力」を伝えることを目指しています。われわれが目指すのは、今日学んだことが明日役に立つということではなく、今日学んだことが、十年、二十年後に花開くことです。それが、やがてその人の一生の糧となり、それにより、地域の人々を理解し、且つ愛される医師となること。われわれが目指すのは、そんな医師誕生の契機となることなのです。


総合教育部門主任教授
文化人類学研究室
渥美一弥