診療グループ

Pediatric Hematology ⁄ Oncology

診療

小児血液・腫瘍・免疫グループは、白血病・悪性リンパ腫・ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)・血球貪食性リンパ組織球症(HLH)などの血液悪性腫瘍、神経芽腫・腎芽腫・肝芽腫・脳腫瘍などの固形腫瘍、乳児血管腫などの良性腫瘍、貧血・好中球減少症・血小板減少症・血友病などの非腫瘍性血液疾患と幅広く診療を行っています。

また、若年性特発性関節炎・全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、自己炎症性疾患、免疫不全症といった免疫疾患の診療も行っています。自己免疫疾患と消化器疾患を合併している方は、消化器グループと連携して診療しています。血液・腫瘍・免疫疾患のほぼすべての疾患に対応しています。

  1. 他科、他施設、多職種と連携し、幅広い疾患の診療を行っています。

    ① 他科および他施設との迅速かつ密接な連携
    とちぎ子ども医療センターには、小児の様々な科の専門グループがあります。
    小児血液腫瘍性疾患の治療は、化学療法(抗がん剤)だけではなく、手術や放射線治療が必要となることが多くあり、他科との迅速な連携が重要です。小児外科、小児脳神経外科、小児整形外科、小児泌尿器科、小児耳鼻咽喉科、小児画像診断部、放射線治療部、病理部などと密接に連携をとり、手術や放射線治療が必要な疾患でも自施設で診断・治療することができます。
    移植外科と連携し、肝芽腫に対する肝移植や、肝移植後の移植後リンパ増殖性疾患や肝炎関連再生不良性貧血の診療も行っています。栃木県立がんセンター骨軟部腫瘍・整形外科と連携し、骨肉腫・ユーイング肉腫などの骨腫瘍の診療も行っています。

    ② 他科、他施設、多職種とのカンファレンス
    小児科内では週1回、血液腫瘍カンファレンスを開き、治療方針の決定等を行っています。
    小児科、小児外科、小児画像診断部、放射線治療部との月1回のTumor Boardでは、手術や放射線治療が必要な患者さんの治療方針を、4科が集まって話し合います。疾患によっては、小児脳神経外科、小児整形外科、小児泌尿器科、小児耳鼻咽喉科、移植外科、病理部の先生方とも適宜カンファレンスを行っています。
    県立がんセンターとの月1回の合同カンファレンスも行っています。

    ③ 緩和ケアへの取り組み
    医師(小児科、小児脳神経外科、緩和ケア科)、看護師、保育士、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、メディカルソーシャルワーカー、院内学級教員によって構成される緩和ケアチームがあり、緩和ケアカンファレンスを月2回行い、小児がん患者さんの緩和ケアに取り組んでいます。
    また、在宅医、訪問看護と連携し、在宅緩和ケアを積極的に行っています。

  2. 患者さん、ご家族に寄り添った診療を心がけています。

    ① 子どもらしい生活の維持
    血液腫瘍性疾患のお子さんは入院期間が長くなることが多く、お子さんもご家族も入院生活にご不安があることと思います。小児においては、疾患に対する治療だけでなく、成長・発達を促すために入院中も子どもらしい生活を送ることが重要と考えています。院内学級(おおるり分教室)があるため入院中も学校に登校したり、体力が落ちないようリハビリをすることが可能です。乳幼児には保育士との保育の時間を積極的に設けています。高校生に関しては、おおるり分教室が学習の場の提供、学習状況の確認、在籍高校及び病棟との連絡調整などの学習支援を行っています。病棟は完全看護ですが、長期入院が必要となるケースが多いため、マクドナルドハウスも併設されています。

    ② チーム医療による全人的診療
    医師、看護師、薬剤師、保育士、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、院内学級の教員など、多職種がお子さん・ご家族に関わり、チーム医療を行っています。身体的な苦痛だけでなく、心理的な苦痛に対しても臨床心理士による心理カウンセリングなどを行い対応し、患者・家族に寄り添った全人的診療を心がけています。

    ③ 小児がん経験者のトータルヘルスケア(長期フォローアップの充実)
    治療の進歩によって、小児がん患者さんの70-80%が治るようになりました。多くの小児がん経験者の方は問題なく日常生活を過ごされていますが、病気自体や治療の影響によって治療終了後も慢性的な問題(成長障害、不妊、二次がん、メタボリックシンドローム等)を持つ方がいることがわかってきました。長期フォローアップ外来では、小児がん経験者の方の治療内容を把握し、治療終了後の長期的な健康管理について、一緒に考えていきます。小児科の内分泌グループ、循環器グループ、腎臓グループと連携して、内分泌・心臓・腎臓の問題に対応しています。小児期が終了しても、附属病院の成人科と連携し、円滑な成人医療への移行を行います。

  3. 新規治療、先進的取り組み

    ① 造血幹細胞移植
    県内小児では唯一の日本造血・免疫細胞移植学会の認定施設かつ臍帯血移植認定施設として、自家および同種造血幹細胞移植を積極的に行っています。
    難治性白血病に対して、移植後シクロフォスファミド法を用いたHLA半合致移植も行っています。
    神経グループと連携して、副腎白質ジストロフィーなどの非悪性疾患に対する造血幹細胞移植も行っています。

    ② がんゲノム医療の推進
    がんゲノム医療とは、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ(がん遺伝子パネル検査と言います)、がんの遺伝子の異常を明らかにすることにより、遺伝子の異常に合わせた治療を行う医療です。私たちは、難治例に対してがん遺伝子パネル検査を行い、がんゲノム医療を積極的に推進し、合わせて再発難治例に対しては、積極的に新規分子標的療法を検討しています。

    ③ CAR-T細胞療法
    血液内科・輸血部と協力して再発急性リンパ性白血病に対する新規治療であるCAR-T細胞療法を導入予定です。

    ④ 小児集中治療室(PICU)との密接な連携による重症例の治療
    PICUと密接に連携し、人工呼吸やECMO等の呼吸循環管理が必要な超重症の血液腫瘍性疾患、免疫不全症患者さんへの対応も可能です。

診療体制

  • 小児血液腫瘍医常勤4名、非常勤1名

専門医・指導医

  • 日本血液学会血液専門医3名
  • 日本血液学会血液指導医2名
  • 小児血液・がん専門医2名
  • 小児血液・がん指導医1名
  • 造血細胞移植認定医2名
  • 日本遺伝性腫瘍専門医・指導医1名
  • 日本血栓止血学会専門医1名

専門研修認定施設など

日本血液学会血液専門研修認定施設、小児血液・がん専門医研修施設、日本造血・免疫細胞移植学会認定施設、臍帯血移植認定施設

診療実績

研究

実臨床に即した研究を行っています。

1. 再発白血病の研究

白血病の治療成績は向上しましたが、再発した症例の治療成績は依然満足のいくものではありません。岡山大学と共同で、急性リンパ性白血病(ALL)と急性骨髄性白血病(AML)の全国の再発検体を用いて、次世代シーケンサーによる遺伝子解析を行い、分子標的の探索ならびに新規の分子標的療法の検討を行っています。AMLでは薬剤感受性検査を行い、筑波大学と共同でヒトの骨髄微小環境を模した3次元培養による白血病幹細胞の研究を行っています。

2. 小児がんのゲノム研究

一部の小児がんは遺伝性が認められることが明らかとなってきました。がんになりやすい体質を持つ患者さんは、将来的に別のがんが発症する危険性が高いと予測されます。最近は特に固形腫瘍でがんゲノム医療がすすみ、遺伝子レベルで分子標的の探索が可能となってきています。骨肉腫、横紋筋肉腫などの小児で多い固形腫瘍でも検討が必要です。

3. 小児がん経験者の長期フォローアップ研究

小児がんの治療成績は向上し、約8割生存が見込めるようになり、国内でも小児がん経験者は10万人を超えるようになっています。治療後の晩期合併症は、二次がん、メタボリック症候群、心機能低下など様々なものがあり、人生100年時代をむかえるにあたり大きな問題となってきています。内分泌班、循環器班、他科とも協力し、生物学的な調査も含めて、今後検討していく予定です。

4. がん免疫療法における腸内細菌叢解析

小児血液悪性腫瘍は、治療法の進歩により生存率が改善しましたが、難治例は依然として予後不良です。近年、がん免疫療法が施行可能となり予後の改善が期待されていますが、高額な医療費や重大な合併症が課題であり、適切な患者選定による最適化医療の確立が求められています。一方、腸内細菌叢は免疫応答と密接な関連があり、さまざまな疾患との関連が報告されています。2018年に抗PD-1抗体というがん免疫療法薬の治療反応性に腸内細菌叢が影響することが報告されましたが、小児血液悪性腫瘍に対するがん免疫療法に腸内細菌叢が影響しているのかは明らかではありません。

そこで、急性リンパ性白血病に対するがん免疫療法(ブリナツモマブ)の治療反応性や有害事象(薬物を投与された方に生じる、薬物の投与と時間的に関連した、好ましくないまたは意図しないあらゆる医療上の事柄を有害事象といいます)に腸内細菌叢が影響しているのかを調べる研究を、計画しました。全国多施設共同試験(ALL-R19-BLINおよびSCT-ALL-BLIN21)に紐づいて行う予定です。

この研究によって、小児血液悪性腫瘍におけるがん免疫療法において、腸内細菌叢解析による治療反応性や有害事象の予測による適切な患者選択を行う最適化医療の確立につながる可能性があり、その意義は大きいと考えています。

5. 造血幹細胞移植のデータベースを用いた解析

造血幹細胞移植の最適化のために、造血幹細胞移植のデータベース(TRUMP)を用いて、様々な解析を行っています。

6. LCHのバイオマーカー探索

LCHの予後や合併症に関するバイオマーカーを探索するために、サイトカイン/ケモカイン、骨代謝マーカーの解析を行っています。全国多施設共同試験(LCH-12およびLCH-19-MSMFB)に紐づいて行います。

研修内容

今後研修を考えられている若手の先生方へ

1. 小児血液腫瘍性疾患、非腫瘍性血液疾患の診断・治療の習得

どういう症状から小児血液腫瘍性疾患、非腫瘍性血液疾患を疑うか、疑ったときに何の検査をして診断にたどり着くか、という診断の進め方を学ぶことができます。小児血液腫瘍性疾患の患者に対する抗がん剤の使い方や支持療法を習得できます。また、造血幹細胞移植の管理を学ぶことができます。 血液専門医、小児血液・がん専門医、造血細胞移植認定医の資格を習得することができます。

2. 末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)挿入、髄注、骨髄検査の手技習得

骨髄穿刺・骨髄生検の手技、および骨髄像の読み方を習得します。抗がん剤の髄注やエコー下でのPICC挿入といった処置が月に数回あり、習得することができます。 当科では2歳以上の小さいお子さんにもPICC挿入を積極的に行っており、体動や血管径が細くPICC挿入の難しい症例へのPICC挿入も習得することができます。

3. 全身管理

腫瘍崩壊症候群や大量輸液による電解質異常の補正や水分管理、発熱性好中球減少症に対する抗菌薬治療、PICUでの呼吸循環管理、造血幹細胞移植や肝移植後の管理等、小児血液腫瘍性疾患患者や免疫不全患者の全身管理を行うことができます。

4. 緩和ケア

緩和ケアにおける麻薬などの鎮痛薬の使用方法を習得することができます。また、緩和ケアにおけるお子さん・ご家族との関わり方、意思決定支援、在宅医・訪問看護との連携、などを学ぶことができます。

5. 免疫疾患(免疫不全症、自己免疫疾患、自己炎症性疾患)の診断・治療の習得

血液腫瘍性疾患だけでなく、若年性特発性関節炎や全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患、自己炎症性疾患、免疫不全症も診療しています。若年性特発性関節炎では、関節の診察方法や、診断の進め方を習得できますし、ステロイド、メソトレキセート、生物学的製剤等による免疫抑制療法も学ぶことができます。また、免疫不全症の診断のアプローチや、感染予防、日和見感染の治療法を学ぶことができます。

6. 積極的な論文発表

症例報告、臨床研究、基礎研究の論文発表や、学会発表を積極的に行っています。
今や、小児科専門医になるためにも論文が必要です。若手の先生にも積極的に論文を発表してもらえるよう、指導しています。