自治医科大学消化器・一般外科学教室の基本方針

2015年4月

主任教授:佐田 尚宏

基本指針

 自治医科大学は、「医の倫理に徹し、かつ、高度な臨床的実力を有する医師を養成することを目的とし、併せて医学の進歩と、地域住民の福祉の向上を図ること」を建学の精神として設立されました.自治医科大学建学の精神を踏まえて、附属病院では
(1)患者中心の医療
(2)安全で質の高い医療
(3)地域と連携する医療
(4)地域医療に貢献する医療人の育成
の4点を理念としています.消化器・一般外科学教室では、これら大学建学の精神、病院の理念に基づき、総合力と専門分野スキルを兼ね備えた外科医を養成し、自由な雰囲気の中、診療、教育、研究を行うことを基本方針とします.外科医ひとりひとりがプロフェッショナルとして自分自身で考え、行動することにより、外科学の発展に寄与する事が目標です.

診療

 私は、「外科学は治療学である」と認識しています.治療学という学問である以上、外科手術においてはEBMの手法を用いて最高の成績、すなわち「mortality 0、morbidity 0」を目指すことが外科診療においては最も重要であると考えています.「mortality 0、morbidity 0」の実現には、外科手技のスキル向上だけではなく、診療のインフラ整備、組織としての強固な診療体制を構築することが重要です.診療のインフラの整備として、外科データベースの構築(2000年)、診療マニュアルの整備(2001年)、クリニカルパスの整備(2002年)、病棟受診制度・術前カンファレンスを含めた術前チェック体制の確立(2003年)、など安全な外科診療を行うために様々な試みを実施してきました.その結果、待機手術の在院死亡率を0.1%以下にまで逓減しました(2007-2014年).在院死亡例については、必ず症例検討カンファランスを実施します.それぞれの症例を検討すると、決められたルールが100%遵守されていない実態が明らかになることがあります.ルールを作成することは簡単ですが、ルールを維持することは大変困難で、ルールに対するバイオレーションが事故につながることが多くの事例検証で明らかにされています.理由があってルールを変更することは必要ですが、「まあ良いだろう」「面倒だから」といった理由でルールを形骸化することは厳として避けなければいけません.術後管理は手術執刀医だけではなく、レジデントを含めた病棟勤務医が、ひとりひとりの患者さんの病態を毎日チェックし、少しの時間でも深く考える事で、様々な有害事象を回避できると考えています.
 手術の術式に完成はありません.手術機器、材料は日進月歩で、100%安全確実に実施できることを目標に、定期的な評価と改善が必要です.高度先進医療を担う当院では積極的に新規医療に取り組むことは重要ですが、新たな術式、手技を導入する際は安全に実施することを第一に考え、院内・院外のルールを遵守し、有害事象が生じた際はその術式・手技を中止して再検討する姿勢を持つべきです.

教育

 私たちプロフェッショナルは、常に自己研鑽を積むことが求められます.外科医教育は、その自己研鑽の延長上にあると考えています.教育にはスタッフ教育、専門医教育、研修医教育、医学生教育など、様々な側面があり、これらの共通要素として、人間教育としてのコミュニケーション能力の向上、チーム医療の実践、マネージメント能力の開発などが挙げられます.外科医療の基本はチーム医療です.他の医師、看護師、医療スタッフとの友好的な協力環境の下、良好な医師・患者関係を築くことから外科診療は始まります.外科チーム医療の実践を目標に、上級医は専修医・レジデント・学生を、専修医はレジデント・学生を、レジデントは学生をそれぞれ教育する義務があります.教育は双方向的であるべきで、専修医・レジデント・学生を教育するには、それなりの素養、準備が必要です.教育する側に必要なのは十分な自己研鑽で、その上で自由なディスカッションを行える場を提供し、チーム医療を実践し、その結果を評価し、改善することが必要です.教育を受ける立場の医師・学生も、十分な自主学習を行った上で教育を受ける姿勢が大切で、知識を深めるとともに自分の意見を持ち、建設的な提案を行うことを期待します.

研究

 消化器・一般外科では質の高い臨床研究を行うことを奨励しています.当科は単一の外科医局であり、手術症例数はすべての分野で日本のトップレベルにあります.その豊富な臨床例を用いた科学的な臨床研究を行うことが、臨床成績の向上につながります.大学に勤務する医師はスタッフからレジデントまで、臨床的なスキル向上だけではなく、症例報告を含めた臨床研究の年間計画を立てて実行してください.臨床研究を実施する際には、研究倫理および個人情報保護に対する十分な配慮と、院内・院外ルールの遵守が必要です.当科では積極的に学会発表、論文発表を奨励し、医局では様々な形でそれらの活動をサポートします.世界最高レベルにある臨床成績、それに基づいた臨床研究を世界に向けて情報発信するためにも、国際学会での発表、英文論文の発表を特に奨励します.
 質の高い臨床研究を行うためには、基礎研究の素養が必要です.当科では院内・院外の基礎系教室と共同研究を行っており、博士号取得を目標に数年間基礎研究に従事する期間を設定しています.また、医局内にも臨床検体を用いた基礎研究を実施できる体制を整えています.実臨床には、多くの解決すべき課題があります.それらの課題について基礎的な研究を行うことは外科医にとって大変重要で、自然科学の考え方・手法を学び、視野を広げる事にもつながります.当科では、海外留学も積極的に奨励しています.現在は、博士号取得後に1年間基礎研究、臨床研究を行うことをルールとしていますが、個人個人のライフプランに沿った要望については、可能な限り対応したいと考えています.

その他

 外科医にとって臨床的なスキル、手術のスキルを向上させることは勿論ですが、それだけではなく博士号取得、諸学会の専門医・指導医・技術認定医を計画的に取得することを奨励します.自治医科大学を中心とした強固な関連病院群を構築するためにも、すべてのスタッフがとれる資格をすべて取ることが必要だと考えています.
 2000年以降、新臨床研修制度の導入による地域医療の弱体化、DPC導入等により、当科の入院数・手術件数は飛躍的に増加しました.2年毎の診療報酬改定、臨床研究指針の策定などにより、実臨床におけるペーパーワークも質・量とも増加の傾向にあります.これらの変化に対応すべく、業務の効率化を行い、外科医の労働環境改善に取り組みます.私たち外科医は健康であるべきです.2014年以降当直明けの手術参加を禁止しました.十分な休養を取って仕事が出来る体制の構築を目指しています.外科医が心身の健康を維持しつつ、ライフワークバランスを考えられる魅力的な職場環境の提供により、女性医師を含めた多くの若手医師をリクルートすることが今後の外科医局にとっては重要で、ひいては日本の外科医療を維持することにつながると考えています.

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