RESEARCH

研究プロジェクト

組織間質機能を制御する酸素シグナル

酸素は地球上の生命体に必須の分子であり、酸素の欠乏は生命維持における脅威となります。酸素が減少した低酸素環境においては、細胞は低酸素誘導因子(HIF)を即座に蓄積させ、その転写活性により、細胞が被る低酸素ストレスを回避するための遺伝子調節を働かせます。その低酸素細胞応答機構に魅了され、我々は、15年程前から、HIFの活性化を検出するための光イメージング技術の開発を進めてきました(PLoS ONE 2011;5:e15736, Sci Rep 2016;6:34311)。2019年のノーベル生理学・医学賞が「低酸素応答の仕組みの発見」に関する研究成果に贈られたことが示すように、HIFを介した低酸素応答はこの20年程の間に大きな進展がありました。しかしながら、近年、HIF非依存的な酸素応答機構や、生体組織においては低酸素環境を組織恒常性の調整や細胞機能の活性化に必要とする、低酸素=ストレスという概念を覆す酸素シグナルの重要性(酸素パラドックス)が示唆されています。例えば、一見すると細胞にとって不利な低酸素環境においても、線維芽細胞は生存することが可能であり、むしろ積極的に活性化することで心線維化を抗進することを我々は報告してきました(AJRCMB 2018;58:216, Int Heart J 2019;60:958)。別の例として、組織の炎症の終息に必要なマクロファージの死細胞貪食過程が低酸素環境で活性化されることもわかってきました。電子伝達系と解糖系によって担われる細胞内のエネルギー(ATP)産生機構だけからは説明できないこれらの現象について、ユニークな生体光イメージング技術や遺伝学的動物モデルを駆使して、多角的なアプローチを試みています。このような酸素研究の新しい方向性を探索する試みとして、学術変革領域(B) 生体酸素動力学 を推進しています。