自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その10 同窓会報第65号(2013年7月1日発行)


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「信頼関係こそ共同研究の源」

              古城隆雄(自治医科大学地域医療学センター・地域医療学部門)

 まだまだ駆け出しのため、ご紹介できるような立派な研究はないのですが、これまでの経験から大切に感じたことをお話できたらと思います。
 ほとんどの研究は、一人で行うのではなく、多くの方々のご協力の下、創り上げていくことが多いと思います。共同研究をするにあたって大切なことはたくさんあると思いますが、最も重要なことの一つは、信頼のおける人と研究を行うことだと感じています。私の体験を二つ話したいと思います。
 一つ目は、『生命と自由を守る医療政策』(東洋経済新報社)という本を、博士の時にお世話になった指導教官(印南先生)と先輩(堀先生)と一緒に書いたときのことです。
 この本は、憲法論や公共哲学に根拠を求めながら、私達が考える日本の医療保障の理念を整理したものです。時折、日本の医療政策には理念がないという批判がありますが、抽象論や感情論に陥らず、学術的な基礎付けを備え、政策実行可能性も担保に入れた理念論を考案することはかなり難しいことでした。 この本を執筆するにあたって、二人の先生方と数えきれないほど議論をし、お互いの原稿をチェックし、添削し合いました。意見が衝突することは日常茶飯事でしたし、互いの原稿を真っ赤にして返すことも珍しくありませんでした。立場は、教授、准教授、博士の学生(私)と研究者の立場には大きな差があったのですが、先生方は私の意見も尊重して下さいました。こうしたことが出来たのも、心から信頼できる関係であったからだと思います。
 二つ目の経験は、自治医科大学に来て先生方とカルテの調査を行った時のことです。将来の急激な少子高齢化と人口減少に対応した医療提供体制を考えるためには、人口構造の変化が、どのような地域医療ニーズの変化をもたらすのかを分析する必要があります。そこで、地域医療ニーズを出来る限り把握するために、患者の流出が少ない離島の医療機関で一年間のカルテの内容を調査しました。限られた期間内に、2千人以上の患者さんのカルテに目を通し、必要な情報を記録することは、並大抵の作業ではありませんでした。自治医科大学関係の医師だけでなく、私の母校の後輩の学生や、現地の方々の多くの協力の下、実施することができました。夜遅くまで作業を行うことはもちろんですが、お互いが気づいた点を提案して作業を効率化したり、互いに励まし合って!なんとか期間内に調査を仕上げることができました。
 こうした経験から、私は信頼のおける人たちと研究することは、何物にも代え難いものでだと考えるようになりました。最後に、研究に必要な「信頼関係」というのはどういうことなのか、私なりに整理してみたいと思います。
 一つ目は、必ず有用な意見を出してくれるという信頼感。これは互いの意見に耳を傾ける姿勢につながり、たくさんのアイデアが生まれると思います。二つ目は、筋の通った意見であれば受け入れられる信頼感です。洗練された研究を行うには、立場や職種を超えて良い意見は公平に取り入れてもらえる信頼感が必要だと感じます。三つ目は、目的を共有し、達成するまで逃げ出さないという信頼感です。だからこそ、研究上様々な困難なことがあっても、お互いを信じ、何とか達成することができるのではないかと思います。
 私自身、他の方々から信頼される人であるように努力し、素晴らしい先生方や後輩と、これから多くの研究を行っていきたいと思っています。
(次号は、自治医科大学総合診療部門 見坂恒明先生(兵庫県23期)の予定です)

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