自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その11 同窓会報第66号(2013年10月1日発行)


kojyo

「論文作成はスピードが大切!」

              見坂恒明(兵庫県23期)(自治医科大学地域医療学センター総合診療部門)

 私が初めて書いた英語論文は、“Positron emission tomography scan can be a reassuring tool to treat difficult cases of infective endocarditis.”( J Nucl Cardiol. 2011,18;741-3)です。
 2009年のことですが、Fallot四徴症に伴う肺動脈閉鎖に対し,心内膜修復術を施行され、肺動脈および右室流出路が人工血管に置換されている35歳の患者が、1カ月前からの38℃台の弛張熱で受診しました。感染性心内膜炎を疑い入院加療とし、血液培養からはStreptococcus viridiansが培養されました。Duke臨床的診断基準を満たし、感染性心内膜炎の診断は容易でした。しかし、手術適応があるかどうか、ということで非常に苦慮しました。経胸壁並びに経食道心エコーでは、人工物によるアーチファクトのため、菌の付着は評価困難でした。64列multislice CTが感染性心内膜炎の診断に有効との論文が発表されたばかりで(J Am Coll Cardiol. 2009;53:436-444)、このプロトコールに沿って64列multislice CTを施行しましたが、人工物によるアーチファクトのため、やはり評価困難でした。当時、総合医として循環器診療、感染症診療の他、悪性リンパ腫や肺癌などの悪性腫瘍の診療にも従事していたため、感染症にPET検査はどうかと頭によぎりました。“感染性心内膜炎”と“PET”でPubMed検索を行うとhit論文は、わずか3件!ケースレポートのまとめとして、今後有用かもしれないという論文のみでした(Heart. 2004;90:614-617など)。そこでPET検査を施行したところ、右室流出路の人工血管部位に限局した集積を、視覚的にはっきりと認めました。これをもとに、患者がFallot四徴症にて長年通院していた国立循環器病センターの主治医とも相談し、手術は行わず、抗菌薬点滴治療のみで経過をみることにしました。結果、保存的治療が奏功し、治療終了後のPET検査でも集積消失を認めました。
 感染性心内膜炎の診断のみならず治療効果判定にもPET検査が有用ということで、すぐに論文化すればよかったのですが、当時は時間的制約と論文を書く術自体よくわかっていなかったので、論文作成にだいぶ時間を費やしました。結果、2011年には感染性心内膜炎に対するPETの論文は十数論文となり、新規性が失われ、(推測ですが)掲載論文のランクが低下。2013年には人工弁心内膜炎の診断において、Duke臨床的診断基準にPETを加えるべきだという論文まで刊行されています(J Am Coll Cardiol. 2013;61:2374-2383)。
 もっと早く論文作成していれば、よりimpact factorの高い論文に掲載されていたかもとの念が強くあります。医学の、特に技術系の革新は素早く、数年経てばすぐに新規性が失われ、当たり前のようになります。論文作成はスピードが大切、書こうと思ったときにすぐに書かないと、どんどん新規性、論文の有益性が低下します。幸い、現在はCRSTのような支援組織ができ、ノウハウを提供してもらいえるので、どこの医療機関にいても論文が書きやすい環境だと思います。私自身、最近はケースレポートを中心に、学術論文をそれなりに書いておりますが、CRSTの一員として、若い先生の論文作成に手助けができればと思っております。

PS:現在、科研費を獲得し、『誤嚥性肺炎の経口摂取再開時期の基準の研究』を行っています。エビデンスなく経験則で行われている部分に科学的妥当性を見出すことを目的としています。ご興味ある方、ご協力頂ける方はご連絡下さい。
  E-mail: smile.kenzaka@jichi.ac.jp

(次号は、国立病院機構三重病院 呼吸器内科 丸山貴也先生(三重県24期)の予定です)

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