自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その19 同窓会報第73号(2015年10月1日発行)


地域医療現場からの英文症例報告

                   松浦 徹(自治医科大学 内科学講座神経内科学部門、北海道11期)

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 私は1988年に自治医大を卒業後、地元の北海道に戻り、2年間のローテート研修を旭川医科大学附属病院・北海道大学附属病院で受けて、1990年からへき地中核病院勤務として市立稚内病院内科に1年間の期限で赴任した。一般に当時は専門医指向がとても強く、医学部を卒業すると大半の医師は大学医局に直ちに入局し、ストレート研修に励むのが普通であった。旭川医大や北大の同僚にも、「へき地で大変だね」「浦島太郎になるね」等とひやかされ、何かしらの焦燥感は常に持ち合わせていたのだと思う。稚内で一般内科の臨床に段々と馴染んでいく中で、所謂“にきび”の治療に2年間ミノサイクリン100~150mg/dayを服用していた22歳の女性が高熱、乾性咳嗽と全身の関節痛・関節腫脹で入院となった。入院後ミノサイクリンを中止したところ、直ちに症状は寛解した。臨床所見や検査データから全身性エリテマトーデス(SLE)は否定的であり、薬剤誘発ループス(DLE)と診断した。文献検索をしたところ、ミノサイクリンのDLEは報告が皆無であった。ただそれだけの理由で英文の”Case Report”を書こうと思い立ち、慣れない英文執筆を始めた。さらにその過程でとても短い”Letters to the Editor”という種類の論文形式があり、与し易いと考えた。市立稚内病院内科の同僚・上司、さらにその派遣元である北大某内科教授、当時の自治医大アレルギー膠原病教授の指導を得て(皆さんに共著者になって頂いた)、Lancet誌のLetters to the Editorに投稿した。共著者の先生全員、私がLancetに投稿するとは思っていなかったというか、当時はemailもなかったので私も知らせていなかったと思う。何故Lancet誌を選択したのかは、”Letters to the Editor”を受け入れていることとNew England Journal of Medicine誌より通り易いだろうと考えたことである。当時小生はImpact Factorなるものも知らず、今考えると無謀かつ冷や汗ものだった。Lancet誌からの返事は来なかったが(郵便事故?だったのだろうか)、翌1991年、へき地病院勤務として赴任した北海道立羽幌病院で論文が掲載されていることを偶然知った(図1: Matsuura T, Shimizu Y, Fujimoto H, Miyazaki T, Kano S. Minocycline-related lupus. Lancet 1992; 340:1553.)。
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 その道立羽幌病院においても一般内科医として2年勤務したが、常勤医は内科医2名、外科医2名、小児科1名の構成で、各科の垣根があってないような病院だった。そこでも赴任早々忘れられない症例に遭遇した。旭川の専門病院で胆石治療に腹腔鏡下胆嚢摘出術を受け無事退院した42歳の女性が術後22日目に突然の右上腹部痛と軽度の黄疸で入院となった。現在では胆石の治療に腹腔鏡下胆嚢摘出術は広く普及しているが、本邦では1990年に初めて施行されたものである。経静脈性胆道造影 とERCPで2つの異物(エンドクリップ)が総胆管に迷入し、閉塞性黄疸を来していることを確認した(図2)。入院中エンドクリップの位置を腹部単純X線写真で追いながら、ついに入院34日目に2つのエンドクリップが総胆管から”脱出”し、患者さんの便からそれを回収できた。腹腔鏡下胆嚢摘出術に用いるエンドクリップが胆管に迷入し閉塞性黄疸を生じる術後合併症は当時報告されていなかった(現在はどうなのだろうか?)。札幌医科大学某内科から赴任していた内科の上司、外科の院長、そして、その出身医局である札幌医科大学某外科教授、そして旭川でこの患者さんに腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した術者の先生(この先生は気が気でなかったろう)にまでサポートを乞い、また、性懲りも無く、Lancet誌のLetters to the Editorに投稿した。Reviewerとのやり取りを1度経たのみで、無事掲載された(図2: Matsuura T, Kanisawa Y, Sato T, Saito T, Hirata K. Migration of “endo-clips” into common bile duct after laparoscopic cholecystectomy. Lancet 1992; 340:306.)。
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 私の地域医療のキャリアの中のささやかな2つの成功体験を事実に即して述べたが、どのように読者の皆様は受け取るであろうか?「地域で研究し論文作成する皆様」の何らかのヒントになるようならば、望外の喜びである。

(次号は、自治医科大学附属さいたま医療センター総合医学第一講座・臨床検査医学 教授 尾本きよか先生の予定です)

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