自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その20 同窓会報第75号(2016年1月1日発行)


超音波に魅せられて

            自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座(臨床検査部) 
                                  尾 本 きよか(沖縄11期)

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 自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座(臨床検査部)の尾本きよか(男)と申します。現在さいたま医療センターで、臨床検査全般の管理・運営に携わっていますが、専門領域は生理機能検査部門の超音波診断学です。それゆえ研究テーマも超音波検査に関するものが多く、今回はそのお話をさせて頂きたいと思います。  
 そもそも超音波検査との出会いは学生時代の超音波ゼミです。母校である自治医大の学生時代に、日本の超音波検査・診断学の第一人者であった伊東紘一先生(自治医大名誉教授)がゼミをしていることを知り、有名人に接する絶好のチャンス!といういわゆるミーハー気分で入ったのがきっかけです。いざゼミに入ってみると、「きっとアニメのような面白い画像を見せてくるだろう」という当初の浅はかな期待はすぐに裏切られ、毎回伊東先生が用意した白黒の超音波画像(静止画)数枚をオーバーヘッドプロジェクターで見せられ「これ何だと思う。何を考えるかな。」という重苦しい?奥深い?質問の繰り返しでした。超音波の基礎も知らず、臨床経験もない私にとって毎回見せられる超音波画像は、“得体の知れない白黒のもやもやしたモチーフのない水墨画”のようで、何と答えてよいのかわからず、いつも絶句!(感動?苦痛?)の連続で、結局「あれは何だったのか?」まったく理解できずにもやもやした気持ちのままゼミは終了してしまいました。
 卒後の初期研修でも超音波装置に触れる機会や勉強する余裕もなく、その“もやもや”は晴れることなく月日は経過しました。一方日常臨床の場では超音波検査の臨床的有用性をひしひしと感じつつも、自分の技術、知識のなさに焦る毎日で、それまでの遅れを取り戻すべく(同時に学生時代の屈辱?を晴らすべく)、5年目の後期研修先を自治医科大学附属病院 臨床検査部(旧:臨床病理部)に選びました。自治医大での超音波研修は実質4カ月という短い期間でしたが本当に充実した毎日で、幸運にも伊東先生直々に手ほどきを受けることができ、そこで超音波検査のテクニックや診断学の礎を築くことができたように思います。
 義務年限を終える頃に伊東先生からのお誘いがあり、自治医科大学 臨床検査医学教室に入局し、研究の第一歩を踏み出しました。とは言うものの、それまでは内科の臨床一辺倒であり地方会レベルの学会発表はあるものの、まともな論文を書いたり研究をしたりすることはなく、まずは伊東先生に指示されるがまま、与えられた研究のデータ取りを淡々とこなすことから始めました。それまで専門としていた消化器内科とまったく異なる領域の「乳腺の超音波画像」が研究テーマであり当初はかなり戸惑いもありましたが、検査室の技師の方々や医局の先生方の温かい支援もあり徐々に大学での臨床および研究生活にも慣れてきました。伊東先生からは臨床だけでなく研究の進め方について日中だけでなく、深夜にも懇切丁寧にマンツーマンでご指導頂きました。また既に医局で活躍されていた谷口信行先生(臨床検査医学教授)からは論文の書き方をその「いろは」から徹底的に教えて頂き、「超音波三次元画像を用いた乳腺腫瘍の抽出と良悪性の自動判別に関する研究」で論文1,2)を書き、医学博士を取得することができました。
 当時乳腺の超音波検査は、当教室の医師だけでなく消化器・一般外科の先生方にも担当して頂いており、特に水沼洋文先生(水沼医院 院長)には、実技指導だけでなく動物実験もお手伝いして頂きました。そのころ第1世代の超音波造影剤(レボビストⓇ)が使用可能になったばかりで、新たな研究材料としてこのレボビストが使用できないかを考えていました。現在では乳癌の術前検査としてルーチンで行われているセンチネルリンパ節同定・生検ですが、当時はようやく一部の医療機関で行われはじめたころでした。主に次の2つの同定法が行われおり、色素法は同定が煩雑で、ときにアナフィラキシーショックがおきることがあり、核医学的同定法は特別な検知装置が必要かつアイソトープを扱える施設でなければならず、それぞれの欠点が全国での普及の障壁となっていました。これらの短所を補い、全国どこの病院でも施行可能なセンチネルリンパ節の同定法の開発を目指し、このレボビストによる同定法を思いつき、動物実験で何度も試してみましたがなかなかうまくいかず、その後もいろいろな材料を試しては失敗の繰り返しでした。半年が経過した頃に光明が見えはじめ、溶解したアルブミン製剤が有用であることを発見、報告3~5)し、特許も取得しました。さらに同定率の高いトレーサ(材料)を追い求め試行錯誤しながら、最終的に第2世代の超音波造影剤ソナゾイドⓇがきわめて有用であることが臨床的に実証でき、報告6)しました。“ソナゾイドを用いた造影超音波画像による乳癌センチネルリンパ節同定法”は市販のソナゾイド溶解液1mlを乳輪下に注入するだけで数分以内に超音波画像で明瞭、リアルタイムに、造影されたリンパ管とその先端にセンチネルリンパ節が同定でき、その有用性は多くの施設でも検証済みで全国そして世界での普及も期待できる手法です。
 研究で大事なことは、第1に“好きこそ物の上手なれ”、第2に“継続は力なり”、そして“人事を尽くして天命を待つ”ということではないでしょうか。超音波に興味のある方ご連絡ください。一緒に研究しましょう。

【参考文献】
1)Omoto K, Itoh K, Cheng X-Y, Wang Y, Taniguchi N, Akiyama I, Otsuka S, Mizunuma H, Ogura S, Kanazawa K. Study of the Automated Breast Tumor Extraction Using 3D Ultrasound Imaging : The Usefulness of Depth-Width Ratio and Surface-Volume Index. J Med Ultrason 2003;30:103-110
2)Omoto K, Itoh K, Cheng X-Y, Wang Y, Taniguchi N, Akiyama I, Otsuka S, Mizunuma H, Ogura S, Kanazawa K. Study of automated breast tumor extraction and diagnosis using three-dimensional ultrasonic imaging: Multivariate logistic regression analysis with multiple parameters. J Med Ultrason 2001;28:49-58
3)Omoto K, Mizunuma H, Ogura S, Hozumi Y, Nagai H, Taniguchi N, Itoh K. New method of sentinel node identification with ultrasonography using albumin as contrast agent : a study in pigs. Ultrasound Med Biol. 2002;28:1115-1122
4)Omoto K, Hozumi Y, Omoto Y, Taniguchi N, Itoh K, Fujii Y, Mizunuma H, Nagai H. Sentinel node detection in breast cancer using contrast-enhanced sonography with 25% albumin: Initial clinical experience.Clin Ultrasound 2006;34:317-26
5)Omoto K, Hozumi Y, Nihei Y, Omoto Y, Mizunuma H, Nagai H, Koibuchi H, Fujii Y, Taniguchi N, Itoh K. New method of sentinel node detection by a combination of contrast-enhanced US and dye guidance: An animal study. J Med Ultrasonics 2006;33:153-8
6)Omoto K, Matsunaga H, Take N, Hozumi Y, Takehara M, Omoto Y, Shiozawa M, Mizunuma H, Harashima H, Taniguchi N, Kawano M. Sentinel node detection method using contrast-enhanced ultrasonography with Sonazoid in breast cancer: Preliminary clinical study. Ultrasound Med Biol 2009;35:1249-1256

(次号は、自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門 教授 小谷和彦先生の予定です)

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