自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その26 同窓会報第81号(2017年7月1日発行)
「研究・論文をめぐる名言・迷言集 — 自治医大の若い先生方へ贈る」
自治医科大学脳神経外科 川合謙介
—いくら学会発表しても残らないよ、論文は残る、論文を書きなさい。
(恩師の脳外科教授の言葉。若い時からこれを実行するように心がけてきたつもりではありましたが、、、。今は自分のことは棚に上げてそのまま若い人に説いています。)
—とてつもなく素晴らしいアイディアを思いついて、これは行ける!と研究を始める。でも、世界では同じことを考えついてすでに実験を始めている人は最低でも10人はいるんだと思いなさい。
(恩師の脳外科教授の言葉。現実は厳しいのです、、、。)
—臨床はpessimistic、研究はoptimistic。
(「医療崩壊」の著者、小松秀樹先生(当時、虎の門病院泌尿器科部長)の講演にて。本質をついている言葉です。研究は10のうち1でも当たればよい、当たることを信じて、当たった日を夢見て続けてゆく。一方、臨床は10のうち1でもミスがあったら負け、1のミスもないように悲観的にワーストの状況を想定しておく必要がある。両方こなせばならない若手医師は切り替えが大変です。)
—何で世の中には「Journal of Negative Results」がないんだろう。
(30代、大学の助手として研究に励んでいた頃。次から次へといろいろ試してもnegative resultsの連続の日々。時間だけが過ぎてゆく。先人達が試してnegativeだった実験を知ることができれば、無駄な努力をする必要はないのに、、、。当時の同僚と私の言葉です。)
—何で世の中には「Journal of Case Reports」がないんだろう。
(同じ頃、国際専門誌は症例報告の敷居がやたらと高くて、症例報告専門誌があれば良いのに、と同僚と語っていた。まさか、その後、本当に出てくるとは。いまやopen journalは雨後の筍状態です。)
—内容が本当に良くて自信があれば、英文校正にかける必要はない。雑誌で直してくれる。そうでない論文ほど、英文校正には金をかけて良質のところに出すべき。
(私の実感です。後者がほとんどの私は、お高くても質の高い英文校正サービスをご紹介できます。)
—発表内容に自信があれば、high IF誌reviewerとの無駄な戦いに労力と時間を割くのは馬鹿げている。
(世界的に有名なてんかん外科恩師の一見逆説的な言葉。新しい術式の成績を投稿した時の言葉。少しでもIFの高いjournalから、というのが通常の発想だが、新しい治療法などはとにかく発表しておくことが大事。今IF高値のjournalが50年後もprestigiousとは限らない。)
—下請け査読は断るな。
(Anonymous。査読はとても勉強になります。悪い論文は何が悪いのかがよくわかるようになります。論理の一貫性のなさ、表現の冗長さ、根拠のない断定表現、等々、次に自分で論文を書くときにとても役立ちます。教授から査読を回されたら、断らないようにしましょう。)
—rejectされても諦めるな。
(ごくまれにですが、rejectされても徹底的に抗戦すると、再投稿という形でrevisionにまわしてもらえることがあります。私の経験より)
—とは言ってもreviewerのcritical concernsは有用。
(reviewerも真剣です。反論されたときのことまで想定してreviewします。reviewerのコメントを大いに参考にして、revisionするなり、次の雑誌に行くなりしましょう。)
最後に、研究は自分のやりたいことをやる、興味を持ち続けられることをテーマに選ぶのが重要です。臨床医の場合、さらに自分の臨床テーマと一致していれば、それほど幸せなことはありません。私の場合は、それが脳科学(海馬の虚血研究、電気生理研究、ヒト高次機能局在研究、てんかんの病態研究)であり脳神経外科臨床(特にてんかん外科治療)でした。皆様のご活躍を祈念しています。
(次号は、自治医科大学小児科 山形崇倫先生の予定です)
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