自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その30 同窓会報第85号(2018年7月1日発行)


言い切っていいこと、いけないこと」

            自治医科大学医療の質向上・安全推進センター/循環器内科 新保昌久(栃木14期)

shimpo

 県人会の大先輩である五味先生から鋭いパスを頂きました。なるほど次号の執筆者を紙面に載せてしまうという絶対逃れられない素晴らしいシステム・・感心しつつ何とか形にしないと。
  かつては名物MCのお昼の情報番組で「***を食べると**病が良くなる!」といった話題が賑わいましたが、最近は夜のゴールデンタイムで健康や病気に関する番組が目立ちます。健康志向の高まりなのかもしれませんが、ホント多い。番組の性質上やむを得ないと分かっていても、「名医」の先生が「よくそこまで言い切るなあ」というコメントを聞いて、眉をひそめることも多いのではないでしょうか?
 私は卒業後の地域での勤務の後に、大学院で基礎研究を行う機会を頂きました。当時循環器領域でトレンドであった血管新生療法がテーマで、遺伝子治療研究部でお世話になりました。分子生物学的研究の基礎を学ぶ際にまずたたき込まれたのは、結果が「正しい」と言えるための厳密さ、すなわちネガティブコントロール(ネガコン)とポジティブコントロール(ポジコン)の重要性です。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で想定されるバンドが出た場合、ポジコンでバンドあり、ネガコンがバンドなしがそろって初めて正しい実験だと言えるということです。バンドがない=結果が陰性、と言えないわけで、特にポジコンの概念は新鮮でした。また、シグナル伝達に関する実験では、刺激薬、阻害薬等を用いてその分子の関与の有無を厳密に証明していく・・その論理的思考を学ぶことは、難しくもあり楽しくもありました。臨床医がある時期に基礎研究を経験する意義は、この厳密な思考プロセス、つまり「言い切っていいこと、いけないこと」を学ぶことではないかと思っています。若手の皆さんには、ぜひ積極的にその機会を得てほしいと思います。
 最近は、医療安全の担当として「インフォームド・コンセントはきちんと得ているか?記録したか?」と突っ込みを入れる機会が多くなっています。もともと合併症などを詳しく話したりするのが好きな方ではなかったので、立場とは恐ろしいものです。しかし最近感じるのは、医師側のリスク回避のために合併症リスクを話すのではなく、その治療法の有効性と限界を「自分たちのデータで」患者さんに示すことの重要性です。自分たちの施設では、何例の経験があり、そのうち何例が有効で、合併症は何例あった・・これを数字で言えて初めてしっかりした「インフォーム」であり、レベルの高い医療提供者だと思います。そして最後に「いろいろお話ししましたが、我々は何があっても全力で頑張ります!」と言い切ること、この姿勢がさらに大切なのは言うまでもありません。
 苅尾七臣教授率いる我々循環器内科では、「目の前の一症例に全力を尽くす」ことが、診療、教育、研究の中心であると捉え、そこから新しいものを創る「創新」をテーマにがんばっています。読者の皆さんは、地域での医療を通じて数多くの貴重な経験を続けていることと思います。その経験を、著者が自信をもって「こんな新しい知見を見出しました!」と言い切れる形にするのが、CRSTの活動だと感じています。これまでにも数多くのすばらしい成果が得られていますので、ぜひご活用をお願いします。私も微力ながらお役に立てるようがんばります。  
(次号は、自治医科大学さいたま医療センター 腎臓内科 大河原晋先生の予定です)

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