自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その6 同窓会報第61号(2012年7月1日発行)

kario

「学術活動からの「創新」への努力 」苅尾七臣(自治医科大学循環器内科学、兵庫10期)

 自治医科大学内科学講座循環器内科学  苅尾七臣(兵庫県10期)  自治医大の卒業生は、卒後、全国津々浦々の地元へ戻り、地域医療に従事する。私は、昭和62年に自治医科大学を卒業後、兵庫県立尼崎病院で2年間の臨床研修を終えた。「医療の谷間に灯をともす」。意気込んで赴任した先は兵庫県淡路島の北淡町であった。のどかな漁村だった。人口の高齢化が進んでおり、脳卒中死亡が兵庫県下でも最も多かった。これを何とか減少させたい。これが最初の動機だった。公的医療機関より行政と共に地域全体に目を向け、予防活動をも包括した地域医療を展開する。これが、自治医大で学んだ基本姿勢であった。
 研修先の兵庫県立淡路病院院長の松尾武文先生から臨床研究の「いろは」を習い、国立循環器病研究センター研究所の宮田敏行部長の指導で血液凝固の領域を深め、自治医大循環器内科の島田和幸先生のアドバイスを受けながら、臨床データを蓄積し、予後を見た。
 優れた先人に人生のどのタイミングで出会うか。これが運命を分ける。じっとしていても出会わない。目の前の問題解決に向けて、真摯に行動する過程で出会う。これまでに実に多くの先人のアドバイスと支援を得た。その多くは、学術活動を続けていなければ話をすることもなかっただろう。
 これまでの臨床研究で、世界に先駆けて臨床概念を提唱できたキーワードが2つある。早朝の著明な血圧上昇である「血圧モーニングサージ」と夜間血圧の過度の下降を示す「Extreme-dipper」である。これらに関する3つの論文は、Google Scholarで検索すると合計1500以上引用されている。
 その始まりは、一例の典型例である。「これはすごい」と感動することが最初の第一歩だった。そして、自分のデータベースで典型例の特徴を独自に定義し、どの程度一般化できる現象をとらえているかを検証する。つまり、目の前の1名の患者への共感を持った医療経験から、“右脳”で重要事項を感情を持って感じ取り、“左脳”でデータを収集し客観的に定量評価する。さらに、その結果を、政治・経済的な歪みを入れることなく解釈し、対策を考え、正しいことを正しく、わかりやすく一般社会に伝える。これができてこその“専門家”である。
 我々は何のために、学術研究を行うのか? その原点は、現代ならびに次世代の社会への貢献である。今後も、努力を怠らず、新しいものを生み出す喜びを後進に伝え、実際に体験させたい。「創新」。これを現在、自治医大循環器内科の標語としている。

(次号は、自治医科大学バイオイメージング研究部 高橋将文先生の予定です)

戻る 次へ