自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その7 同窓会報第62号(2012年10月1日発行)
「JUST DO IT!」
高橋将文(自治医科大学・分子病態治療研究センター・バイオイメージング研究部、宮城12期)
自分ではそうは思っていないものの、県人会等の学生と話をするとだだいぶ年上になってしまっており、そのせいか「将来、どんな科を専攻したらよいでしょうか?」といった質問を受けることもあります。総合医と答えないとお叱りを受けるかもしれませんが、私自身、総合医をしていた時期もあり、専門医をしていた時期もあり、そして現在では、研究医をしていますので、なかなか簡単には答えられません。で、そんな質問を受けた時には、「好きなことで選ぶよりも、得意なことで選ぶ方がいいんじゃないかな」と話しています。というのも、「好きなこと」は突然嫌いになることもあるし、「下手の横好き」のようなこともあります。一方、「得意なこと」は突然不得意にはなることはないですし、得意なことはたいてい好きであることがほとんどだと思うからです。
しかし最近、基礎の研究室を運営するようになっていろいろ考えていると、研究に関しては「好きであること」が最も大切なのではないかなと思っています。近頃、様々なところで「何のために仕事をするのか」といったミッション(使命)が大切だといわれることが多く、私の研究室でも2つのミッションをHPに掲げています。しかし、自分の経験からすると最終的に何をやりたいかなんてなかなか見えてきませんでしたし、ただ考えていても独創的なことはなかなか思いついたりもしません。特に、他人の論文を読んで浮かぶアイデアはその時点ですでに本当の意味での独創性を失っているのかもしれません。とすると、独創性を得るためには、自分で実験して自分の結果を得るしかないのかな、と強く感じています。自分の結果から思い浮かぶアイデアは他の人には真似ができない、いわゆる「独創的」な考えだからです。最近、私たちの報告した論文(Circulation 123:594, 2011)が、掲載雑誌の昨年のBest Paper Awardに選ばれました。この研究では、心筋梗塞での初期炎症が心筋細胞や集簇してくる白血球ではなく、これまであまり注目されていなかった心線維芽細胞を場として惹起されてくるという独創的な事象を明らかとしました(自治医大オープンラボNews Letter Vol.43, 2011)。これは最初から予想していた訳ではなく、実験結果を重ねてそこから出てきたアイデアを検証していった結果、得られたものでした。
このような理由から、独創性という視点で考えると、私のやっているような実験を主体とする医学研究では、たくさん実験して、たくさん結果を出す必要があります。そして、このたくさん実験を実行するためには、やる気や体力ももちろん大切ですが、それよりも研究に興味があること、つまり「好きであること」がもっとも大切なようです。といっても、単に好きでやっているだけだと、プラモデルを作っているのと同じになってしまいます。そうならないために、論文をよく読んで、自分の研究やアイデアが現在どの位置にあるのか、客観的に自分を眺めてみることも必要です。つまり、論文を読むことはアイデアを得るためではなく、自分のアイデアを確かめるためにあるのではないかとも思います。ですから、研究室の若い先生や大学院生には、NIKEのコマーシャルでおなじみの「JUST DO IT!」といつも声を掛けています。
(次号は、自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門 中村好一先生の予定です)
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