救命救急センター間藤 卓 教授のコラム
日々の狭間、医療の谷間
自治医科大学救命救急センターで、日々、物事の狭間を覗き込み、あわよくば医療の谷間に灯をともす…

帰ってきたラムネのお菓子

2017.08.04 間藤 卓(Takashi Mato)
前回のラムネのお菓子の話から大分時間が経ってしまった。
 
実はあの後もいろいろ展開があったのだが、めずらしく多忙だったのと、どうも中途半端な話が多くて、プログを更新するタイミングを逸してしまったというのが実状だ。
 
まず『これまでのあらすじ』がてら、簡単にこれまでの経過をまとめると・・・。 「ラムネ食べながら飲むと悪酔いしない」とか、「二日酔いにラムネを食べると回復が早い」などの話があることがわかり、その後、ラムネのお菓子の主成分がぶどう糖だということがわかった。 まあきちんとRCTとかやったわけでもないので、それほど強気でいえることでもないが、「アルコール代謝が忙しいときは糖の産生がおぼつかないことがある」など、ある程度医学的な裏付けもありそうな話だった。
 
それで、「だったらいっそ大人用のラムネ菓子をつくったら?」みたいなことを、もそもそと森永製菓に提案してみたわけだ。 すると・・・めずらしく、またすばやいリアクションで、「では、大人用(専用?)のラムネのお菓子を考えて見ましょう」と言う話になった。
 
「それなら、ブトウ糖の代謝に必須なビタミンであるB1もぜひ加えて欲しい」的な希望というか、アドバイスなどもしてみた。B1については、昔、ぶどう糖が主たるカロリーである高カロリー輸液に、ビタミンB1を添加しないで不幸な転帰をとった事例は医師にとってわすれてはならない教訓の一つだ。
 
通常の健全な食生活をしていれば不足することはないといわれるが、アルコール摂取量がふえるとビタミンB1の消費が増えることもが知られている。こちらのアドバイスはそこまでだったが、さらに忘年会になると俄然アピールされるウコン*も追加して、ますます『大人用のラムネ』に相応しい雰囲気に仕上げるあたりが、さすが大企業という所なんだろう。
 
ラムネのチカラ
そんなこんなでできあがったのが大人のラムネならぬ、「ラムネのチカラ」という製品だ。 当方としては、当初の発案通り『大人のラムネ』とか、強いて言うなら、ウナギならぬ『夜のラムネ』あたりの、製品の意図を明確にアピールするストレートな商品名を主張したのだが、そういう安易なネーミングを大会社が受け入れてくれるはずも無く、たぶん企画会議などで議論された結果? 無難な「ラムネのチカラ」という商品名になった。うーん、ラムネと言うより、ぶどう糖のチカラなんだけどね・・・。
 
ついでにいうと、せっかくなら定番のあのラムネの瓶を模した容器と希望したが、B1を添加したための遮光性が必要になってしまい、ラミネートタイプのパックになってしまったのが残念だ。
 
これを食べたら悪酔いしにくくなった、とか、二日酔いになりにくくなった、とか、二日酔いから醒めやすくなった、とか、そんな評判がブログにまた書かれるか楽しみだなあ・・・ とか書いて、なんだか宣伝の片棒を担いでいるようで嫌になってブログを放置していた。
 
というのも、おまけに何の自慢にもならないというか、むしろ知的財産権を重んじる立場としては恥ずかしいことかもしれないが、ここまでのアイデア代の対価は0円だ。それなのに、さらにHPで宣伝の片棒を担ぐようなことを書くと、なにか森永製菓株式会社に弱みでも握られているの? と勘ぐられるレベルだ。
 
誓って言うが、森永製菓株式会社に何の弱みも借りも無い。そうはいうものの、こういう製品を作るのをお手伝いするのは正直楽しかった。まあ森永製菓株式会社には、これまで無かった「災害用のチョコレート」を提案して、それを実現化していただいたことには感謝しているので、まあ結構おもしろくたのしい経験になったので良しとしよう**。
 
ということで、では「ためしに食べてみよう」「注文してみよう」という奇特な方やありがたい方もおられるかも知れないが、それが残念なことに、その後、まもなく販売中止になってしまった。(のでここに書くことにした。)
 
理由は簡単で、要するに思ったほど売れなかった、ということらしい。まあ先方も商売でやっているのだからこれはしょうがない。狙いは悪くなかったと思うのだが・・・。年末にCM位は打って欲しかったが・・・。
 
まあ取らぬ狸の皮算用的な話はここまでなのだが、副産物? として、もう一つ興味深い経験をした。というのは、ラムネのお菓子の話をHPに書いたら結構な数の知り合いから、「大人のいまでも食べてますよ」「今も子供にたべさせてますよ」という話を聞いたことだ。
 
たしかにスーバーの売り場だけで無く、コンビニでも見る。気のせいか、むしろ最近は見る機会が増えた感じすらする。 とはいえ、ごく少数の"わかっている"人を除いたら、てっきり今も昔も"子供の遠足のお伴"だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
 
定番のお菓子は、強いとはよく言うが、なにより形を変えずに売れ続けるというのはなにか魅力があるんだろうな、と改めてその意を強くした。 まあ、そんなわけで、知り合いのドクターや看護師さんなどを始め、いろいろな方から情報を寄せていただいたが、一番マニアックだったのは某救命救急センターの教授だった。
 
なんでも、その教授は、自分の子供のおやつというか、『勉強の合間に食べさせるのに適したお菓子』を探そうとおもったらしい。それで「脳はぶどう糖を大量に消費するんだから、ぶどう糖が多く含まれているお菓子はないか?」と検索して、ラムネのお菓子を探し当てたというのだ***。
 
以来、勉強の合間とか、試験の前にラムネのお菓子を食べさせているというのだ。 「へ~」とおもわずトリビアのボタンを連打しそうな話で、「で、先生、結果はどうでしたか?」とつい聞いてしまったけどそこは笑って教えてくれなかった・・・。
 
その脳で思い出したが、ドクターXという名医の方は手術が終わった後に、ガムシロップを何個もググッと飲み干すのがお約束らしい。オペを凄い集中力でこなして、オペ後に脳が疲れたときには、ガムシロップでぶどう糖を脳に補給する、という行為なんだろうとおもう(すくなくとも作者の意図は)。
 
ただ・・・まあ・・・ ここからは小声で言うけど (フォント小さくしてみようかな)、ガムシロップに何が含まれるか、ドクターXはご存じなのだろうか? というかなんでアイスコーヒーだけは、砂糖じゃ無くてガムシロップを入れるか、皆さんはご存じだろうか? ガムシロップってなに? と聞かれたら、砂糖をギリギリまで溶かした液だと思っていた方も多いと思う。たしかに、もともとガムシロップと言う名称は、アラビアゴムで粘度を付けた砂糖液を指すものだった。しかし最近はある理由から、ほとんどが異性化糖(果糖ブドウ糖)液となっているのだ。
 
その理由というのが、ちょっと興味深い。実は、多くの糖類の"甘さ"というものは、温度が下がると味蕾がその甘さを感じにくくなる性質がある。しかし興味深いことに、果糖だけはむしろ温度が下がったときに甘さが強くなると言うおもしろい性質があって、だから冷たい液体であるアイスコーヒーには、果糖主体のガムシロップが少量で甘さを出す方法としては適しているのだ。もちろんぶどう糖もある程度含まれているし****、果糖も体内で一部はぶどう糖に変換されるので間違っているわけではないのだが、残念ながらガムシロップの主成分は果糖ブドウ糖液で多いのは果糖なのだ。
 
「そんな細かけーことは、いいんだ!」と怒られそうだけど、個人的には、術後のドクターX女史には、是非ラムネのお菓子をボリボリ食べて欲しい。と思う次第。
 
そうしたらラムネのお菓子ももっと売れるかもしれない。まあ僕と違ってCM料高そうですが・・・。
 
 

*ウコンの過量摂取についてはまたいろいろ問題があるし、個人的に思うところもあるが、今回の添加量は少量なので問題ないと思われた。
 
**亀井さん長年ほんとうにありがとうございました。この場を借りてお礼を言っときますね。
 
***さすがです、O教授!
 
****果糖が多いのは、果糖ブドウ糖液。ぶどう糖が多いのがぶどう糖果糖液、という名称になる。ご存じでしたか?


 
 
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