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卒業生インタビュー 後藤忠雄(岐阜県)

卒業生インタビュー 後藤忠雄(岐阜県)

(平成26年度 取材)

後藤忠雄

岐阜県群上市
群上市地域医療センター
後藤忠雄

町村合併とともに自身の幅を広げていく


「その当時、日本でこれほど大きな規模の自治体合併はほかに見られず、ましてや、自治医科大学の卒業生が義務年限中にその渦中に身を置くことなど皆無でした。前例がないのです。だから今でも正解はわからないのですが、少なくとも、いろいろとチャレンジするチャンスだとは思いました」

岐阜県出身の後藤忠雄は、1991年、岐阜県郡上郡和良村に赴任した。人工2,500人ほどの山村、典型的なへき地だが、当時の和良村は男性長寿日本一になるなど、医療・保険・福祉の面では都内でも一目置かれる存在だった。その和良村を含む7町村の対等合併により、2004年に現在の郡上市が発足。面積は1,000km2を超え、東京都のおよそ1/2、その広域自治体で後藤は今、国保和良診療所長のほか、郡上市地域医療センター長、郡上市医師会副会長、そして岐阜県国民健康保険診療施設協議会理事などを兼任し、和良という一地区を超え、そして医師という立場を超えて活動の場を広げている。

この20年あまり、和良、そして郡上市に対する後藤の貢献を象徴するエピソードは数知れないが、まずひとつ挙げられるのは、「地域医療体制の再構築」だ。具体的には、「市内5カ所の診療所を4人の医師で支える」というもの。

「まず、医師不足対策は大前提ですが、このほかに“医師の負担軽減”という意図があります。ひとつの診療所に医師をひとりずつ配置すると、ひとりだけがその診療所を担当すればいいという反面、担当医師はほかを頼れないという状況が生まれます。医師も人間ですので、学会や冠婚葬祭、休暇など、診療所を空けざるを得ない事情が生じます。その時、1カ所に複数の医師が関わっていれば、シフトを変えるとか、休日を交換するなど、柔軟な対応が可能です。1カ所1名の体制は、住民の方にとって目の前の安心が得られやすいのですが、結局は良しに負担がかかり、長い目で見ると好ましいとは言えません。体性を変える際には住民の方から不安の声が上がりましたが、医師が安定的に赴任できる体制であることをご説明し、お互いの落としどころを探りました」

この功績により、後藤は2013年、住友生命福祉文化財団創設の「地域医療貢献奨励賞」を受賞した。

そしてもうひとつ、後藤の取り組みを語るうえで外せないのが「まめなかな和良21プラン」だ。これは和良村の時代から始まった地域の健康計画で、2年間の策定期間の後、毎年の計画検討や節目の年での調査など、実践・評価を繰り返している。現在、これとは別に郡上市で「郡上市健康福祉推進計画」が策定されているが、これにも後藤が行った藁の先行事例で培ったノウハウが、より広域な市という規模で応用され、発展形として形になっている。

これら健康計画は、後藤とともに働く保健師の「地域に合った健康計画を作りたい」というひと言に端を発し、そこに自身のヘルスプロモーションの知識、循環器疾患をターゲットにした大規模コホート研究の手法がリンクして生まれた産物だ。しかし、後藤が一連の経緯で重要視するポイントは、別にある。

「地域医療は、診察室の外にあるのです。仮に、患者さんが慢性疾患で月に1回、15分の診療に通われるとしても、それ以外の時間は診察室の外にいる。それが患者さんの日常で、診察室は非日常空間なんです。ならば、住民の日々の健康を担う医師のほうから、診察室を飛び出して活動する必要がある。その意味で、住民の方々の健康調査や疫学的評価などをひと通り行い、さらに住民の方々や行政と一体となって課題を検討するといったプロセスに地域医療の本質があるのです」



未来の医師のために地域医療の環境を整えたい


町村合併などの紆余曲折もポジティブにとらえ、地域医療のオーソリティとして実績を積み上げてきた後藤だが、その視野は僻地だけにとどまらず、広い。「ひと昔前まで、少子高齢化や医師不足は過疎地だけの問題でしたが、現在は都市を含む日本全体の課題です。そんな今こそ少子高齢化・医師不足の先進地域で日本の医療を支えてきた、自治医科大学卒業生たちのノウハウが役立つはずです。和良の計画が郡上市に生かされたように、全国のへき地での取り組みが都市にとっての先駆けとなるでしょう」

さらに、郡上市の地域医療について後藤が語る展望は、もはや医療の枠を超えている。

「これまでの地域医療は、その土地や家庭医療への親和性など、医師の“やる気”に負う部分が大きかったことは否めません。医師の資質は当然問われるべきですが、今は時代が変わりました。今後、地域医療を安定して継続させるためには、医師が身を置きたいと思える環境も必要です。その環境を整えるためには、地域医療を何らかのシステムで支え、地域とそこに携わる医師が得られる恩恵を具体的に提示できることが理想です。郡上市がそのモデルケースとなれるよう、みんなで考えていきたいですね」

地域医療の最前線に立ち、住民の健康を願った末にたどり着いた後藤の現在地。それはすでに、医療を俯瞰した高みにある。後藤のビジョンは医療にとどまらない。

夢は、まだその先に広がる。