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卒業生インタビュー 鈴木孝明(三重県)

卒業生インタビュー 鈴木孝明(三重県)

(平成29年4月 取材)

鈴木孝明

三重県鳥羽市
鳥羽市立長岡診療所
診療所長
鈴木孝明

患者さんの向こう側にいる診療所に来ない人の言葉に
地域医療の“次”を見出す


地域住民と車座になって語り合う座談会

平日の昼下がり、小さな漁港を望む集会場に、女性を中心とした20人ほどの高齢者が三々五々集まった。

三重県鳥羽市国崎町。漁業を営む現役の海女が全国一多い鳥羽市にあって、この町の海女はアワビなどの海産物を伊勢神宮に奉納する役目を2000年守り続ける最も誇り高い集団だという。

鈴木孝明(三重県20期)が勤務する鳥羽市立長岡診療所は、この国崎町を含め、同じく海女の郷として知られる相差町など5つの町の、約2,000人が暮らす地域を医療圏とする。

この日は、鈴木の発案を受けて町内会長が呼びかけた座談会が開かれる。午前中、国崎町からは4キロの距離にある長岡診療所に通院してきた患者さんからは「先生、今日こっちに来てくれるんやってな」と声をかけられていた。名目は医療相談会だが、同じ地域の理学療法士や歯科医師にも声をかけ、医療や介護に対する思いを住民と同じ目線でざっくばらんに聞くことを主な目的としているため、鈴木は「座談会」と呼ぶ。実際、和室で車座になって行われた。


演劇と合唱の経験を活かした患者さんが話しやすい演出

長岡診療所は、前任者が急逝し、2016年に急遽着任が決まった。

「医師不在の間に診療所を離れ、市中の大きな病院に通い出した患者さんたちが、徐々に戻ってきてくれました」

朝9時、診療が始まると、カーテンの向こうの会話が途切れない。診療所の仕事を手伝う女性から“鈴木先生は話しやすい”という評判を聞いた。鈴木自身、相手の話を遮らないばかりか、語られる言葉の深意を咀嚼することや、やり取りの間合いまで学生時代の演劇と合唱の経験を活かし、話しやすい“演出”をしている。「地域医療は、普段の生活や家族の様子への配慮も仕事のうち」と考えるからだ。

意を汲むのは会話ばかりではない。内科診療のほか、膝が痛いと訴えられれば注射で水を抜き、目や耳の不調にも応える。“ほかでは治らなかった湿疹をよくしてくれた”と、片道3時間をかけて通院してくる患者さんもいた。ただし、「医療にはやりすぎてしまうことでの不幸もある。その点も気をつけています」という。

かつて、使命感から患者さんを抱えすぎた反省から、今は症状を精査した上で、他の医療機関に送ることや、介護と連携することを心掛けている。そのため長岡診療所では住み込みではなく、初めて通勤での勤務を選択した。

「自己犠牲を自分に強いたのでは、肝心の医療を継続できません。プライベートを含め、地域医療に取り組む人生そのものを楽しまなければ」

ところで国崎での座談会は、認知症をテーマにしたはずが、膝痛の市販薬の効果にまで話が及びながらお開きとなった。そこに集まった人が診療所に来るとは限らないが、「診療所に来ない人から聴く話の中にこそ、次にやるべきことのヒントが隠れている」と、地域の人と膝をつき合わせた会話を振り返り、午後の診療のため、患者さんが待つ診療所へ帰っていった。