がん最適化医療を実現する医療人育成

文部科学省『多様な新ニーズに対応する「がん専門医療人材(がんプロフェッショナル)」養成プラン』採択事業

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1/29 H29年度 全国がんプロ教育合同フォーラムにて東京大学拠点から山口特命教授が発表しました。

 

「がん最適化医療を実現する医療人育成」

東京大学拠点 (特命教授 山口 博紀)

 

 自治医大の山口です。東京大学拠点で、ライフステージに応じたがん対策を担当している自治医科大学から発表します。

 本日はまず、東京大学拠点がんプロの取り組みについて紹介し、続いて自治医科大学がんプロの取り組みを報告します。最後に地域・僻地がん診療への自治医大の取り組みを発表します。

 まず、東京大学拠点がんプロの取り組みです。テーマは、がん最適化医療を実現する医療人養成ということで、第2期のがんプロである東京大学、横浜市立大学、東邦大学、自治医科大学に新たに北里大学と首都大学東京が加わりまして、この6大学でプロジェクトに取り組んでいます。

 こちらがグランドデザインになります(添付図)。これまで第1期がんプロ、第2期がんプロで、それぞれ、放射線科、化学療法、そして緩和医療の専門家が養成され、一定の成果が得られてチーム医療も充実してきました。ところが進展するがん医療においては多様な未解決問題があり、例えば小児・若年のがんへの対応、がんゲノム情報、プレシジョン・オンコロジー、希少がん難民に対する対策、そしてそれぞれのライフステージにおけるがん医療には、まだまだ対応していないのが実情です。このような様々ながん医療におけるアンメットニーズに対して、それぞれ6大学が得意な分野を中心課題としてチームを組み、教育コースを相互連携させることによりこれらの問題を解決し、そしてこの多様な状況に応じるがん最適化医療を実現することを目標にしてプロジェクトを進めています。自治医大は、先ほど申しましたように、ライフステージに応じたがん対策を中心に取り組んでいます。

 東京大学拠点の特徴的な取り組みを紹介します。まず、6大学で連携して合同セミナーを行い、多地点会議システムでセミナーを連携大学で共有しています。自治医科大学の会議室で、横浜市立大学が講演しているものをスライドに映して、マイクとスピーカーで質問を含め全て自由に、本当にそこで演者が講演しているように聴講することができます。これは大体18時か18時半ぐらいから始まりますので、多職種、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、そして近隣の調剤薬局の薬剤師の方々も、仕事が一息ついたら、ここに来て聴講しています。平成29年度は既に6つの6大学合同セミナーが終了しており、今年度中にあと7つのセミナーを予定しています。各大学がそれぞれの重点課題のテーマを中心にセミナーを組んでおります。

 もう一つ特徴的なこととしては、1月6日に、これは第5回になりますが、東京大学が主催して、がんプロ学生の研究発表会を行いました。例えば、大学院生ががんに関する研究をしても、自分の研究はわかるけれどもほかの人は何を研究しているのかわからないというのが実情です。それを俯瞰的に、多角的に、がんプロという枠を利用して見ることができないかということでこの試みが始まりました。

 連携大学の大学院生がそれぞれの研究を東京大学に集まって発表します。1人持ち時間20分で、学位審査に準じて発表し、それをそれぞれのがんプロ学生が聴講して勉強します。発表会が終わった後は懇親会を行い、がんプロの教員とがんプロの学生が大学の枠を越えて交流する有意義な場を設けています。実際に1月に行われた研究会の発表タイトルからわかりますように、各大学からがんに関するさまざまな研究についての発表がなされ、活発な議論がなされました。

 また、今年度は東京大学で「がんゲノム医療」、そして自治医科大学で「ライフステージにおけるがん」をテーマに2つの市民公開講座が行われました。こちらについては後ほど自治医大の取り組みの中で発表します。

 自治医科大学の地域がん総合医学コース、これは大学院生を対象として来年度の開講を予定しております。自治医科大学の特長はやはり卒業生が地域医療、僻地医療に従事していることですから、それを念頭に置き、地域のがん医療現場において多職種をコーディネートしたがん診療のチームリーダーとして、小児から老年までのあらゆる年齢層のがん患者に対応し、それぞれのライフステージにおける特性に配慮した、おのおののがん患者の生活の場や生き方を大切にしたがん診療を実践できる人材を養成することを目標にしてコースを組んでいます。講義と研究指導、それから先ほどの6大学セミナーの参加、そして論文作成、これが修了の要件となっています。

 インテンシブコースの対象は自治医大卒業の医師が中心です。もう一つは、インテンシブコースⅡとして、地域医療に従事している医療従事者、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、ケースワーカー等が、がん患者それぞれのライフステージに対応したきめ細やかな専門性の高いケアによって、患者及びその家族が安心して生活を送ることを支援できる人材を養成することを目標としています。これらインテンシブコースは地域の医療に従事している方々が対象なので、e-learningで受講できるようにしています。これも後ほどもう少し詳しく説明します。

 また市民公開講座『さまざまなライフステージにおけるがん、がん患者と家族が日々の生活で困っていること』を、12月17日に自治医科大学で行いました。自治医大のがんプロの取り組みについての紹介に続いて、就労支援、働いている人ががんになったとき、困ったときどうすればいいのかをテーマに講演していただきました。それからがんサバイバーの方においでいただいて、現役のアナウンサー時代にがんを患って、それをどうやって乗り越えたか、患者の立場から講演をいただきました。そして、がんの親を持つ子供、小さい子供ですと強い精神的ショックを受けてしまいますので、そういう子供たちをサポートする自治医大の取り組み、CLIMBプログラムを臨床心理士が講演しました。続くパネルディスカッションでは、がんAYA世代にがんを患った報道関係のがんサバイバーの方においでいただき、基調講演をしていただいた後、各演者にパネリストになっていただき、会場参加者からがんについて日々困っていることについて質問を受け、それに対してどうしたらいいかアドバイスや回答をする場としました。

 参加人数が予想以上に多く200人を超えました。終了後、懇親会にてがんサバイバーのパネリストの方々、がんプロ学生、そしてがんプロの教員が交流の場を持ちました。

 公開講座のアンケートの回収率は81%で、結果としては、203名参加し、やはり60代、70代の高齢の方が多かったです。一般市民の参加者が半数以上を占めていましたが、その他にさまざまな職種の医療従事者が参加されました。講演はわかりやすかったか、今後の活動に役に立つかというアンケートの設問においては、両者とも肯定的な意見が9割以上を占めていました。非常に好評なコメントも多かったです。

 もう一つ、自治医大の取り組みとして、がんプロが後押ししているがんサロンがあります。「がんサロン虹」と銘打ちまして、基本的には月1回大体2時間ぐらいの時間を使い、まずミニレクチャーを行い、それから臨床心理士によるリラクゼーションを行い、最後にがん患者同士の語り合いの場を持っております。ミニレクチャーのテーマも、第3期のがんプロの重点課題に合わせて、医療費について知ろうとか、アピアランスや外見のケア、具体的には抗がん剤をやって皮膚障害が出たときにどうやって工夫して対処すればいいのか、こういったこともテーマとして加えられています。

 参加人数のグラフ、一番手前が平成27年、平成28年が真ん中、一番奥が平成29年となりますが、ご覧のようにだんだん参加人数が増えてきています。特に宣伝するわけではなく、チラシとそれからウェブページの掲載だけですが、やはり患者さんの口コミで増えてきているというのが実情です。場所は職員食堂の隣、職員の休憩スペースを使っていますが、ちょっと入りきらなくなってきたので今どうしようかと検討しているところです。2017年に、このがんサロンの活動をまとめ、Palliative Care Researchに臨床心理士が論文を載せました。ほかの病院に聞くと、がんサロンをやってもなかなか患者さんが集まらないというところもあるようですのでご参考になれば幸いと思っております。

 最後、地域・僻地がん診療への取り組みについてです。

「医療の谷間へ灯をともす」というのは自治医大の建学の精神です。私も赴任して初めて知ったのですが、これは自治医大の校歌の一節です。卒業生は義務年限の9年間を地域・僻地で医療に従事します。その9年間の義務年限が終わってからも、やはりその地域で医療を続けられる方がほとんどです。各都道府県には2名か3名、毎年卒業生がいます。各県で毎年2-3人ずつ増えていき、設立46年となります。各都道府県には自治医大卒業生からなる同窓会組織があり、1年に1回、県人会が開催されます。私たちがんプロ教員が県人会に合わせて各地に赴いて地域腫瘍学セミナーを開催し、最新のがん診療についての情報提供とがんプロの広報活動を行っています。地域・僻地、それから離島のがん診療の実情はなかなかこちらに伝わってこないので、懇親会で現場の生の声を聞くということもしております。

 そこで感じましたのは、がん対策基本法ができて、がん診療連携拠点病院できて、インフラが整備されて、最初の目的であるがん医療の均てん化は着実に上向きにはなっていますが、やはりがん医療を受けられていないところというのはたくさんあるのです。僻地とか離島とかは十分ながん医療を受けられていない。そういうところとは、幼年期から子供から老人まで一人の医師が診ていますので、今、ライフステージが中心課題となっていますが、がん患者のライフそのものが問題なのです。どうやってがん医療を受けるかというところが問題となっています。

 自治医大のインテンシブコースですが、インテンシブコースⅠは医師、本学卒業生を主な対象として設置しました。これはe-learningのコンテンツで、がんの最新の情報と地域におけるがん診療についてを中心に、17個のコンテンツがあり、随時更新してリニューアルしています。インテンシブコースに登録後e-learningを受け、必修を含めこの中から全部で12コンテンツを受講して小テストに合格すると、修了証書が授与されます。

 昨年の11月にこれを完成させて、メールで卒業生に送りました。結構反響があって、まだ3カ月足らずですが、北海道から沖縄まで受講希望者が殺到して、もう60人となりました。とてもニーズが高く、やはり僻地・地域医療に携わっている方々は、最新のがんについての診療情報を非常に欲しているということがわかります。この教育活動もさらに充実させていきます。

 続いて研究です。がん診療の空白地帯をなくす取り組みが今必要とされております。これは非常に壮大なテーマですが、まず、どこががん診療の空白地帯かということがまだ明らかになっていないので、そこを明らかにすることが必要と考えています。自治医大のがんプロとしては、自治医大卒業生の強固なネットワークを利用して、アンケート調査によって現場の声を聞いて、地域におけるがん診療の実態を把握したいと考えています。

 あとは、ビッグデータです。現在、これを利用してさまざまな医療の分野に応用されていますが、レセプトとかDPCデータを用いてがん診療の空白地帯を把握することができないか検討しています。

 こういった実態を把握し、AI(人工知能)、そしてITを活用して僻地医療のレベルを向上させることができないかということを、来年度から開講する大学院生の研究テーマとして計画しているところです。

 例えば自治医大の卒業生はどこの僻地に行っても胃カメラと超音波はできるように教育されています。ただ、生の声を聞くと、地域で胃カメラをやると、患者さんに、先生、あなたは内視鏡の専門医を持っているんですかと言われてしまう、専門医の資格を取る余裕などなく非常に悲しいと。ただ、進行胃がんは診断できるけれども、早期がん、本当に微妙なものを診断するのは自信がないということで、例えば、AIによって早期胃がんの内視鏡で画像診断することも技術的には進歩しており、地域・僻地医療に応用できないかということも検討しています。

 アメリカで普及していますのが、ITを利用した遠隔診療です。診療報酬の面でもようやく日本でも法が整備されてきましたので、地域・僻地でITを利用して遠隔診療を行うことによってがん診療の谷間を埋めていくということができないか、これはかなり先の話になりますが、こういった展望も持っております。

 以上まとめますと、がんプロ東京大学拠点としまして、ライフステージに応じたがん対策ということで、地域がん患者の生活の場や生き方を大切にしたがん診療を実践できる人材の養成を進めてまいります。具体的には6大学が連携した教育体制の継続と発展を進め、公開講座やがんサロンによる啓発・教育活動を進め、自治医大卒業生のネットワークを利用して地域・僻地がん診療の現状を把握し、AIやITを用いて解決策を検討していきたい、以上のように考えております。

 ご清聴ありがとうございました。