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Episode.2 ダブルバルーン内視鏡による新たな世界の開拓 (1/2) 

山本博徳先生


—これまで長年にわたり不可能とされてきた小腸の内視鏡検査。ダブルバルーン内視鏡の開発によってそれが可能となり、現在は世界約60ヵ国において小腸の内視鏡検査や治療で使用されています。世界最先端技術であるダブルバルーン内視鏡を開発された山本博徳先生に、学生広報委員の佐川(医学部・5年)がインタビューを行いました。—

(2012年4月26日)


学生広報委員・佐川(以下、佐川): ダブルバルーン内視鏡を開発された山本先生にお話を伺えるということで、本日は楽しみにしてきました。早速ですが、ダブルバルーン内視鏡を開発されたきっかけはなんだったのでしょうか。

山本博徳先生(以下、山本):小腸の内視鏡検査が必要だという患者さんがいても、当時は内視鏡を小腸の中に上手く入れていく技術がなかったので、開腹して術中内視鏡をするという方法しかなかったんです。でも検査のためにお腹を開くというのはちょっと大変ですよね。だからプッシュ式といって長い内視鏡をただ押し込むという検査が行われていました。しかし内視鏡が長ければいくらでも入って行くかというとそうではなくて、腸はお腹の中で移動するし伸び縮するし、内視鏡をいくら入れても中で複雑に曲がって進まなくなって、結局小腸のほんの一部しか見られない、そういう検査をしていたんです。 そういう検査を見て、もう少しいい方法はないかなと考えたのがダブルバルーン内視鏡の発想の最初です。

佐川:じゃあそのもう少しいい方法がないかなぁと考え続けて、どれくらいで思いついたんですか?

山本:思いついたのは数日です。

佐川:数日ですか?!

山本:発想はそんなもんです。どういう思考で思いつくかというと、やっていたことの分析をするわけ。問題点は何かということをね。腸の中に長い内視鏡を押し込んでいっても途中で入らなくなってしまうのは何故かなと。
非常に長い小腸を完全にまっすぐにすることは不可能で、曲がるから入らないというのが常識だった。しかし常識とされていたことに対して疑問を感じたわけね。例えばカテーテルでは曲がっている状態でもカテーテルの中をガイドワイヤーは進んで行く。その違いはどこにあるんだろうと考えたんです。そして、まっすぐであるということは必須条件ではない、伸びるっていうことが問題だと思ったんです。

佐川:それで腸を伸ばさないようにするための仕組みを考えたわけですね。

山本: 内視鏡にかぶせて使うオーバーチューブの先端にバルーンをつけて腸を押さえれば、その中を進めていく内視鏡は必ず先端が進んで行くというふうに考えたのね。 オーバーチューブを進める時には内視鏡が抜けないように内視鏡の先端にもバルーンをつけ、内視鏡が入ったらバルーンで押さえて、オーバーチューブ進めたらオーバーチューブもバルーンで押さえて、その繰り返しで入って行くと。そうすれば、バルーンで押さえて腸をただ単に伸ばさないだけじゃなくて、縮めて短縮して形を整えて、また入れやすいようにもできる。その方法を使えば入るはずだと。

ダブルバルーン内視鏡の仕組み ダブルバルーン内視鏡の仕組み

 

佐川:オーバーチューブと内視鏡で、カテーテルとガイドワイヤーの関係を作るっていうことですね。

山本:そうそう。

佐川:で、端をバルーンで押さえてやっていけばいいと

山本:そう、両方にバルーンがあれば、常にどちらかで安定させた状態で進んでいけるから、今までの方法よりはるかに挿入性がよくなるだろうと考えたのね。結果的に上手くいって、これまで不可能だったことができるようになった。 これまでは小腸が腹腔内で自由に動き回って伸び縮みするというのが、内視鏡挿入に関する小腸の解剖学的なデメリットだったわけね。だけど、バルーンで把持して縮めて整えるっていうことを考えると、自由に動いて伸び縮みしてくれることが逆にメリットになるわけ。今までデメリットだったことをメリットに変えてしまえば、結果は大きく変わる。これまで不可能であったことが比較的簡単にシンプルな構造でできるようになったので、普及につながったんだと思います。

佐川:その発想をして、じゃあその内視鏡を自分で作ってみようって思われたということですか?

山本:発想してから実際モノにするのはハードルが高いですよね。これをやれば上手くいくはずだなって頭の中では思っていたんですけど、どのように進めたらいいのかがさっぱりわからなかった。それで国内の内視鏡の三大メーカーに相談したんだけど、やっぱり断られた。

佐川:できるわけない、と?

山本博徳先生山本:そう。それが理由の1つ。何故その当時できるわけないと思われたのかというのは、小腸内視鏡の歴史は結構長く、内視鏡が開発されて大腸や胃の内視鏡検査ができるようになって、すぐにみんな小腸にも内視鏡を入れようとし始めたわけ。しかし1970年くらいからずっといろんな人が工夫してやろうとしてたけど、ことごとく失敗してきた。だからこれは無理な分野だとメーカー側は思ってたみたいです。非常に難しい課題を解決するにしてはダブルバルーンの仕組みは余りに単純な発想だから、そんなの上手くいくわけがないというのがあったみたいで。

もう1つの大きな理由は、小腸の内視鏡検査がどれくらい行われているかということ。大学病院でも年間数例くらいしかやってない検査だったので、メーカーとしても開発に費用がかかって採算が取れないから投資はしないと言われました。そういうわけで最初は協力を得られなかった。その時僕は現状で行われてる数を考えてもよくないんじゃないかと言ったんですけどね。できないからやらないのであって、できるようになったら必要性がもっとあるはずだと。

それともう1つ、同じ時期にカプセル内視鏡というカプセルを飲むだけで小腸を見られる方法が開発されてきていたので、カプセル内視鏡で苦痛なく検査ができるのに今さらそういう方法を開発しても意味がないんじゃないかと言われました。それは逆で、カプセル内視鏡が開発されれば、それを精密検査したり治療したりする小腸内視鏡はより需要が高まるはずだと主張したんだけど、その当時は認められなかった。

佐川:逆境からのスタートだったんですね。

山本:結果的には両方とも私の予想の方が当たって、今ではカプセル内視鏡で異常が見つかればダブルバルーン内視鏡で精密検査して治療するというのが、小腸に対するアプローチとして認められるようになってきたんですけどね。 最初はメーカーの協力を得られなかったので諦めようかなとも思ったんだけど、自分では上手くいくはずだと思ってたから、試してみたいという気持ちがあった。そして手作りのオーバーチューブとバルーンで、ダブルバルーン内視鏡を自分で作ってみたんです。

佐川:ご自分で作られたのはどういう感じのものだったんですか?

山本:ホームセンターに行くといろんなサイズの水道ホースが売っているので、内視鏡の径に丁度合うやつを買ってきて、長さを決めて、そこに自分で工夫してバルーンをつけてという形で作ったんです。

佐川:じゃあ結構地道な作業を・・・

山本:そうそう、非常に地道な作業。けど作っても、安全性も何もわかっていない状態でいきなりどう試せばいいのかというのが大きな問題でした。そしたらちょうど消化器内科の医局に大学時代の後輩が入ってきたので、一緒にやってみないかという話をして、その彼にまず第一の被験者になってもらったんです。

佐川:1回目は上手く・・・?

山本:上手くいかなかったですね。太すぎて。それに、鎮静もせずに喉麻酔だけでやったんで、ちょっと苦しかったみたいです(笑)

佐川:(苦笑)

ダブルバルーン内視鏡山本:それで、交代して私もやってみたんだけど、結構苦しいということがわかって、細くしないと駄目だと思った。それで、できるだけ細い内視鏡にできるだけ細いオーバーチューブを作って、それで動物実験で確認してから、最初のよりはもうちょっとマシなものになった。そして大学の倫理委員会を通して臨床で使って、上手くいくということが確認できた。それを学会で発表したり論文にしたりしてたら、すごいと言ってくれる人達が出てきて、最終的にメーカーが一緒にやってくれることになって、ダブルバルーン内視鏡システムが市販されるまでに至ったんです。

佐川:ちなみに、発想からどれくらいで?

山本:1997年の発想で、ダブルバルーン内視鏡の試作機第一号ができたのが2000年の秋。それで安全で有効であるということを確認して、市販になったのは2003年の秋。だから6年くらい。

佐川:長かったなぁと思いますか?

山本:当時はゆっくりに感じたけど、新しいものを開発して製品化するっていうのは大変な作業なので、結果的に見たらそれくらいでできたのは早かったかなと思う。 市販をそんなに急いでいたわけでもなかったです。やっぱり、不確実な状態で売られ出して、駄目だったって言ったら終わりじゃないですか。だからある程度、安全性・有効性をちゃんと確認したいということもあったので、そんなに長い間待ったっていう気もしないですね。比較的スムーズに進んだかなと。

佐川:その6年間での失敗談はありますか?

山本:うーんそうですねぇ。最初の頃はバルーンを付けるのもオーバーチューブを付けるのも検査のたびに自分たちでやらないといけなかったのね。まだ試作段階でメーカーから材料だけ送られてきて、自分たちで組み立てていた。バルーンの接着作業の時に最後の段階で失敗して最初から作り直しみたいなことや、途中でバルーンが割れたり、そういった細かい失敗はあった。

山本博徳先生佐川:大きな失敗はなかったのですか?

山本:幸い大きな失敗や事故というのはなかったです。最初は色々心配したんだけど・・・。というのは、小腸の中っていうのは無菌に近いくらい細菌が少なく、それに対して大腸や口や食道の中は細菌がすごく多い。その状況で小腸の深くまで内視鏡を入れていって、その後お腹が痛くなったりするんじゃないかとか多少心配したりしました。けれども全くそういったことはなかったです。


佐川:開発を進めていく中で何か気を付けたことはありますか?

山本:小腸って結構壁が薄くてあんまり強くなくて、自分たちでやってる時は比較的弱い臓器だと認識して安全性を第一に考えてるけど、市販されたら何も考えずにやる人がいっぱい出てくるだろうということをすごく心配していました。偶発症がいっぱい出てとても危険な検査ということになってしまったら大変だなぁと。でも結果的にそうはならなかった。 そこは1つ理由があって、内視鏡を入れていく時にバルーンで腸をつかむことになるでしょ。あんまり強い力でつかむと危険だから、その把持する力を必要最小限ぎりぎり弱い力にしようと考え、内視鏡挿入に必要と思われる必要最小限の把持力が出る、そういう圧力にしたんですね。そうすれば、内視鏡を無理に入れようとすると、腸が破れる前にバルーンがズレる。そういう安全性をある程度確保するシステムにしたから、穿孔とかそういう偶発症が多発するということはなく済んだ。そして、ちゃんとした使い方をしている限り、非常に安全だということで、認められるようになった。

佐川:把持する力の限度を決めたらいいっていうのも先生が考えたのですか?

山本:そうそう。医療の検査として使えるためには安全性っていうのが絶対条件になるから、安全範囲内でできなかったら医療検査としては成り立たない。必要な力が安全範囲を超えることが条件だったとしたら、それは無理って言うことになっちゃうからね。

佐川:そういうリスクは、どういうことを気にしていれば気付けるのでしょうか?

山本:何かを思いついてそれが上手くいくかなと思った時に、次に問題となることは何かなということを考えます。常に上手くいくシナリオと最悪のシナリオの両方を考えておかないと、物事を正しく進めていけない。これは研究や物の開発や実際の患者さんの診療でも同じだと思う。両方のリスクの高さ、やることによって得られるベネフィットの大きさ、それをどの程度予測できるか、そこのバランスでやるかやらないかと決めていくっていうのが医療で常にやっているディシジョンメイキングなのです。

医療として、やってあげる方がその患者さんのために有益であるか、そこを常に考えながら、やるかやらないかを決めていく。検査をするにしても治療をするにしても薬を出すにしてもそう。そういうところを普段から考える癖をつけておくということが大事だなと思う。



————次のページでは山本先生ご自身についてのインタビューを紹介します

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