自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

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学会発表報告:欧州心臓胸部外科学会

草処 翔(金沢大学医学部平成25年卒)

2019年10月にリスボン(ポルトガル)で行われた第33回欧州心臓胸部外科学会(EACTS)で発表する機会を得ました。国内での学会発表はこれまでもいくつか経験させていただきましたが、海外の主要学会でのoral presentationは初めてのことでした。
きっかけは、日常診療で経験する急性大動脈解離手術に関するふとした疑問からでした。急性A型大動脈解離は突然発症し死亡率が高く、救命のためには緊急手術を要する重篤な疾患です。手術のためには人工心肺装置が必要ですが、現在でも人工心肺装置の送血路に関して様々な論文で議論され、まだ一定の見解が得られていない状況です。

我々はCT検査により大動脈解離の形態、全身状態を把握し送血路を選択しています。手術前の状態によっては、人工心肺使用中の臓器潅流障害予防目的に二か所の送血路を選択(double arterial cannulation: DAC)するのですが、本治療方法についての治療成績の報告は少なく、その使用に関して十分なコンセンサスが得られていない状況でした。過去の論文検索を重ね、我々が実際に臨床現場で行っている治療方法の妥当性を検証するともに、その有用性を研究発表したいという気持ちが芽生えました。

当センターの倫理委員会での承認後、データを抽出する作業を開始することで、本研究プロジェクトはスタートしました。私は大学卒業後、当センターで初期研修を行い、心臓血管外科学講座に入局しました。3年間、関連病院の心臓血管外科に勤務し、卒後6年目で大学に戻りました。この3年間の修練期間で多くの手術症例を経験することはできましたが、臨床研究を行なう経験は十分ではありませんでした。当科は競争的研究費の取得し、independentに研究を行うことができる心臓血管外科専門医が多く在籍しています。先輩方から臨床で忙しい合間を縫って、基礎から指導していただき、無事に2019年4月抄録をsubmitすることができました。私達の解析結果は、DACは真腔狭窄を伴う症例や下肢虚血を合併する症例に対して有効であり、本術式を臨機応変に使用することで、臓器潅流障害を呈する重症例でも良好な治療成績が得られることが明らかになりました。
その後、抄録採択との通知があり、2019年10月にEACTS/STS合同セッションで発表する幸運に恵まれました。私以外の発表者は皆招待講演で各国を代表する著明なaortic surgeonばかりでしたので、不安な気持ちにもなりましたが、入念な準備を、時間をかけて行うことで、なんとか無事発表を終えることができました。発表後は安堵の気持ちになるとともに、聴取の先生方からも好評なコメントをいただき、大変感動しました。また、同年代の他施設の日本人の先生方の発表も拝聴することができ、非常に有意義な学会となりました。今後も、日常診療における疑問点や探求心を大切にし、臨床研究を継続し、治療成績の向上につなげていきたいと考えています。