自治医科大学

自治医科大学病理診断部

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2015年実習体験記

フリーコース・スチューデントドクター(FCSD) 後藤貴宏(実習期間 2015.6.29~7.24)

 この4週間で病理診断の実際を経験し、感じたことを3つに分けてまとめておきたいと思います。一つ目は、自分は病理診断について何も知らなかったということです。2年間の臨床実習では、病理検体を出し、その結果を待つ側でした。ここでは結果が正しく出ること、すぐに結果が出ることを疑いませんでした。しかし実際の病理診断はそんなに甘くないことを実感しました。まずエラーの起こる過程がとても多いということです。臨床医が検体を採取するとき、出てきた検体から標本を切り出すとき、固定・染色を行うとき、光顕で確認するとき。これら全てにエラーの入り込む余地があります。病理報告は、これらの制限がある中で、最大限の努力の上でなされたものだと知る必要性を感じました。病理結果の解釈は、統計学の解釈と似ている部分があるように感じます。それは、全て(母集団)をみているわけではないが、抽出されたものが全体を反映していると考える、という点です。統計学では無作為抽出された標本で分析をし、母集団もそのようになるだろうと推定します。つまり、完全に母集団を反映しているとはいえないが、確率的に起こりにくいため、反映していると考えてよい、ということです。病理学に置き換えると、病変がある部位を狙って標本をつくり、その標本の中では「~と解釈できる」という表現になります。つまり、提出された検体すべてを標本にし、観察することは不可能に近いため、肉眼的に狙いをつけ、サンプリングし、観察をすることで全体の解釈としています。この精度を高めるためにも、肉眼所見の大切さを改めて実感いたしました。二つ目に、病理学の思考法を学んだことです。病理学は正常からの逸脱を基本にしており、異常があるときには、なぜそのように起きたのか、最も妥当な解釈を考えていきます。これは言葉で表現するととても単純ですが、この思考を進めるためには膨大な知識が必要になります。膨大な知識は丸暗記ではとても対応できません。病理の先生方は体系だった知識を持たれており、今回の実習では、これまでバラバラだった知識、結びついていなかった知識が一つにまとめられていくように感じました。病理像を解釈するとき、病理の先生方は臨床経過を重要視されます。臨床医だけのカンファだと問題・疑問にならない点も、病理の先生方が加わることで、鋭い指摘をされ、初めて考えられることがあります。何となく経験で済ませていたことも、病理の視点を取り入れることで、論理的に考えられると感じました。 最後に、臨床と病理、一方に偏るのではなく、その往復運動の中で考えていくことが重要だと学びました。現代の医学でも分からないことは大量にあります。4週間の実習ではありますが、診断に苦慮する症例をいくつも経験いたしました。分かることと分からないこと。これを明らかにし、臨床知識、病理知識、その他(基礎医学知識など)を総動員して、解釈を進めていかなければならないと感じました。最後になりましたが、4週間ご指導いただきました鈴木先生、福嶋先生をはじめ、病理診断部の先生方、スタッフの方々に厚く感謝申し上げます。ありがとうございました。

6年 森 啓輔 (2015.4.6~4.28)

 病理診断部の実習では、大きく標本作成、迅速診断、剖検マクロ・ミクロに参加し、学ばせていただきました。2、3年次の組織学・病理学実習では用意されたスライドを教科書と照らし合わせる答え合わせの作業に終始していましたが、症状、経過、画像診断など総合的に患者さんの病態を把握した上で、何を評価するために鏡検するのかを学ぶ貴重な経験になりました。標本作成では各臓器のマニュアルに則し、実際に固定、肉眼所見記述、切り出し、標本鏡検に携わらせて頂きました。今まで病理学は小さな細胞の形態的変化を捉える取りつきにくい分野と考えていましたが、患者の病勢をまず肉眼的所見から読み取る重要性を再認識し、どの部位をどう切り出し、どのように染色すれば、他の人間が見ても理解できる評価ができるのか、を頭に置くと、スライドの見方も変わりました。  迅速診断では検体が運ばれてから診断されるまでの一連の流れを見せて頂き、多くの標本に触れさせて頂きました。手術室と病理診断部がどのように連携体制をとっているのか病理診断部側から体験でき、その中で先生方は治療方針を左右する評価ポイントを手際よく判断し、診断報告は決して1人だけで行うのでなく、多くの先生方の評価を踏まえて行われていました。医療は多くのスタッフに支えられていると実感するとともに、病理学としての貢献を肌で感じることができました。また、今回の実習では症例発表をさせていただく機会があり、一つの症例から様々な病態を紐解くことができました。当然のことですが、異常を判断するために必要な正常な組織・構造の知識、異常が起こる総論的、生理学的な知識を総ざらいすることから始めなければなりませんでした。その上で、多因子的要素の中、何が原因で症状として表出したのかを追究していく、形態の異常から疾患をより深く捉える経験は自分にとってこれからの学習に大きな意識変革を起こしたと思います。最後になりますが、3週間と短い期間でしたが、多くの先生が忙しい中、時間を割いて熱心にご指導いただき、ありがとうございました。そして、医学への新しい視点を得るきっかけをくださった病理診断部スタッフの方々に感謝します。

6年 宮崎 真 (2015.4.6~4.28)

 今回の実習で、今まで臨床で結果を待つだけだった病理レポートが出来るまでにはどういったことがされているのかを知ることができました。特に切り出しを見学したり実際に体験することで、肉眼で見えるどの部分で組織像がどうみえるかを少しでも学ぶことができ、ただ別々に覚えていただけだった肉眼像と組織像を合わせてイメージしやすくなりました。また剖検の発表症例を通して、主病変から正常の組織を含めて全身をみることができました。組織像から間質性肺炎全般の鑑別が出来るほどはわかっていないのが正直な所なのですが、リウマチ肺による間質性肺炎の特徴やいくつかの型を勉強出来ました。間質性肺炎の分類をとっかかりづらくて勉強を後回しにしていた自分には、学習するためのいいきっかけとなりました。今回の症例発表をとおして、完全にはわかっていない部分の勉強や、どうプレゼンすればわかりやすく伝えられるかなど課題がどんどんでてきましたので、今後勉強して克服していきたいと思います。発表症例以外にも剖検症例をみることもでき、ホルマリン固定する前の状態で割を入れてみたらどうなっているかをみることができました。授業などで掲示された写真で固そうな組織などと聞いてあまりピンときていなくて、動脈硬化や繊維化といえばそんなものなのだろうと言葉だけで覚えていたものを実際触れて感触がどんなものか知ることができました。また剖検の本来の意味とはかけ離れますが、解剖・臓器の構造がどのようになっているかも復習することができました。4月6日から4月28日までの短い期間でしたが、病理学を選択しなければ出来ない貴重な体験をたくさんすることが出来ました。なにより病理医の先生方の診療科を問わず幅広い知識にただただ感銘を受け、少しでも近づきたいと勉強に対してのモチベーションがすごく高まりました。今回学ぶことができた内容を今後の国試勉強、その後に医師として働く上で活かしていきたいと思います。反省や課題もたくさん出てきましたが、自治医大でする最後のBSLで病理で実習できて良かったです。1ヶ月の実習でお世話になりまして、本当にありがとうございました。

5年 橋本 直樹 (2015.2.9~3.6)

 今回1カ月間、選択BSLとして病理診断部にお世話になりました。4年時に2日間だけ病理を回りましたが、その時は担当の先生と一緒に大腸癌の肉眼像・顕微鏡像を見ました。先生は臨床の観点を交えながら大腸の病理所見を解説して下さり、非常に興味深かったのを今でも覚えています。そして、病棟実習を回った後に病理学を勉強すれば新たな気付きを得られるのではないかと考え、今回、病理学を選択しました。1カ月間のBSLでは主に、切り出しとレポート作成を行いました。切り出しでは、「肉眼所見をしっかり記録しなさい。顕微鏡像はあくまで肉眼所見を確認するために行うようなものです。」と教えて頂きました。先生方は肉眼所見を正確な言葉で記録されており、自分も正確な言葉で表現するように心掛けました。また、切り出しでは肉眼所見を踏まえて切片をどう作るか考えなければなりませんでした。手を動かすだけでなく観察する事、考える事が要求され、切り出しは予想以上に大変な作業でした。その分、切り出しが完成した時には達成感がありました。今回一カ月間で最も印象に残っているのは先生方と一緒に顕微鏡を眺めたことです。先生方の説明は分かりやすく非常に勉強になりました。「絨毛間腔に赤血球が充満しているのは、母親の血液が噴き出しているからだよ。」「これはクリプトコッカスを食べている組織球だよ。」という風な先生の解説を聞いていると、標本の中の細胞がそれぞれの目的に沿って動いているかのように感じました。動きのない組織像から細胞の動きを考える事で、標本の理解がさらに進みました。 迅速のセンチネルリンパ節を先生と見ている時、先生は「飛行機で地上をパトロールするように見る」とおっしゃいました。「パトロール」する際には効率かつ正確に視野を動かす必要があり、疑わしい部位では倍率を上げる必要があります。視野を動かす際には、「視野の半分の距離だけを一度に動かすことで、どの視野も二回通りみられる」とも教えて頂きました。担当した標本で試しましたが、最初はスムーズにできず根気のいる作業だなと感じました。最後の方になると顕微鏡の使い方も、だいぶ上達しました。最後に甲状腺癌のレポートを作成しましたが、癌の浸潤や転移を隈なく調べる必要がありました。その時、「標本が訴えている事を読み取ってやろう」と強い気持ちになっていました。気づいたら顕微鏡と一体となってリンパ節を「パトロール」している自分がいました。私は顕微鏡で組織を見ることが苦手だったので、一カ月間で少し成長できたのかなと感じました。  最後になりましたが、福嶋先生をはじめとする病理診断部の先生方ありがとうございました。一カ月間、病理診断を経験させていただき、病理学への興味がさらに湧きました。今回の経験を活かし、今後の勉学に活かしたいと思います。

5年 仲摩 恵美(2015.1.13~2.6)

 4年生の必修BSLとは大きく異なり、今回の選択BSLでの病理診断部の実習は非常に有意義に勉強することができた。まず印象に残ったのが、術中迅速診断の診断の難しさや、外科医との連携の仕方である。5年必修BSLでは手術室での実習が多く、術中迅速診断の際、私は陰性か陽性かの判定のみにしか聞いておらず、何となく周囲もそのような雰囲気であった。しかし、迅速診断の標本は永久標本とはかなり見え方が異なって、診断がとても難しいことを身を以て知ることができた。陽性でも陰性でも組織像を手術室に伝える先生方がいて、肉眼でしか見えていない手術室の人も、しっかり組織像を思い浮かべることができれば良いと思った。次に印象に残ったのが生検体の取り扱いである。ほとんどの学生が病気、病変を生で見て触れて割面を観察する機会は少なく、見ることができたとしても外科手術で取り出された外表面であるが、病理診断部では検体に割を入れて実際に病変の色、形、固さなど見て触れることができるのは本当に貴重な機会であり、とても勉強になった。臨床医は患者の病変をX写真や内視鏡やエコーなど、様々なツールを使ってでしか見ることができないが、実際の病変はこんな大きさ、柔らかさ、成分をしているから、患者さんにはどんな症状が出現するのか、エコーやCT、MRIではあんな風にみえるのだな、と関連づけてイメージをすることができた。また、ホルマリン固定後の切り出し作業はとても頭を使う作業であった。患者さんの診断、治療のためにどのような情報が必要なのか、どのような面を見たいのか、必要なものとそうでないもの取捨選択にはとても苦労した。今更になって思ったが、先生方が作る標本の1枚1枚に意味と目的があり、そのような背景も全く考えずに3年生の時に実習をしていた自分を非常にもったいなく感じた。そして鏡検では、今まで細胞異型や構造異型などがよくわからず、アトラスでただ何となくこれに似てる、というような判断でしか診断できなかった。本当に病理のことを理解できていなかったが、診断する上でのどのような根拠があるのかを学ぶことができたと思う。顕微鏡で酔ってしまったり、針刺し事故を起こしてしまったり勉強不足など、先生方には日々ご迷惑をおかけしましたが、とても有意義な実習をさせていただきました。病気を診る上で、病理診断部において、一番近いところで病気を診ることができました。今後様々な疾患を考えていく中で、正常な組織構造と病理像をイメージしながら、医学の勉強に励んでいきたいと思います。4週間、本当にありがとうございました。

5年 荻野太郎(2015.1.13~2.6)

 まず始めに、担当していただいた今田先生、4週間本当にお世話になりました。そして発表の際は丁寧にご指導頂き、心から感謝しております。切り出しなどの際には齊藤先生や河田先生、金井先生にもたくさんの症例を担当させていただきありがとうございました。福嶋先生や吉本先生には標本の読み方や迅速診断について多くのことをご教授頂きました。重ね重ね本当にありがとうございました。僕は4年生の1年間と5年生の半年間のあわせて1年半、BSLで各診療科をまわらせていただき、様々な考え方を持つ先生方を見てきました。ある先生は患者さんや学生と触れ合う時間をとても大切にされていて、またある先生は高度な技術を磨くことや論文を読むことで患者さんのために一生懸命仕事をされていました。そのなかで自分が努力したがために他の先生に厳しくなってしまう先生方も少なくありませんでした。しかし病理学の先生方は少し違った考え方をされていたような気がします。それは分からないところは臨床の先生に分からないと正直に言い、臨床的な見解を聞いて共に診断に尽力しようという姿勢でした。臨床の先生が顕微鏡をのぞきに来れば快く迎え、病理学的所見を自ら顕微鏡を操作してまで丁寧に教えるその姿はとても紳士的なものだと僕の目に映りました。このような柔軟な対応は病理学の先生方からすると当たり前のように思えるかもしれませんが、少なくとも僕が見てきたどの診療科の先生方よりも科の仕切りにとらわれていない先生方が多くいらっしゃいました。このような姿勢を先生方が持つことができるのは何故だろうと考えてみたところ、“病気というのは連続的なものであり、それを人が勝手に仕分けしているだけである”という病気に対する向き合い方が一つの要因ではないかと思うようになりました。同じ診断名の疾患でもそれぞれ腫瘍としての特徴や性格が細かいレベルで異なり、それを紐解いていくことで症状や発症要因の謎がとける。このように考えると、臨床の見解と病理の見解の二つを同時にみながら判断しなければ正しい診断に繋がらないという結論に至るのはとても自明なことです。そういう意味でこの考え方は普段の診療から臨床の先生方も持つべき必須のものだとさえ感じます。「診断が付かないから治療が始められない」ではなく、「診断が付かないからこそ既存の疾患の枠を超えた病態を考え、妥当性のある治療法を考えてみる」ことで医学はさらに奥深く、合理的に発展していくのではないでしょうか。病理学的な所見の見方のみでなく、病気に対する向き合い方まで考えることができたこの4週間は自分を今まで以上に成長させてくれた貴重な4週間でした。

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