自治医科大学

自治医科大学病理診断部

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2017年実習体験記

6年 梅岡礼人 (2017.4.3-4.28)

 1ヶ月の実習で、病理医がどのような業務をしているのか、手術で出した迅速検体がどのように処理されて診断されているのか、剖検の流れと剖検症例の発表のやり方を主に学ぶことができた。 病理医の業務はミクロの所見を重要視しているイメージがあった。一か月実習することで、病理医の先生方は、臨床経過、マクロの所見をしっかり理解して病態を考えたのちに最後の確認のために検鏡して判断していると認識を改めた。それと同時に、癌の浸潤の確認、迅速のリンパ節転移の確認、癌の組織型などは検鏡したミクロの所見を見なくては判断できない。そこの判断力は一か月ではとても学びきれなかったが、比較的標本の多かった肺の所見には自信がついた。 2年間のBSLや各種試験をやってきて、どうしても患者の症状や検査所見を病名に当てはめて考えようとする癖がついてしまっていた。それによって重要な所見を見逃してしまったり、その疾患にそぐわない所見には目をつぶってしまったりしていたかもしれない。 今回担当になった剖検症例も、臨床経過と検査のみでは確定診断を下すことができずに、何とか診断をつけたい一心でマイナーな疾患を検索したり、検査値を都合のいいように解釈してみたりと迷走してしまった。その時チューターの先生方から、形態学的に、病態生理学的に所見をくまなくとることが行き詰った時の解決方法だと教えていただいた。実地臨床では今回の剖検症例のように、診断しにくいものにたくさん出会うと思う。そのような時診断をなんとか当てはめようという切り口だけで考えていたら埒はあかないだろう。臓器ごとのマクロ、ミクロの所見を系統だって吟味して、病態生理を考えれば、結果的に診断の糸口になるかもしれないし、たとえ診断がつかなくとも、病態を考えその時点でできる最良の治療を選択できるのではないかと思う。今回の剖検症例も全身臓器をくまなく検索することで腎機能低下、心機能低下、敗血症性ショックと一見ばらばらに見える臨床所見も、病理所見で微小血管障害を見つけられたことにより一つのストーリーでうまく説明することができた。また剖検症例のまとめをすると次々と疑問が出てきてそれを調べているうちに周辺知識をたくさん学ぶことができた。将来剖検を担当できる症例に出会った時は積極的に参加して学びたいと思う。チューターとして剖検の発表を指導して下さった大城先生、田畑先生をはじめ、迅速診断や剖検時に指導してくださった病理学教室の先生方、1ヶ月間大変お世話になりました。 ありがとうございました。

6年 風間 菜摘 (2017.4.3-4.28)

 1か月間の病理診断部での実習で、術中迅速診断、剖検の参加、標本作成、病理所見の記載、CPC発表など様々な経験をさせていただいた。今まであまりイメージが湧かなかった病理医のお仕事について数多く知ることができた。  切り出しを行なった標本の病理診断報告書の記載では、成熟嚢胞性奇形腫、腎細胞癌(淡明細胞癌)、子宮体癌の標本について報告書を作成した。癌では病理学的なTNM分類で治療が決まるので、癌の浸潤がどの程度なのかや、リンパ管侵襲、血管侵襲を探す行程は大きな緊張感があり、一つの標本を観察し終えるのに多大な時間が掛かってしまった。また、各癌によって分類のために着目すべき点が異なっていて、規約を読みながらの観察となり、報告書の作成に非常に苦労した。しかし、たとえば腎細胞癌では、線維性被膜に覆われていたら脂肪織浸潤としないなど、腫瘍の増殖の仕方を考慮して分類の規約が作られていることを身をもって理解して、大変興味深かった。剖検については、肺癌皮膚転移、TAFRO症候群疑い、悪性リンパ腫の3件の症例を見学した。私は2月にさいたま医療センターの臨床検査部で腹部を中心に超音波検査実習を行なっていたので、剖検の現場で実際の臓器を見ることで、超音波画像で見ていた脾腫やリンパ節腫大などが三次元でどう見えるか確認ができた。他にも触診所見を臓器に直接触れて学ぶことができた。個々の症例については、肺癌皮膚転移の患者さんが特に印象に残った。1月に当院呼吸器内科の選択BSLで一度皮膚所見を見せていただくために少しだがお会いしたことがあったので、その患者さんの剖検に入って、剖検について深く考えさせられた。生前の様子を知っている患者さんが亡くなって解剖されることについて、正直なところ辛い気持ちになってしまったが、だからこそ、臨床医と病理医で視点の異なる立場のから得た知識を合算して、病態解明のために最善を尽くさなければならないと強く感じた。  最後に、1カ月の実習の中で最も時間を掛けて取り組んだ、CPC課題について記載する。私の担当は、イレッサ内服中に肺炎、低酸素血症をきたして亡くなった症例だった。呼吸器内科を回った際はCT画像と症状を照らし合わせていたが、本実習では症状、CT画像、病理組織像の対応がわかって、呼吸器内科志望の私にとっては大変興味深い学びが得られた。本症例では、低酸素血症から徐脈を起こして亡くなったが、病理組織を観察すると、肺の大半の領域で起こった硝子膜形成によりガス交換が上手くできなくなって低酸素血症になったと説明できた。病理組織を観察して、顕微鏡で見える所見がどのような病態で起こったのかを考える推理のような行程が、病理学の醍醐味だと感じた。一方で、病理診断を行うには臨床での知識も重要だと再認識する場面もあった。本症例では肺炎で入院してから、経過中に新たなDADが出現したが、その原因の可能性として丹波先生がCMV感染の合併を考えてCMV免疫染色を提案してくださり、実際にCMV感染が確認されるという一幕があった。2年間の臨床実習でしか実地臨床に関わっていない私にはCMV感染の合併など全く思い付かなかったため、病理診断には臨床での知識も不可欠であり、だからこそ病態理解にはCPCが重要なのだと改めて認識した。最後になりましたが、学生担当をしてくださった福嶋敬宜先生、CPCのご指導をいただいた松原大祐先生、チューターとして実習全体を通して支えていただいた丹波美織先生をはじめとして、病理診断部の先生方、検査技師の方々に1カ月間ご指導、ご支援いただき、心より感謝申し上げます。将来は呼吸器内科医を目指しているので、気管支内視鏡などで病理診断をオーダーする際には、病理診断に必要な臨床での症状・所見を判断して情報を共有し、病理診断部と協力して患者さんの病態にアプローチしたいと考えます。

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