自治医科大学

自治医科大学病理診断部

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2018年実習体験記

湯村香子

 この1ヶ月間で様々な疾患の組織像や検体を見て、実際に体の中でどういう病態が働いているのかを目の当たりにする事で、単なる知識としてではなく、病態の本質を理解する事に繋がったと感じる。これまでの病棟実習では、既に診断のついた患者さんを診させて頂く機会は多かったが、「この疾患だからこういう症状が出るだろう」という知識の面と、実際に患者さんに表れている所見や症状が結びつかない、という自分の中でのもどかしさがあった。更に、原因不明の症状の鑑別を挙げる際にも、その症状の性状や分布などを丁寧に診察したつもりでも、その情報がどのような病態を表しているのか分からず、行き詰ってしまう事も多かった。
 しかし、今回の実習を通して、 「この疾患の病態から考えるとこのような組織像がみられる」という病態からのアプローチと、「このような組織像だからこういう所見が現れる」という症状からのアプローチができ、病態と症状をつなぐ点が組織像ではないか、と感じるようになった。今まで漫然と勉強してきた疾患たちを、組織レベル、細胞レベルまで理解を深めると同時に、患者さんにみられる症状を組織学的な視点で考察できれば、理論と現実が繋がる実感が得られると思う。今までとは違うレベルで改めて勉強するモチベーションとなった。
 更に、組織や細胞というミクロな視点から、全身でどのような病態が起こって各臓器に影響していたか、というマクロな視点へと広がれる事にも面白さを感じた。例えば、心筋の異常は循環不全を示唆し、諸臓器の虚血所見と合致するだろう。一つ一つの組織所見をしっかり理解する事も当然重要であるが、それらが大きい変化の中でどこに位置するのかを意識する必要もあると思う。病理診断の弱点は、ある時点での組織像しか分からないので、その前後でどのように変化しているかを見極める事が難しい事だと思う。患者の全身状態や臨床像も加味し、患者さんに起こっている病態の全体像を理解した上で、ミクロな組織像を解釈する必要がある。ただし、今回CPCをさせて頂いた中で自分も経験したように、臨床からの情報に影響されすぎない事も必要である。臨床で明らかにできなかった事を、証拠を持って提示するのが病理医の仕事でもあるので、臨床情報との兼ね合いが難しいとも感じた。
 また、基礎医学を臨床へ応用する機会が多い事も病理の魅力であると感じた。私は個人的に生化学や細胞生物学の基礎医学分野に興味があるが、臨床の場ではそれらを利用する機会が少ない事を悲しく思っていた。しかし、病理においては細胞レベルの生物学で病態を説明する必要があり、基礎医学を活用できる楽しさがあった。また逆も然りであり、病的な組織や細胞を日々見続ける中で疑問が生じた時に、基礎医学に立ち返りやすく、新たな研究テーマに繋がりやすいと感じる。
 最後に、今回病理学教室の先生方にはどの方にも大変親切に指導して頂き、充実した実習を送る事が出来ました。本当にありがとうございました。

重栖慎典

 私が選択BSLで病理学部門を希望した理由は、形態学的な様子から、その機能を推測したり何が起きたのかを考えたりする病理診断に、とても興味を持っていたからです。また、これまでの各科目の勉強の中で、病理・病態を理解することがとても重要で、深く学んでみたいと考えたからです。疾患と症状、あるいは治療法などの組み合わせをただ暗記するのがとても苦手で、なぜこのような症状を来すのだろう、と疑問を抱いたまま頑張って覚えることもしばしばありました。だからこそ、実際に身体で何が起きているのかを追求する病理学を学びたいと考えました。
 実際に1か月間病理診断部で実習をさせていただいて、自分の目標以上にたくさんのことを学ぶことができました。たとえば何気なく使っていた「異型」や「浸潤」、「炎症」など、多くのことの意義を実際の症例で教えていただき、さらにそれが疾患にどのように関連しているのかを考察する、という一連の過程をたくさん経験させていただきました。実際の標本切り出しや生検体の処理などいろいろさせていただきましたが、その中でも印象に残っていることが3つあります。
 1つ目は迅速診断です、病変のほんの一部分の像からの診断を通して、個々の細胞だけでなく全体的な組織像をよく観察すること、また正常の構造・形態をしっかり理解することが重要だと感じました。そして、「転移がない」などのたった一言の診断がとても重大な責任を伴っていて、それを毎日なさっている先生方の姿に感動しました。
 2つ目は最終週の発表用CPC症例です。これまでの必修実習で消化器系に興味を持っていて、胃癌の症例をあてていただきました。全身の臓器の組織学的な基礎をはじめとして、人はどのようにして腫瘍で死ぬのか、そもそも腫瘍とは何かなど、本当に多くの病理・病態のエッセンスが詰まった症例でした。
 3つ目は診断業務体験です。手術検体などの臓器の、実際に診断に必要な部分を切り出して標本化し、それを実際に検鏡して診断する、といった過程はなかなか体験できるものではなく、これまでのBSLではそういった過程を経て作成された病理診断レポートを読むだけでした。だから、今回の実習でそれをさせていただいて、とても難しいけれど面白く、学ぶことがとても多かったです。
 先生方にはお忙しい中時間を割いて、知識だけではなくて実際に見ないとわからない所見の取り方や解釈の仕方など、とても多くのことを教えていただきました。今後の実習、そして医師として働き始めてからも、この1か月の経験を生かしてさらに学んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。

高橋なつみ

 4週間の実習では、普段は見ることのできない業務を見学、体験させていただいた。
 まず印象的だったのが、肉眼的所見の重要さである。検体がプレパラートとなるまでに、肉眼的所見が疾患特定のヒントとなることが多く、病理診断上非常に重要であることを学んだ。標本を作製するまでの過程では、病変部がどこまで及んでいるか、隣接する臓器との関係性はどうかなど、背景となる臓器の特性や解剖学的特徴を踏まえなければならない。病理診断はつくられたプレパラートをみて診断するだけではないということが今回実習で参加型学習をさせていただいたことで実感できたことのうちのひとつである。
 また、担当として一例剖検症例を任せていただいたことは、とても貴重な体験であった。病理像と臨床像を互いに説明しうるような病態を考える場面では、自分の知識の少なさから正常、異常の判断が付かず異常所見を取りこぼしたり,病態説明に引きずられて病理所見を過大に評価したりしてしまうことがあった。
病理所見から説明できることもあれば、説明できないこともあるということが病理診断の難しい点であり、大変奥深いと感じた。また、続けて行ったプレゼンテーションでは聞き手に問題点を共有してもらえるわかりやすい発表のためには何が必要か考えさせられるよい機会だったように思う。聞き手が自分で剖検から標本作製、病態の解明までを追体験できるような発表を心がけたが、もっと工夫の余地があったと反省する。
 全体を通して、正常組織所見や基本的な病理組織学的事項をもっと勉強しておくべきだったと考える。正常がわからなければ異常所見を得られないということを何度も実感した。しかしそんな中でも偏りなくさまざまな臓器の多様な病態に触れる機会があったことで、興味の幅を広げて考えることができ大変恵まれた環境で実習を行わせていただいたと感じた。わからない点があっても先生方がお忙しい時間の中で丁寧に一緒に考えご指導くださったことで、教科書だけではわからない考え方も学ぶことができた。
 最後になりましたが、4週間という長い間、熱心なご指導いただきましてありがとうございました。病理診断の難しさを知るとともに、診療のなかでいかに病理診断が重要な位置をしめており診断の支えになっているかを実感しました。また機会がありましたら是非学ばせていただきたいです。

鈴木拓己

 私は病理診断部で実習をさせていただき、非常に楽しく充実した1ヶ月を送ることができた。病理診断部の先生方が普段どの様なことをしているのか、その一部を実際に経験させていただきながら拝見できた。また、病理診断や病理解剖を通して臨床と病理がどの様に関係しているのか垣間見ることができたと思う。
 診断については主に生検検体と消化管の手術検体の診断をさせていただいた。消化器内科や呼吸器内科で生検検体を見ることがあったが、あんなに小さな検体で診断がつくことが純粋に驚きであり、不思議でもあった。実際に組織を見ると、内視鏡検査で異常とみなされた部位に確かに腫瘍と考えられる病変があり、細胞・組織のレベルで起こった変異を肉眼所見として捉えているのだと実感することができた。手術検体を診断する時にも、臨床経過に加えて内視鏡、CTなどの画像検査を参照しながら組織を見ていた。肉眼的な進行癌の所見やCTで造影される壁肥厚の程度から組織学的な壁進達度を推定して手術が行われており、病理診断で病変の広がりや進達度などを正確に評価してそれらの画像所見と病変の実際を擦り合わせていくことができたため勉強になった。逆に組織学的にどの様な病変であればどの様な画像所見として表出するのかということについても考えることで、画像検査所見を深く理解する一助となるのではないかと考える。
 病理解剖はこの1ヶ月で3症例見学することができ、また症例発表のために1症例を検討させていただくことができた。それぞれについて臨床の経過から検査所見をある程度踏まえた上で、マクロ所見を検討することができ、発表症例についてはミクロ所見も検討した上で鑑別診断を考えるまでの流れを経験させていただいた。すべての症例を通じて、病理解剖は膨大な情報を我々に提示してくれることが分かった。直接患者を死に至らしめた原因となる病変が明らかなこともあり、また関連所見として肝硬変や腎臓の萎縮、大動脈壁の石灰化など見ることで患者の長期的な経過についても考えさせられた。その様な病変にミクロの所見も統合して、患者の状態に矛盾ないものとして説明がつく病態を考察して行く過程は難しくもあり、それ以上に興味深いものだった。この様な病理解剖が積み重なっていくことで複雑な症例における病態生理が明らかにされ、それらが臨床にフィードバックされることが診断や治療を進歩させる糧となるのだろうと感じた。
 病理診断、病理解剖を経験させていただき、病理学的所見の理解が臨床像の理解へ繋がっていると感じた。また純粋に、病変の組織を注意深く観察して適切な評価をしていく病理診断の面白さを知ることができた。今後の医学の勉強や臨床の現場においても、今回の経験を生かすことができればと思う。
 最後になりますが、1ヶ月間丁寧に指導してくださった木原先生、実習にあたり多大なご協力をいただいた福嶋先生をはじめとする病理診断部の先生方に、厚く御礼申し上げます。

竹内健貴

 病理診断科で1ヶ月実習を行って感じたことは主に2点ある。1点目はミクロとマクロのつながりについて強く意識するようになったこと、そしてもう1点は病理学の現時点で出来ること及び、限界を知ることができた点である。
 前者に関しては、以前から重要性は理解していたが、今回の実習を通じて明確に意識することが出来るようになった。福嶋教授が授業等でブリューゲルの『バベルの塔』を例に上げて説明していたように、人体や器官というマクロ像は細胞(更に下層には分子)というミクロ像と相互に連関しており、ミクロの変化がマクロの変化を必ず反映するし、その逆もまた正しい。肉眼的な変化が組織学的にどのような影響を及ぼすか、またその逆を検討することは病態の理解には必須であるにもかかわらず、これまでの実習では十分に行えていなかったように感じる。その点で、1ヶ月間とBSLとしては長期間の間病理診断科で実習を行い、肉眼と組織的な所見を行き来して病気について考えることができたことは、実臨床という観点からみても、とても有意義であったと思う。
 2点目については、今後臨床に携わる際に重要であると考える。臨床医は多くの場合その人の疾患についての「答え」を病理に求めるであろうし、病理医は疾患や状態について臨床医にフィードバックする必要がある。この関係性自体には問題がないが、臓器を取り出して肉眼的・組織学的に検討している以上、実際に病理的診断をした経験がなければ、何でも診断できるという勘違いを生む恐れがある。実際のところ、今回の私の発表で取り上げた扁平上皮癌の鑑別などもそうであるが、形態や遺伝子の違いが少ないようなものは現在でも鑑別は難しい。また、非常に整然とした正常な組織に対し、悪性腫瘍は細胞単体や構造のいずれにおいても不規則な傾向を示す。このため、複数種類の特徴を示すようなものもあれば、同じ種類のものでも全然違う見え方をするものもあり、正確な診断ということが非常に難しい事がわかる。その一方で、次世代シークエンサーやプロテオミクスといった新たな技術が診断レベルの向上に寄与しつつある。いずれにせよ、将来臨床現場に出て病理診断に依頼する際、現時点での病理学において限界があることを知っていれば、わからないことを丸投げするといったような失礼なことを行ってしまうこともないだろうと考える。
 必修BSLではあまり病理にふれる機会はなかったので、このようにある程度の期間じっくりと病理診断について学ぶ機会はとても貴重だった。チューターの松原先生を始めとする先生方も皆とても親身に対応してくれたし、学生の出来る範囲で切り出しや診断などもさせてくれ、とても勉強になった。
 1ヶ月間充実した実習ができました。ありがとうございました。

古川遼

 私は2/5~3/2までの4週間病理診断部で実習させていただきました。今回私は、全身の臓器をもう一度組織レベルから復習し、各々の疾患の病態を病理学的に再度理解し、系統講義等で身につけた知識をより深めるという目的の元、病理診断部を選択させていただきました。
 剖検の症例発表はこの目標を達成するにあたって、とても勉強になりました。自分なりに各々の臓器の組織像を復習し、検体に病変があるのかを考察しました。その後、担当の河田先生とディスカッションを行い、自分が気づかなかった点や不足している点などを把握し、それに関して教科書や文献を用いて調べることで理解を深めることができました。これらを繰り返し行うことで、全身の臓器や疾患の病態といった知識を身につけることができました。私の当初の目標は十分すぎるほど達成できました。さらに、実習で初めて症例発表を行いましたが、とても貴重な経験となりました。最初はスライドをまとめるのにとても苦労しましたし、河田先生にも大変ご足労をおかけしました。しかし、症例の病態を理解するにつれて、発表を聞いている人たちにどのように伝えればより伝わりやすくなるのか、またこのスライドでどんなことを話せば納得してもらえるのか等を自分なりに考え、それを文章や文字で表現できるようになりました。自分の中でとても成長できた部分であると感じています。将来の学会発表等で今回学んだことを活かしていければ良いと考えています。
 普段の診療日に行う切り出しも初めての経験でとても勉強になりました。初めのうちは、右も左もわからず、先生方にご迷惑をおかけしましたが、徐々に慣れてくるにつれ、どの面を見たいか、その面を見るためにどのように割を入れるかを理解し、実践することができるようになりました。また、診断原案作成も行うことで、規約に沿って見るべきポイントをしっかり顕微鏡で観察し、その所見を記載することができました。さらに、例えばリンパ節に転移があった場合には、リンパ管侵襲を評価するためD2-40染色を追加するなど、その検体を診断するための方針を考えながら実習をすることができました。これは病理診断部のBSLでしか学べないことで、大変貴重な実習となりました。
 この4週間を通して、あらゆる面で成長を実感でき、自分の自信にもつながり、本当に充実した実習でした。最後になりますが、今回の実習にあたり、福嶋先生、河田先生を初めとした諸先生方にはご多忙の中、大変親切にご指導いただき、誠にありがとうございました。これからも何かとお世話になるかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。4週間本当にありがとうございました。

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