自治医科大学

自治医科大学病理診断部

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2019年実習体験記

清水ひかる (2020年1月)

 選択必修BSLで1か月間、病理を選択させて頂き、必修BSLや今後の初期研修では学ぶことが出来ないだろうと思われる事柄をたくさん学ばせて頂きました。その中で特に印象に残ったことが3つあります。
 1つ目は標本の作製もとても大切であるということです。病理の実習をさせて頂く中で、生検体の処理から切り出しをして、病理診断をするという一連の流れを体験できました。標本作成の段階からどの部位にどのような病変が存在するからどういう診断をしなければいけなく、どのように切り出すかなど顕微鏡的な観察の前に肉眼的な観察が大切であることがわかりました。術中迅速診断では臨床の先生方が病理診断に何を求めているのかで標本のつくり方が変わり、どこまで診断しなければならないのかで変わることがわかりました。病理の診断で全てがわかるのではないので、病理診断を頼む際には的確な診断になるように目的を明確に伝えることが大切であると思いました。
 2つ目は病理診断を1人でしているわけではないということです。病理の先生方は皆さん、書物を参照し、他の先生方の意見をお互いに伺いあっていらっしゃったことです。診断しなければならない領域は広く、より的確な診断をするために、病理診断の経験が多い先生やその領域に詳しい先生と相談し合い診断することがとても大切なことだと感じました。悩むような症例であった時でも、他の先生や技師さんに相談したり、ディスカッションをすることで、勉強になり、診断に至ることができます。分からないことは正直に言い、また、分からないことがあった時はどの先生も快く相談を受けていらっしゃり、相談し合える状況をつくっていらっしゃる病理診断部の先生方の姿勢は感銘を受けました。私の場合、どこが分からないのかやどこまで分かっているのか明確でなく、質問が出来ないことが多いため、今後に向けて分からないことを明確にするのが課題であると感じました。
 3つ目は、病理の所見を考える時は病態を理解するのが大切であるということです。例えば、血管の拡張やリンパ球の浸潤などがあった時は炎症があることが分かり、逆に肝うっ血があった時は、心筋障害の所見が病理でみられることが予想できます。他に、血管が豊富な腎癌では細胞がたくさん増殖するので、臓器を圧排するように増殖します。私は今まで苦手意識が強かったのですが、病態が実際に目で見て確認出来き、理解出来るので、純粋に病理の面白さを感じました。
 最後にこの1ヶ月、今までの実習では学べなかったことや今後学ぶ機会がない可能性があることも学ぶことが出来、貴重な経験になりました。今後この経験を生かすことが出来るように精進していきたいです。
 最後になりましたが、大変ご多忙の中、チューターとして時間を割いて丁寧にご指導してくださった大城先生をはじめ、実習に協力し、親切にご指導をして下さった病理診断部の先生方に厚く御礼申し上げます。

玉澤歌菜(2020年1月)

 私は1月7日〜31日までの4週間、病理診断部で選択BSLの実習をさせていただきました。実習に臨む前の病理の印象としては、3年生の時のほとんど運試しのような定期テストの印象が強く、顕微鏡に対しては苦手意識がありました。当時は病態を理解して病理所見から診断するというよりも、色や形をテスト直前に丸暗記するという方法で勉強していました。5年生になった今、3年生の時よりは病気についての知識も増えてきたと思うので、もう一度しっかりと病理を勉強したいと思い、選択させていただきました。
 病理診断部の役割として私が体験したのは、主に術中迅速診断、手術検体の診断、生検検体の診断でした。術中迅速診断では、手術中に摘出した病変部位を凍結標本として、腫瘍が良性なのか悪性なのか、腫瘍の取り残しがないか、リンパ節への転移がないかなどを迅速に診断します。手術において癌を見逃すことができない重要な役割で、常に緊張感を持ってやっていることが伝わってきました。また、診断する際も病変の広がり、進達度、組織型、脈管・リンパ管侵襲など評価しなければならない部分が多いと感じました。「充実性の」、「境界明瞭な」、「黄白色調の」など病変の性状を示す表現の仕方を使い分けて、実際に病変を見ていない人にも伝わるように表現を学ぶことができました。また、同じ腺癌の中でも「ちゅぶ」、「ぱぷ」、「ぽる」など種類があったり、分化度の高低を見分けなければならなかったりなど、標本を何枚も見ていくうちに若干はわかるようになったのですが、やはり目を慣らしていくことが大事だと感じました。
 また、最終週の剖検症例の発表でも学ぶことがたくさんありました。私が担当させてもらった症例は原発不明癌だったのですが、免疫療法を行ったあとだったのでほとんどの病変で壊死組織のみしか見られなず、免疫療法がちゃんと効果のある治療法であることが実感できました。組織学的な観点から原発巣を導く考え方や、剖検時の肉眼所見・組織所見と臨床所見を結びつけて、患者さんに起こっていた病態や死因はなんだったかなどについて考えることができました。また、スライドを作る際も聞き手に伝わりやすういような配置にしたり、わかりやすい言い回しなど先生方に指導していただいたのでとても勉強になりました。
 病理解剖を実際に見学することができなかったのが少し心残りですが、毎日やることが盛りだくさんで、1ヶ月では足りないくらい学ぶことがたくさんありました。先生方も熱心に指導してくださり、教科書上の知識だけでなく、今回の4週間の実習で実際の患者さんの病変を見ることで、より理解を深められたと思います。実際の病変を触って目で見て診断することができる病理学の面白さをより感じることができました。4週間ありがとうございました。

浦川朋也(2020年2月)

 選択BSLで病理診断部で実習を希望したのは、診断の最も強い根拠となりうる病理学を学ぶことは将来の診療に絶対に必要だと考えたからです。私は特に癌診療に興味があるため、今回の実習で手術検体や生検検体の悪性度、深達度診断、組織型診断を行った経験は将来の大きな強みになると思います。
 病理診断部での実習では手術検体の検体処理、迅速診断、切り出し、病理診断、剖検検体のCPCを経験させていただくことができました。病理診断を行う傍、次々に迅速診断や生検体が手術室からやってくるため、病理医の業務は予想していた以上に慌ただしいものでした。
 病理診断は検体処理時から始まっており、検体処理も重要な病理医の業務であることを学びました。病変をより良く観察できるように細かい工夫を重ねて標本作りを行っていました。ホルマリンの組織への浸透速度を考えて必要ならば割を入れたり、管腔臓器は観察しやすいよう開いて固定するなど、固定の段階から切り出しやマクロでの診断を行うことを意識しながら作業行っていました。
 病理診断を実際に経験してみると、正常組織像への知識が欠けていることを痛感しました。正常組織を理解していないと異常を検出することは絶対にできないし、病理組織学的用語、形態学的な表現方法を知らなければ、臨床への還元するためのレポートは書けません。正常組織を復習しながらレポートを書き上げることは容易ではありませんでした。レポート書いてみても、指導医の先生と供覧すると全く違ったことを書いていて「こんなに基本的なこともわからないのか」と落胆する毎日でした。特に恥ずかしかったのは、組織球を頸がんのリンパ節転移として「37/41にリンパ節転移を認めます。」とレポートに書いてしまったことです。1ヶ月の実習を終えましたが、1ヶ月では全く足りませんでした。
 発表症例では血管内大細胞性B細胞性リンパ腫で亡くなった症例を経験させていただきました。症例を経験して最も印象深かったは、症例カルテ中の「社会のために、もう一回だけ手術頑張ってきてね。」という亡くなった患者家族の言葉でした。昨今、剖検症例が少なくなっている中で、社会のため、医学の発展のために亡くなった家族を剖検してもらうという決断はとても勇気のいることだったと思います。その想いを感じならスライド一枚一枚を観察し、この症例から臨床に還元できることは全て抽出するという気持ちで症例をまとめさせていただきました。病理像から病態を明かにしていく過程はとても興味深く、またそれが臨床に還元され、症例発表を通して医学の発展に繋げていく過程は病理学は醍醐味ではないでしょうか。
 最後に、1ヶ月間にわたりメンターとして指導してくださった廣田先生、症例発表を行うにあたり大変お世話になった辻先生、福嶋教授はじめ実習を受け入れてくださった病理診断部の皆様、本当にありがとうございました。

鈴木丈也(2020年2月)

 私は5年生の2月に選択実習という形で1ヶ月間実習させていただきました。
 5年生ともなると将来何科になるかを考え出して、長時間考えてしまったりすることがある様な時期ですが、私が病理をその候補にしているのは、疾患の病態生理や症候の起きる機序に対して興味を持っているという点ゆえにあります。しかし、疾患の病態生理や症候の起きる機序と言いますと、自分の能力不足もありますが、なかなか教材のみでの勉強ではイメージや理解が不十分なものも少なくありません。というよりも私の場合はほとんどです。
 そのような中でいざ実習に参加させていただくと、まず病理の先生方が行なっていらっしゃる仕事内容をほとんどそのままに経験させていただけたことに驚きました。例えば、最も想像しやすいであろう組織診断についても実際にレポートを書かせていただきました。他にも、切り出しと呼ばれる、検体を観察し、割を入れ、標本を作製するという一連の工程についても経験させていただきました。最初は不慣れだったものでしたが、段々とできるものも増えていき、自分で切り出しをした検体の診断まで行い終えた際には、一つの達成感を味わうことができました。
 このような実習を通して、先に述べた疾患の病態生理や症候の起きる機序を学習する上でのヒントを得ました。それは実は上記のような実習を行う際に隣で教えてくださった先生方の発言にありました。例えば、クローン病は炎症が全層性に起き、腸管の穿孔を来しうるが、潰瘍性大腸炎では炎症が粘膜や粘膜下層までに限局し穿孔が起こらないという論理を聞く前までは、紙面上の学習において「炎症がどこまで及ぶか」と「穿孔の有無」とを論理的に結び付けないままに済ませてしまっていました。他にも、メッケル憩室は憩室内に異所性の胃粘膜を併せ持つことがあり、それにより分泌された胃酸によって隣接する回腸組織に潰瘍を生じ出血を来すという論理も、紙面上の学習では「メッケル憩室の合併症に出血がある。」とだけで済ませてしまっていました。
 自分の勉強不足を曝け出すのは恥ずかしいものがありましたが、恐らく医学生をとって私だけということはないように思います。今回の実習を通したことで、次に何か疾患名などを聞いた際には、例えばロビンスのような病理学書で調べてみることで何かしらの論理を探してみようと思うようになり、また、疾患の説明に病理所見があればそれを解釈してみようとも思うようになり、今後の学習スタイルに新たな切り口を設けることができました。尊敬する先生方のような病理医を目指して今後も精進して参りたい所存です。

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