・社会医学グループ (研究代表者:須田史朗)
精神現象とその背景因子との関連について疫学的手法を用い、社会学的に分析を行うことで精神疾患の理解を深めることが社会精神医学グループの目標です。これまでに東日本大震災、高齢者の死別、終末期医療、喫煙と労働環境との関連、地域社会における精神疾患患者の動向などテーマに研究を行ってきています。また、栃木県は製造業が盛んであり、産業精神医学にも力を入れています。自治医科大学の学内でも様々な活動を続けています。
活動の範囲が幅広く、アイデア勝負、何でもありです。そんなカオスなあなたにはきっとピッタリの世界です。
・生理学グループ(研究代表者:須田史朗)
こちらのグループでは様々なモダリティを用いて精神現象を数値化し、その解明を目指しています。実験機器としては、研究室専用の光トポグラフィーを有しており、必要に応じて各種生化学的実験も行います。これまでにうつ病のステートマーカーの探索、睡眠障害とうつ病をテーマに研究を展開してきました。また近年では、”Art × Psychiatry”をテーマに本気で計画を進めています。小児科学講座や心理学講座、岡山大学などと交流を行っています。臨床疑問を解決するためには、どのような方法で実験を行えばよいのか、そしてその方法は実現が可能なのか、をひたすら考える、探偵のような作業です。
<科研費>
(研究代表者:須田史朗 研究期間:2013〜2016年度)
・精神病理グループ(研究代表者:小林聡幸)
精神の疾患について考えると、否応なく、精神の正常とか健康というのが何かと考えざるを得なくなります。どのようにしてわれわれは、〈私〉という意識を持って、〈いま〉を生きているのでしょうか。精神疾患の様態を記録する記述精神病理学から、人間存在の本質を探る哲学的思考まで、あるいは、われわれが、そして病んだ者がこの世界にどうやって住まっているのかと問う現象学的精神病理学から、言語によって構造化された無意識と主体との関係を考える力動的精神病理学まで、精神病理学の世界は広大です。この曠野をともに進みませんか、神経科学や哲学に橋を架けるまで。この目的のためには手段は選びません。現象学、構造主義、システム論、精神分析、言語学、記号論、論理学、分析哲学、人類学、社会学、民俗学……なんでもありです。
<主な活動>
精神病理学会、精神医学史学会、精神病理コロックでの演題発表、論文報告多数あり。
毎週木曜日は小山富士見台病院でラカンゼミを開催(J, Lacan.著 Séminaireの輪読会)。
小林聡幸著『音楽と病のポリフォニー』が、2019年の日本病跡学会賞を受賞。
<近年の業績>
・2020年
西依 康、加藤 敏:精神医学における「意識障碍」概念の全般的検討 ─せん妄(DSM-5)に光をあてる.臨床精神医学 49:311-318, 2020.
Shimizu, K.: Risk factors of severe prolonged grief disorder among individuals experiencing late-life bereavement in Japan: A qualitative study. Death Studies, 2020
・2019年
稲川優多, 大西康則, 加藤敏:娘の不在を契機として緊張病状態が繰り返し生じた統合失調症の1例. 臨床精神病理, 40, 127-136, 2019.
小林聡幸:マタイス・フェルミューレン─音楽的狂信者のサルトグラフィー. 臨精医、48:365-373, 2019.
小林聡幸:強迫を腑分けする.臨床精神病理、40:213-223, 2019.
・2018年
大塚公一郎:統合失調症者の話と言語活動と自他の成立の困難 うわさ話の後で出現した「うそ」の要素現象を手がかりにして. 臨床精神病理, 39(3);199-213, 2018.
齋藤慎之介, 西依康, 稲垣諭:精神科臨床のシステム論的記述の試み―精神科医の視点から. 臨床精神病理, 39(2); 111-124, 2018.
齋藤慎之介:土居健郎の教育分析―漱石の『坑夫』と重ねあわせて―. 日本病跡学雑誌, 2018.
小林聡幸:音楽と病のポリフォニー─大作曲家の健康生成論.アルテスパブリッシング, 東京, 2018.
大塚公一郎:文化精神医学史と優生学. 精神医学史研究, p53-58, 2018.
・精神薬理グループ(研究代表者:塩田勝利)
当グループでは、臨床に根差した薬理学をモットーに研究を行っています。具体的には現在治療法が確立していない急性薬物中毒に対し、すでに臨床で使用されている薬剤の有効性の探索を行っています。これまでにセロトニン症候群やMDMA、覚せい剤であるメタンフェタミンの急性中毒に対して、臨床で使用されている抗精神病薬リスペリドンが有効であることを動物実験で明らかにしています。現在はカフェインやオピオイド系薬剤の中毒症状に対する治療薬の開発を目指しています。
また、これまで向精神薬による希少な副作用や効果の臨床報告を国内外の医学雑誌に発表しています。今後も実験だけでなく、薬理学的観点からの臨床報告や研究を行っていく予定です。
もちろんこれら以外の研究を希望する人も大歓迎です。一緒に臨床に研究に頑張りましょう。
<科研費>
(研究代表者:塩田勝利 研究期間:2017〜2020年度)
・移植グループ(研究代表者:岡田剛史)
移植医療においては、移植を巡った抑うつ・不安、術後せん妄、ドナーの臓器提供意思の評価、拒絶反応への不安、終末期医療など、様々な面で精神医学的な介入が必要となります。当院は小児肝移植において全国屈指の施設であり、腎移植も積極的におこなっています。精神科では、ドナーの精神・心理的予後の改善のための臨床的介入を行うとともに、国内の主要な移植施設と共同で移植を巡った精神・心理学的問題についての研究をしています。また、臓器移植では「他者の臓器をもらう」、「他者に臓器をもらう」という極めて特殊な状況にあり、これに直面したドナー・レシピエントの心理について、社会的、文化的、倫理的観点を取り入れつつ、記述的な研究を行っています。
<近年の業績>
岡田剛史:【臓器移植前後のメンタルサポート:今日的課題】 生体臓器ドナーに対する心理的介入. 移植, 54: 29-35, 2019.
岡田剛史, 安田学, 小林聡幸, 須田史朗:生体移植は日本人の選択なのか 小児生体移植ドナー候補者へのインタビューから. 栃木精神医学, 7: 31-37, 2017.
岡田剛史:臓器提供後に生体臓器ドナーに生じる精神・心理学的問題. 総合病院精神医学, 28: 340-344, 2016.
・その他
従来、精神疾患と創造性の関係を研究してきたパトグラフィーの分野では、精神疾患の発症ではなく、発症防御に焦点を当てた、レジリアンスや健康生成論の考え方に依拠し、傑出した人々がいかに健康を保ちえたかを論ずる「サルトグラフィー」なる概念を打ち立てて研究を進めています。病棟では絵画やコラージュ、音楽療法を施行し、また集団療法も継続的に行っており、研究へと結びつけてきました。さらに、われわれの臨床の基礎となる精神医学の歴史にも関心を払い、精神医学史の研究にも従事しています。
このように、私達の教室では、臨床に根ざした薬理学・分子生物学・認知神経科学の研究、また、人文科学に開かれた精神病理学の研究ができます。学内をはじめ、群馬大学、筑波大学、浜松医科大学など、様々な研究機関との交流があります。研究については個人の志向を尊重する伝統があります。教室は幅広い研究領域を持ち、多種多彩な教室員が様々な領域で活躍しています。
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