Vol.28  No.1 2009


故郷は遠くに在りて思うもの

医学部 5年生 平 瀬 雄 規

 新年明けましておめでとうございます。
 2009年もみなさんにとって良い年になるように祈っております。 ところでみなさんは、どちらでどのように新年を迎えられたのでしょうか?海外に行かれた方や実家に帰省された方、自宅にて寝正月された方(笑)もいらっしゃるのではないでしょうか。私たち5年生は12月22日に総合判定試験1があったおかげで、年末ぎりぎりまで机に向かう生活を送っておりました。そして総合判定試験が終わると私は、例年通り、実家のある鹿児島の小さな島へと飛ぶように帰省し、短い休暇を過ごしてきました。
 私の場合、実家へ帰るのは休暇を取るためというよりは、むしろ手伝いのためと言ったほうがいいのかもしれません。それは実家が小さな惣菜店を営んでおり、年末年始は忙しくなり、その手伝いに帰るためです。帰るたびに、朝早くから夜遅くまでお店の手伝いが待っています。しかし、どれだけ手伝いで大変な思いをしても、島を離れるときはいつも「休みになったら、また手伝いに帰ってこよう」と強く思いながら戻ってきます。
 中学校まで島で過ごし、高校・浪人・大学と親元を離れた私にとって、生活の場は鹿児島市、福岡、栃木と島から遠くなっていくものの、故郷への思いは日増しに強くなっていくのを感じます。中学校の頃は「とにかく島を出たい」「いかに親を説得すれば本土に進学することができるのか」などと視線は常に島の外へと向いていました。両親の理解が得られ、本土の高校へ通うことができましたが、実際に島を離れて高校生活を始めると、自分のいた環境がどれだけ恵まれていたのか、そしてその環境にどれだけ甘えていたのか、ということに気付かされました。この環境の変化に押しつぶされそうになった私は、自分の意見を受け入れて外に出してくれた親に対して「どうして、引き止めて親元にとどめておいてくれなかったのか」とさえ思ったりしたこともあったのですが、今となっては他の人にはできない貴重な経験をさせてくれた親に対して心から感謝しています。それまで自分のいた環境を、その場から一歩立ち退いて客観的に見ることの重要性に気付かされ、居心地の良い場所に留まることをせずあらゆる環境で生活するので、自分を成長させる機会を見つけることができたからです。「かわいい子には旅をさせよ」という言葉がありますが、旅をさせられて、その真意がやっと分かったような気がします。
 本学には、北は北海道、南は沖縄まで全国から学生が集まっています。ですから自治医大生には、遠かれ近かれみんなそれぞれの郷里があります。栃木に実家のある学生は、週末などのちょっとした休みに実家に帰ることがあるかもしれません。一方では、郷里が遠いために年に1〜2回の帰省しかできない学生もいるでしょう。しかしながら、みなさんには帰る場所があり、そこに待っている家族がいます。ふと自分の郷里に思いを巡らせたときに、故郷のありがたさや、そこに住む人たちの温かさを振り返ってみると、もっともっと自分の育った地域の良さに気付くことができるのではないでしょうか?
 私は帰省するたびにそこに住む方々や自然の素晴らしさに触れ、より一層郷里のことを好きになります。今回も自分の住む島の良さを再確認し、そして昨年に院外BSLにて奄美やトカラ列島の離島診療を見学させていただいたこともあり、自分の育った地域のために医療に従事していくことで役立てることがあるのではないかと考える良い機会になりました。


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