Vol.28  No.9 2009 


花札

医学部1年 石 橋 直 樹

  9月、私が自治医科大学に入学してから早いもので5カ月が経とうとしています。入学式から始まり、部活、勉強、テストとやることが目白押しで、ついこの間夏休みになったと喜んでいたら、ダラダラしているうちにもう終わってしまいました。この5カ月で友人もたくさんでき、自治医大や寮での生活にだいぶ慣れることができました。毎日が目まぐるしく過ぎていきますが、いそがしくも充実した生活を送れているということを実感しています。
 さて最近、私はとある映画を見た影響で花札を始めました。ご存知の方も多いとは思いますが、花札とは松・梅・桜・藤・菖蒲・牡丹・萩・ススキ・菊・紅葉・柳・桐の12種類に4枚ずつの計48枚の札を使って行われる日本の伝統的なカードゲームです。松から桐までの12種は1月から12月と対応していて、それぞれの月の花になっています。札には松に鶴、梅に鶯、ススキに月というように花のみならず花鳥風月があしらわれています。私がやっているのは花札のなかでも「こいこい」という2人用の遊びで、札を取り合って役を作って勝負します。運と推理力が必要なうえ、やっているうちに季節の花々について詳しくなれる遊びです。
 花札をやっていて気付いたことは、私が季節の花についてほとんど知らないということでした。2月の梅、3月の桜はまだしも、7月の萩や12月の桐など実物ではどのような花なのかまったく分かりませんでした。私の今までの生活の中にこれらの花々が関わってきていないということなのでしょう。花を観察したり、花について教わったり調べたり、そもそも屋外で遊んだ記憶すらあまりありませんから、当然と言えば当然です。今の子は外で遊ばない、物を知らないとよく言われることですが、私もその例外ではないようです。
 自然にはいろいろと不思議な力があるように思います。森林浴には実際にリフレッシュ効果があると言われていますし、青空を仰げば何となく気分がすっきりします。花のにおいを嗅げば落ち着きますし、一面の桜や紅葉を見れば大きな感動を得ることができます。テレビやパソコンにはない、自然だけが持つ力です。これだけでも自然に目を向けることの効果は大きいような気がします。
 そもそも、自然に目がいかないということは自分に余裕がないことの表れとも言えるでしょう。この5カ月間、私はまわりの景色がどのように移り変わっていったか覚えていません。気が付けば春が過ぎ、夏が過ぎ、秋になっていました。今までどれほど自分に余裕がなかったか(今でもそれほど余裕はありませんが)わかります。せっかく自然豊かな日本にいるのですから、四季の変化を感じられるほどの余裕は常にもっておきたいと思います。
 あれほど力強かった蝉の鳴き声が弱まり、鈴虫が鳴き始めました。木々の葉もこれからだんだんと緑から黄や赤へ変わっていくでしょう。秋は読書にスポーツ、食事に睡眠、何をするにも良い季節です。新しいことにチャレンジすることも素晴らしいですが、少し自分のまわりに目を向けるのもまた、素晴らしいことだと思います。花札では9月は菊の花です。

TOPへ戻る