Cardiology and Metabolism 私達は酸素・エネルギー代謝に注目することで病態を新たに理解し、臨床医学に貢献することを目指して研究を進めています。

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自治医科大学 分子病態治療研究センター
循環病態・代謝学研究部

 酸素は私達が生きていくのに必要不可欠なガス分子です。私達の体は酸素を使ってミトコンドリア呼吸を行い、エネルギー通貨であるATPを獲得しています。体内の細胞、臓器はATPを利用してそれぞれの機能を発揮しています。酸素は主に赤血球中のヘモグロビンに結合して各臓器へと運ばれています。一方、心血管病や貧血、呼吸器疾患などの病態では局所的に酸素濃度が低下し、低酸素状態になります。私達の体にはこのような低酸素環境に対応する機構として低酸素誘導型転写因子Hypoxia inducible factor (HIF)シグナルが備わっています。
 私達はこれまでHIFシグナルに着目し、細胞がミトコンドリア呼吸を制御する仕組みや炎症プロセスが活性化・収束する機構を明らかにしてきました。この中で最近、間質と呼ばれる組織が酸素環境の変化に対して興味深い挙動を示すことを見つけています。間質は線維芽細胞やマクロファージにより構成されており、線維化、慢性炎症や心不全、慢性腎臓病、悪性腫瘍など様々な病態に深く関わっています。これまで酸素やATPが多く存在する環境は細胞に取って良い環境であり、反対に酸素の少ない環境ではその機能が低下すると言う考え方が一般的でした。しかしながら間質の細胞は低酸素のような飢餓的環境でも生存できるのみならず、むしろ積極的に活性化することが判ってきました。このような知見は従来の細胞代謝学では理解できない現象であり、間質細胞における“酸素パラドクス”の存在を浮き彫りにしています。
 私達は現在、酸素代謝が細胞・臓器機能や温度環境と密接に連関していることに着目しています。生体エネルギー論(Bioenergetics)の立場から細胞代謝を新たに見つめ直すことで、心臓病、悪性腫瘍、線維化、慢性炎症など様々な病態をより深く理解し、治療法開発へと繋げることで、臨床医学に貢献していきたいと考えています。