自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その13 同窓会報第68号(2014年4月18日発行)




英文誌に論文(特に症例報告)をリジェクトされたらどうするか?

   kojyo   箱﨑道之 (福島県23期) 福島県立医科大学医療-産業トランスレー
                    ショナルリサーチセンター動物実験分野兼 医学部整形外科学講座

 前回の第12話を執筆された丸山貴也先生より御指名いただきました箱﨑道之です。丸山先生とは1つ違いですが、学生時代はあまり接点がありませんでした。ただ、卒業後のご活躍を見聞し、「母校にはすごい後輩がいるな」と心の中で誇らしく思っておりました。今回御指名いただき、光栄に思っています。
 さて、今回お話をいただいてから、自分は何について書かせていただくべきか迷っておりましたが、おそらく自分が他の方々よりも数多く経験している”Reject”について書かせていただくことにしました。「英文誌に論文(特に症例報告)をリジェクトされたらどうするか?」です。
 あまり自慢にはなりませんが、この文章を書いている2014年3月9日(39回目の誕生日)の時点で、自分が筆頭著者として受けたリジェクトの数は、38回にのぼります。アクセプトになった論文数は17編ですので、1編の論文あたり3.1誌に投稿し、うち2.1誌からリジェクトを受けていることになります。もちろん、1誌目で無事にアクセプトされた論文もありますし、多いものでは7回リジェクトされて8誌目でアクセプトされた論文もあります。
 私が初めて英語で論文を書いたのは、卒後5年目のことでした。2年間の初期研修後に奥会津の病院に勤務している時に遭遇した、小児の母指伸筋腱に生じた石灰沈着性腱炎の症例報告です。整形外科の東北地方会で発表し、四苦八苦しながら英文の症例報告としてまとめ、まず整形外科の雑誌に投稿してみました。しかし、「手術をしていない」という理由でリジェクトされました。2,3誌目の整形外科の雑誌も同様の返答でした。そこで、日本での「整形外科医」は保存療法も手掛けているのに対し、欧米の整形外科医は主に手術を行い、保存療法はリウマチ医が担っているという事実を認識させられ、投稿先をリウマチ医学の雑誌に変更してみました。するとそれが功を奏したのか、オンライン投稿の翌日に”immediate accept”の返答を受け取ることができました1)。2編目の論文はやはり同じ時期に経験した、高校生の女子バレーボール選手に生じた上腕骨骨折の症例報告でした。これも保存療法でしたので、整形外科の雑誌には当然の如くリジェクトされ、3誌目のスポーツ医学の雑誌にアクセプトされました2)。その後も順調に(?)リジェクトの山を築いていますが、最近は症例報告の書き方・投稿の仕方について、朧げながらわかってきたように思います。
1) 日常臨床で「あれ?」と思った症例は書き留めておくこと。 時間ができた時に忘れずに文献を検索してみると、自分の知識不足であっただけのこともありますが、実際に珍しい症例であることもあります。私は外来の診療机の引き出しの中に「ネタ帳」となるノートを入れていましたが、手元にないときには適当な紙の裏にIDと病態を書き留めて、とりあえず財布の中に入れておいたりしました。
2) その症例の「何が」珍しいのか、よく考えて特徴づけること。 疾患自体が珍しいこともありますが、「臨床経過」、「薬物への反応」、「画像所見」や「検査所見」、「病理所見」、「臨床上のpitfall」など、その症例の「何が」興味深いのかを見極め、その点を中心にまとめることが必要です。私自身も経験がありますが、珍しい貴重な症例だと思って、「あれもこれも」と情報を詰め込みすぎると、その症例の特に教訓的な点がぼやけてしまうことにつながります。強調したいことを中心に据え、その他の重要性の低い点は抑えることも必要です。
3) 症例報告を採用してくれる雑誌の中から、相性の良さそうな雑誌を選ぶこと。 前述のように、その論文の内容によって、採用してくれる雑誌は変わります。私の場合だと、論文の内容を思い浮かべながら、「一般医学」、「リウマチ医学」、「整形外科学」、「臨床腫瘍学」、「放射線診断学」、「診断病理学」などいろいろな分野の雑誌の中から、相性の良さそうな雑誌を選んでいます。投稿する際には「症例報告」のコーナー以外にも、短く要点だけをまとめて「letter/correspondence」のコーナーに出したり、画像の一発勝負で「NEJMの”Imagess in Clinical Medicine”」や「Internal Medicine(日内会)の” Pictures in Clinical Medicine”」などのコーナーを狙ってみても良いと思います。
4) 投稿前にnative checkを受けること。そして、もう一度読み返すこと。
 英語で論文を書くことは大変な作業です。特に、よく言われることですが、冠詞や助詞の使い方は難しく、また同じような言い回しの重複を避けて別の表現で記載することなども難しいと思っています。もちろんnative checkを受けるべきですが、特に専門性の高い用語などは、nativeの方でも間違えることはよくあります。また、翻訳を使うこともあるかもしれませんが、その場合は尚更です。英文校正または翻訳が返ってきたら、その専門分野の知識があり、英語を読んでくれる上司や仲間、CRSTの先生方に一度読んでもらいましょう。
5) リジェクトはその論文の内容の全否定ではないこと。  内容が優れている論文であっても、投稿先の雑誌の選択を誤ると、すぐにリジェクトされてしまいます。もしコメントがついていれば、参考程度に読んだうえで、すぐにリジェクトされたことは忘れましょう。そして、気を取り直して次の雑誌に向かいましょう。論文の投稿において、「負け」はリジェクトされることではなく、その論文をお蔵入りさせてしまうことです。貴重な(臨床医としての勘が間違っていなければ)症例の報告を載せてくれる雑誌は必ずあります。恋愛と違い、次から次へと対象を変えても「節操がない」と思われることはありません。ちなみに、最近、私は投稿するときには第3候補の雑誌ぐらいまで考えています。 私は、義務年限中の5年間を雪深い奥会津の病院で過ごしました。業績の中には、現在専門としている骨軟部腫瘍に関する論文もありますが、思い入れが深い論文は、やはり義務年限中に奥会津で出会った症例報告の論文たちです。臨床医として患者さんたちと向き合っていれば、かならず症例報告のネタは見つかります。臨床医としての自分の足跡をPubMedの上に残してみてはいかがですか?

1) Hakozaki M, et al.: Acute calcific tendinitis of the thumb in a child: a case report. Clin Rheumatol 26, 841-844, 2007.
2) Hakozaki M, et al.: Unusual fracture of the humerus in a volleyball player: a case report. Int J Sports Med 28, 977-979, 2007.

(次号は、自治医科大学附属さいたま医療センター医療安全管理室長 総合医学講座Ⅱ(一般・消化器外科)
                             遠山信幸先生(埼玉県6期) の予定です)

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