Vol.27  No.7 2008 


日本病理剖検輯報その他数冊の本のこと

総務部人事課係長 永 田 範 夫

 最近、図書館の改装があった。模様替えした3階の中央には勉強机が並び、奥には木製の棚が配置されている。その棚の一角に、日本病理剖検輯報(しゅうほう)という年報が収められている。平成11年に剖検室が改修された際、補助金の申請事務を担当し、そのときにこの年報のことを知った。昭和33年創刊で、国内の主な病院での剖検実績がまとめられている。もちろん附属病院、さいたま医療センターで行われた病理解剖の報告も収録されている。
 一人につきわずか数行の記載であるが、病理解剖に応じた患者の年齢、性別、病名などが丁寧に記されていて、「22才M慢性骨髄性白血病」という文字を目にするたび、自分とは何のかかわりもないはずなのに胸が痛んだ。数年前までは住所や職業の記載もあったが、今は削られている。
 この年報に収められたデータをもとに、何らかの統計を取れないだろうかと考えた。例えば、東大、自治医大の2校を対象として、10年ごとに患者の年齢を抽出するだけでも、多分、高齢化の傾向がくっきりと現われてくるのではないか。もっと対象を広げて、国内の全医学部で病理解剖された患者の平均年齢を調べ、それと厚生労働白書に載っている日本国民の平均寿命とを並べてみれば、両者はかなり近接するのではないか。統計の取り方と、それによって得られるであろう結果とを様々にイメージしては、図表主体のレポートを形にしてみたいと思った。
 この思いは、いまだに念願のままである。日本病理剖検輯報は禁帯出図書であり、データの入力作業もままならない、とそれなりに弁解することはできる。しかし、要はやる気の問題であろう。現に、図書館にノートパソコンを持ち込み、何やら打ち込んでいる人もいる。こんな調子だから、今年、勤続20年表彰を受けるほど大学の世話になっているのに、学究の端くれにさえなれない。
 さて、人事課の中で、私は主に教員・医師の人事事務を受け持っている。昨年、仕事でよく使ったのは、東大医学部の卒業生名簿である「鉄門倶楽部氏名録」であった。困ったことに、この本は非売品であり、必要の都度、学内から調達してこなければならない。借用先をいくつか確保しておいたため、不自由することはなかったが、多用する本はやはり手元に置いておくに限る。図書館にあればしめたもの、と思って図書館のホームページからOPACで検索したが、見当たらなかった。
 加藤周一、加賀乙彦の著書にはずっと親しんできた。この2人も東大医学部卒であり、鉄門倶楽部氏名録にちゃんと名前が載っている。20代前半、文庫本で加賀乙彦の『宣告』を耽読した。あちこちに心酔した箇所があり、サインペンで筆写しては壁に張っていた。だから今でも、かなり正確に、相当な分量をそらで言える。
 最近読んだ本の中では、おおたわ史絵(ふみえ)の『女医の花道!』(主婦の友社、2005年)が最高に面白かった。医師になるまでの前編では、とりつかれたように勉強している様子が軽妙な文体で綴られている。医師国家試験の受験勉強がいかに凄まじいか、つくづく思い知らされた。医師になったらなったで、今度は幻覚を見るまで働き詰めである。この本もOPACで探してみたけれど、まだ図書館の蔵書にはなっていないようで残念。
 ところで、仕事では多数の先生方と常時、雑多なメールのやり取りをしている。年輩の教授が午前零時を過ぎて、ときに2時、3時頃に返信を送ってくださるが、これが何よりの励みになるし、同時に後ろめたい気持ちにもなる。お世話になっている先生方に本稿を借りて深謝申し上げます。


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