Vol.28  No.3 2009


「本」とわたし

看護学部2年 小窪 純代

 

  みなさんはどのように本を選びますか?本の選び方は人によって様々だと思いますが、自分のことを振り返ってみると、一冊の本と巡り会うまでに結構な労力をつかっているなぁ、と感じます。
 この原稿を書くにあたって、あらためて部屋の本棚に並ぶ本を見直してみました。そこには、自分の好きな作家の本が数冊と大学に入学してから2年間で購入した教科書が並んでいました。それを見てすぐに、あらためて見直す必要もなかったなと思いました。看護学部に入学して以来、授業に必要な教科書などの専門書以外には本を購入したことがなかったのに、本棚をわざわざ見直してみても特別に面白い発見があるはずもなかった、と。そして、どれくらい自分が新しい本を買っていないのか、ということを考えました。もともと、私は本を購入するということに慎重なのかもしれません。本を読まない、というわけではなく、自分の手元に残しておきたいものなのかどうか、ということを考えた上でないとなかなか購入するというところまではいきません。
  もちろん新しい本を手にすることはあります。本屋に行って話題になっているものや自分の気になるものを手にとって目次を開く。そのなかでさらに気になる章や見出しのページを開き、内容をチェックするということはよくします。興味を引くものは山のようにあるし、そんなことをしているうちに数時間が経過していたということもありますが、すぐにその場で購入することは極めて稀で、基本的には図書館においてあるものは図書館で借り、それ以外のものは本屋の立ち読みですませてしまうということが多い気がします。このような過程を経て、もう一度繰り返し読みたいと思った本が私の本棚に並んでいます。
  こうした本を選ぶときの傾向を考えてみると、これから自分が手にして読むだろう本の限界に気づかされます。自分の趣味に関係する本や好きな作家が書いた本は、そこに書いてある文章の表現や考え方が自分の好みであり、読み物としての期待を裏切らないことを知っているから安心して読める。けれども、それだけでは世界が狭まってしまうように感じるので、最近では知人や友人の本棚のなかから彼らの選んだ本を借りることによって、読書の幅を広げるようにしています。
 ところで、私は1年程前から患者図書サービスのボランティアサークルに参加しています。このサークルの活動は、附属病院の各病棟にある書架の本を定期的に入れ換えるというものですが、この活動を行っていて密かに感じていることがあります。それは、他人のために本を選ぶということの難しさです。
  各病棟の特徴などを考えると、避けたほうがよい本(例えば、消化器内科や内分泌代謝科など、食事制限のある疾患を抱える患者さんが多い病棟には料理の載っている本は置かない等)はある程度見当がつくのですが、患者さんがどのような本を望んでいるのかということを知る機会は限られているので、患者さんのニーズの多様性を考えると、本を選ぶことの難しさを感じています。その一方で、患者さんにとって図書が必要であるということを確かなこととして実感できるようになっています。
 
  先日、全国患者図書サービス連絡会の講演会に行ってきました。そのなかで、図書館司書をされている方が病気で入院することになった時の体験から、患者さんの目線で図書の必要性について語っていたのが印象に残っています。本を選ぶということは、健康なときでさえそれなりの労力と体力を要するものです。疾患をもつ患者さんにとっては、さらに骨が折れる作業だろうと思います。読みたいと思ったときに求めている本が手の届く場所にあることがどれだけ患者さんにとって有意義なことなのかということを、講演を聞いてわかったような気がします。
  患者図書サービスという活動を通して、他者のために本を選ぶことの難しさを感じる一方で、個人的に本を選ぶときとは異なった面白さを感じています。こうした活動を続けながら、これから自分がどんな本と出会うのか、どのように興味が広がっていくのか、とても楽しみです。


TOPへ戻る