RESEARCH

研究プロジェクト

炎症プロセスを介する組織リモデリング機構

心臓病や慢性腎臓病の組織には、マクロファージなどの炎症細胞が集積しています。これら炎症細胞は、これまで細菌感染やウイルス感染など、感染応答において中心的な役割を果たしていると考えられてきました。ではマクロファージが感染症ではない心不全や慢性腎臓病の組織になぜ集積するのか、またこれらマクロファージは病態でどのような役割を果たしているのかはこれまで大きな疑問とされてきました。
 近年の研究からマクロファージは均一な細胞集団ではなく、様々な亜集団が存在することが判っています。例えば炎症メディエーターである一酸化窒素(Nitric oxide, NO)を産生する炎症惹起型(M1)のマクロファージ、NO産生を抑制する炎症抑制型(M2)のマクロファージなどの分類が良く用いられています。私達はこれまで低酸素環境で活性化される転写因子Hypoxia inducible factor-α(HIF-α)に着目し、マクロファージ活性化の分子機構解明に取り組んできました。HIF-αには主に3つのアイソフォームがありますが、特にHIF-1α、HIF-2αにつき詳細な解析が進められています。私達はHIF-1αがM1マクロファージに、HIF-2αがM2マクロファージに発現し、それぞれNO産生を増加・減少させる役割を担っている事(HIFスイッチング)を明らかにしてきました(Gene Dev 2010;24:491, PNAS 2013;110:17570)。
 HIF-1αシグナルはまた、ミトコンドリア呼吸を抑制し、嫌気的解糖へと細胞内代謝をシフトさせることで、炎症局所へのマクロファージ集積を促していることを見出しています(Nature Commun 2016;7:11635)。これら心臓に集積するマクロファージはサイトカインの一つであるオンコスタチンMを分泌することで、心臓の過剰な線維化を防ぐ役割を果たしていることも判ってきました(Nature Comm 2019;10:2824)。引き続き病態における炎症細胞の役割を明らかにすることで、心臓病や慢性腎臓病の診断・治療へと繋げるべく研究を進めています。