RESEARCH

研究プロジェクト

虚血空間における線維芽細胞活性化(酸素パラドクス)

心臓は収縮と拡張を交互に繰り返すことでポンプとして全身に血液を駆出しており、収縮、拡張いずれの機能が低下しても心不全という致死的病態が引き起こされます。経カテーテル治療や薬物治療の進歩により、収縮機能低下により引き起こされる心不全に対する治療は近年大きく進歩しています。その一方、拡張機能の低下により引き起こされる心不全に対して有効な治療法は現在も存在せず、その病態と治療法開発が臨床的に強く求められています。
 心臓の線維化や慢性炎症は心臓拡張機能を低下させる主な原因の一つと考えられています。心筋細胞は心臓の実質細胞ですが、線維芽細胞やマクロファージなどは間質の細胞と呼ばれています。これら間質細胞が引き起こす病態は心臓線維化や拡張機能の低下を引き起こすことから、現在その分子病態に大きな注目が集まっています。
 私達は酸素環境に着目し、線維化病態の解明に取り組んできました。これまで酸素は細胞や個体の生存や機能維持に必要不可欠なガス分子であると考えられてきました。実際に心筋梗塞では虚血・低酸素により心筋細胞の壊死や機能低下が引き起こされます。しかしながらこのような一見すると細胞にとって不利な環境においても、線維芽細胞は生存することが可能であり、むしろ積極的に活性化することが判ってきました(AJRCMB 2018;58:216, Int Heart J 2019;60:958)。従来のATP産生量を重視するエネルギー論では理解できない知見であると思っています。私達は線維芽細胞が低酸素環境でどうやって細胞死を免れているのか、またこのような過酷な条件でなぜ活性化できるのか、その分子機構の解明に取り組むべく、細胞内ATP、NADのモニタリングに取り組んでいます。
組織線維化は心臓に限らず、肺、肝臓、腎臓、皮膚など様々な臓器における難治性疾患として大きく注目されています。線維芽細胞が活性化・不活化するプロセスを理解し、更にそれらが過剰に活性化する病態解明へと繋げることで、これら難治性病態への治療へと展開していくことを目指しています。