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<NEW> 甲谷友幸(埼玉県20期卒) Kabutoya T, Imai Y, Ishikawa S, Kario K. The association between P-wave polarity in atrial premature complexes and Cardiovascular events in a community-dwelling population. BMJ Open 2020 Nov 4;10(11):e033553. doi: 10.1136/bmjopen-2019-033553.
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【研究要約】 |
目的:心房性期外収縮(APC)は健常人でもしばしば見受けられる。しかしAPCは心血管死亡や虚血性脳卒中に関連することも示されている。APCの起源によりP波の極性が異なることが予想されるが、いままでAPCのP波の極性と心血管予後の関連は明らかにされていない。本研究は、一般日本人におけるスクリーニングで得られた心電図のP波の極性と脳卒中との関係を調査することを目的とした。 対象と方法:JMSコホート研究に登録された12の地域から12,490人のうち心電図が得られ、心房細動患者を除外し、フォローアップデータのある11,092人を対象とした。APCの極性をaVR, aVLで分類し、脳卒中との関係はCox比例ハザードモデルを用いて分析した。 結果: 11.8年の追跡調査期間中に411人の脳卒中が確認された。APCがないものに対するAPCがあるものの脳卒中のリスクは、非補正で2.73倍(95%信頼区間[CI], 1.57-4.74)、補正後では1.51倍(95%CI,0.86-2.65)であった。aVRが陰性でないAPCがあるものの脳卒中のリスクは、非補正で3.50倍(95%信頼区間[CI], 1.97-6.22)、補正後では1.84倍(95%CI,1.02-3.30)であった。aVLが陽性でないAPCがあるものの脳卒中のリスクは、非補正で2.87倍(95%信頼区間[CI], 1.97-6.22)、補正後では1.92倍(95%CI,1.05-3.54)であった。 結論:P波の極性によるAPCの分類は一般住民の脳卒中予測に有用であった。
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【研究者より一言】 |
APCは心房細動発症に関連し、心血管イベントにも関連します。一方で、おそらく多くの医師が、単発のAPCを見ただけでは経過観察とし次のアクションは起こさないと思います。この研究ではAPCの極性で脳卒中のハイリスクを層別化できるかをテーマにしました。 心房細動の起源は肺静脈内にあることが多く、特に左の肺静脈が起源であればaVR誘導は陽性にはならないと考えられます。一方で通常の洞調律の心房興奮のベクトルはaVR誘導で陰性です。APCで洞結節周囲とは明らかに異なる極性をもつ、すなわちaVR誘導で陰性でないAPCが心房細動を介して脳卒中になるのでは、という仮説のもと解析を行いました。このような対象者では、心房細動の発症に注意する必要があると考え、心房細動の早期発見により適切な降圧や抗凝固療法の使用により脳卒中が予防できれば、と思っています。 私は以前に、JMSコホート研究のデータを用いた廣瀬先生の心室性期外収縮(VPC)に関する研究や岩花先生の心房細動の研究のお手伝いをさせていただいています(Hirose H, Ishikawa S, Gotoh T, Kabutoya T, Kayaba K, Kajii E. J Cardiol. 2010;56:23-6. , Iwahana H, Ishikawa S, Ishikawa J, Kabutoya T, Kayaba K, Gotoh T, Kajii E. J Epidemiol. 2011;21:95-101. )。もし心電図解析で論文を書きたい先生がいらっしゃいましたら、ご協力しますのでご連絡いただければと思います。この度は貴重なデータを解析させていただき、ありがとうございました。
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渡部純(鳥取県35期卒)
研究1:メタボリックシンドロームは日本人一般住民において悪性腫瘍死亡の
リスク因子 Diabetol Metab Syndr. 2019;11:3. PMID: 30636976
研究2;単独低HDL-C血症と脳卒中発症について
J Clin Lab Anal. 2019;e23087. PMID: 31742753
研究3:高HDL-C血症と脳卒中サブタイプのリスク
Asia Pac J Public Health. 2020;32(1):27–34. PMID: 31970995
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【 研 究 要 約 】 |
研究1のメタボリックシンドロームと悪性腫瘍死亡との関係を調べ、学位を取得できました。また、本研究に関連して、HDL-C血症と脳卒中について2本論文を書かせていただきましたので、研究の概略を紹介させて頂きます。
研究1: メタボリックシンドローム(MetS)と悪性腫瘍死亡 PMID: 30636976
JMSコホートI研究の対象者のうち、11,523人(男性4,495人、女性7,028人)を解析対象とした。日本のMetSは、18.5年の追跡期間で、女性において悪性腫瘍死亡を1.69倍、特に結腸直腸癌を3.48倍、乳癌死亡を11.9倍増加させた。また、MetSの要素が増えると悪性腫瘍死亡は増加した。これらの結果は、特定健診で、特にMetSと診断された人に注目して、がん検診、特に便潜血検査とマンモグラフィーにつなげる保健指導の重要性が示唆された。
研究2:単独低HDL-C血症と脳卒中発症 PMID: 31742753
JMSコホートI研究の対象者のうち、脳卒中既往のない11,025人を解析対象とした。他の脂質異常症を伴わない単独低HDL-C血症は、10.7年の追跡期間で、脳卒中発症を増加させるとは言えなかった。しかし、高総コレステロール血症や高中性脂肪血症を伴う低HDL-C血症は、脳卒中発症を1.35倍増加させた。これらの結果は、脳卒中一次予防において、高総コレステロール血症や高中性脂肪血症を伴う低HDL-C血症に注目して保健指導をしていくことの重要性が示唆された。
研究3:高HDL-C血症と脳卒中サブタイプのリスク PMID: 31970995
JMSコホート研究I研究の対象者のうち、11,027人を解析対象とした。HDL-C血症を60mg/dl以上(高HDL-C血症)、40〜60mg/dl未満、40mg/dl未満(低HDL-C血症)の3群に層別化し、HDL-C40mg/dl未満を基準とした。高HDL-C血症は、低HDL-C血症に比べて、女性において、脳出血発症を予防した。また、本研究は、HDL-C血症と脳卒中との関係において、発症と死亡を同時に扱っている点で非常に重要である。
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【研究者より一言】 |
本論文は、私が自治医科大学の社会人大学院在学中、鳥取県の一人診療所の佐治診療所赴任中に3つの論文を作成させて頂く機会を得ました。また、鳥取県の佐治地区で、JMSコホートII研究の症例登録をし、追跡調査に関わっています。JMSコホートI・II研究を通して、コホート研究の症例登録から追跡、解析、論文執筆まで関われたことは一生の宝です。また、3つの研究ともに普段の保健指導や診療にとって重要な知見を得ることができました。今後地域住民の方々に研究の成果を還元していきたいと思います。指導教官である石川鎮清先生、論文指導頂いた小谷和彦先生、身近にご指導頂いた懸樋英一先生を始め、JMSコホート研究にご協力頂いた地域の方々、施設の方々に、この場を借りて心から感謝申し上げます。 |
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石川讓治(高知県17期卒)
東京都健康長寿医療センター 循環器内科 専門部長
わずかなST-T変化と脳卒中発症のリスク
–非特異的なもの、わずかなものは経過観察でいいの?–
Ishikawa J, Hirose, H, Schwartz JE, Ishikawa S. Minor Electrocardiographic
ST-T Change and Risk of Stroke in the general Japanese Population.
Circ J 2018; 82: 1797-1804.
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健康診断で心電図を撮って、非特異的S-T変化、平坦T波、わずかなST低下(1mV未満)といった所見を目にすることは、多くの医師が経験されていると思います。心電図ストレインパターンと呼ばれるV5やV6誘導の0.1mV以上のST低下は左室肥大の診断根拠となり、高血圧や糖尿病の保健指導や医療機関受診の対象になることが多いのですが、上記のわずかなST-T変化については、ほとんどの医師や保健指導で見逃されていることが多いのではないでしょうか? たとえ医療機関に紹介受診したとしても、心エコー図検査を施行して左室重量係数増加や左室壁肥厚はありませんでしたとの返事が返ってくるだけのことが多いと思います。つまり、何らかの所見はあるが大きな変化ではなく、重要性はよくわからないといったことで放置されているのです。
JMSコホート(1次コホート)のベースラインの心電図でST-T変化が評価可能であった10642名の健診受診者において10.7%にわずかなST-T変化、0.5%に大きなST低下が認められました。この地域一般住民の健診において10人に1人に、わずかなST-T変化が認められたことは大変驚きでした。わずかなST-T変化は、高齢、収縮期血圧、降圧薬の使用といった加齢や高血圧と関連する心血管危険因子だけでなく、女性や高脂血症といった因子とも関連していたことが特徴的であったと思われます。わずかなST-T変化は、形態学的な左室壁肥厚だけでなく心筋組織の性状にも影響を受けており、高脂血症においては形態的には分からない左室心筋の質的(電気的)な変化が生じている可能性も示唆されました。
10年以上の追跡期間の間に、わずかなST-T変化を認めた受診者においては2.10倍の脳卒中の発症リスク増加が認められ、普段見落としがちな所見ですが改めてその臨床的な重要性が示唆されました。しかし、この関連は心血管リスク因子で補正すると有意差が消失したため(P=0.055)、交絡する心血管リスク因子の影響を受けていることが疑われました。わずかなST-T変化と脳卒中発症リスク増加との関連は高脂血症を認める受診者において特に認められ、高脂血症を認める受診者ではわずかなST-T変化が1.75倍の脳卒中発症のリスク増加と関連していたことが明らかになりました。
これらの結果から、健診受診者の心電図においてわずかなST-T変化を認めた場合は、高血圧や高脂血症に注目して保健指導していくことの重要性が示唆されました。
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