< PICK UP ~ 論文執筆エピソード ~ >
〈NEW〉 佐藤 史崇(和歌山県37期卒) 研究1)Fumitaka Sato, Yosikazu Nakamura, Kazunori Kayaba, Shizukiyo Ishikawa. Hemoglobin concentration and the incidence of stroke in the general Japanese population: the Jichi Medical School Cohort Study. Journal of Epidemiology, 2020 研究2) Fumitaka Sato, Yosikazu Nakamura, Kazunori Kayaba, Shizukiyo Ishikawa. Stroke Risk Due to Smoking Characterized by Sex Differences in Japan: The Jichi Medical School Cohort Study. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, 2021 研究3) Fumitaka Sato, Yosikazu Nakamura, Kazunori Kayaba, Shizukiyo Ishikawa. TG/HDL-C ratio as a predictor of stroke in the population with healthy BMI: The Jichi Medical School Cohort Study. Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases, 2022 |
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【研究要約】 |
私はJMSⅠコホート研究のデータから3つの論文を作成させていただきました。研究の概要を紹介させていただきます。 研究1) JMSコホート研究に登録された11,710人の被験者のデータを解析した。ベースラインヘモグロビン濃度の四分位によって参加者を分け、第二四分位を参照カテゴリとしてCox比例ハザードモデルを計算した。その結果、ヘモグロビン濃度が低い群は脳卒中発症のリスクが高くなった。また病型別ではくも膜下出血が最も強く関連していた。 研究2) JMSコホート研究に登録された11,324人の被験者のデータを解析した。参加者を喫煙状況に従って層別化し、非喫煙群を参照群としてCox比例ハザードモデルを計算した。その結果、男性では脳卒中のリスクは喫煙本数とともに増加し、1日30本以上喫煙する群では脳卒中全体と脳出血のリスクが高くなった。女性では喫煙群は脳卒中全体のリスクは増加し、病型別では脳梗塞とくも膜下出血のリスクが高くなった。 研究3) JMSコホート研究に登録された11,699人の被験者のデータを解析した。健康的な BMI (20.0-24.9 kg/m2) の参加者をベースラインのTG/HDL-C 比によって四分位に分け、第一四分位を参照カテゴリとしてCox比例ハザードモデルを計算した。その結果、TG/HDL-C比の上昇は、脳卒中発症のリスク増加と関連していた。また病型別では脳内出血および脳梗塞のリスク増加と関連していた。 脳卒中の危険因子を調査する目的で取り組んだ3つの研究は、題材こそ異なりますが、それぞれの研究を通して危険因子というものを多角的に捉えることができました。また題材毎に病型別または男女別での影響度の違いについて再確認することができました。特にTG/HDL-C比の研究では、因子を組み合わせることによりリスクとなる集団を細かく特定することができる可能性について検討でき、今後も危険因子についての研究が重ねられることで日本人においてより介入すべき集団が絞られてくる可能性が示唆されました。 |
【研究者より一言】 |
JMSコホート研究の論文は、自治医科大学の社会人大学院在学中に作成させていただきました。入学当時は宮城県内で地域医療に従事しておりました。地域医療こそ予防医学や公衆衛生学に触れる時間が長いため、普段の診療とは別に、マクロな視点で地域医療を学ぶことができたのはとても貴重な財産となりました。私と同様に、地域にいながらデータの解析や論文執筆まで学びたいと考えている方へは社会人大学院はお勧めです。 最後に、本研究にご協力いただいたJMSコホート研究の研究スタッフをはじめとして、研究の指導教官である石川鎮清先生、中村好一先生、萱場一則先生には心より御礼申し上げます。 |
〈NEW〉 白石裕子(島根県17期卒) 1) Shiraishi AY, Ishikawa Y, Ishikawa Joji, Matsumura M, Ishikawa S. 2) Shiraishi AY, Ishikawa Y, Ishikawa Joji, Matsumura M, Ishikawa S. Age and sex differences in the risk of cardiovascular diseases by chronic kidney disease in a general Japanese population. Heart Vessels. 2023 Sep;38(9):1164-1171. doi: 10.1007/s00380-023-02264-7. |
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【研究要約】 |
目的:慢性腎臓病(CKD)の発症および進行のリスクを評価することは、平均寿命の延長を背景として、臨床的に重要となってきている。本研究では、自治医科大学(JMS)コホート研究から日本の非都市部の地域住民におけるCKDの頻度およびCKDに影響を与える因子としての、脂質、特に中性脂肪(TG)値について調査した(第1研究)。また、予後としてCKDと心血管疾患(CVD)発症との関連を調査した。日本の非都市部の地域住民における、CVD発症のリスクについて、年齢と性別の層別化解析は、詳しく検討されていない。そこで、JMSコホート研究の追跡研究を用いてCKDの有無によるCVDの発症を調査し、年齢と性別で層別化したリスク解析を実施した(第2研究)。 |
【研究者より一言】 |
JMSコホート研究1は私が自治医科大学を卒業した頃から10年間をかけて行われた自治医大の大規模コホート研究です。このたび地域医療学センター総合診療部門に所属し、診療や教育に従事しながら、JMSコホート研究の一端として、二つの研究を行いました。主題は増加する慢性腎臓病と関連するもの、特に脂質との関連、慢性腎臓病と心血管病との関連について、です。卒後20年以上、離島をはじめ地域の診療所などで臨床に明け暮れていた私にとりまして、研究は、しかも英語で論文を書くなど、まるで幼児が富士山の前でたちすくむような、ハードルの高い挑戦でした。ほぼ初心者ですから、研究データの解析、統計など、未知との遭遇の中で四苦八苦の連続でした。ハゲタカジャーナル騒動に巻き込まれそうになったり、なかなか査読者決定の連絡がもらえなかったりと次々に大小事件があり、論文が受理されたときの喜びはひとしおでした。石川由紀子先生、譲治先生、鎮清先生、松村正巳先生の手厚いご指導、また公衆衛生学教室の先生方、コホート事務局のみなさんのご協力、家族や友人からの励ましによる賜物と感激しております。また膨大なデータの収集、クリーニングなど諸先輩方の汗と努力の結晶であるデータを解析させていただいたご縁にも心から感謝いたします。年1回のコホート研究会ではアットホームな雰囲気の中、全国の先輩方から熱くご指導いただきました。目の前の患者さんの診断治療はやりがいのある仕事ですが、疫学研究でつちかう統計学の知識や考え方はとても有意義な学びとなり、患者さんと向き合う中でも生かすことができると感じます。ぜひさらに多くの卒業生がJMSコホート研究に携わっていただけるとよいと思います。 |