自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その24 同窓会報第79号(2017年1月1日発行)


学術論文の投稿には編集委員会も応援しています」

            自治医科大学附属さいたま医療センター 救命救急センター 
                                   守谷 俊
moriya

 私は昨年から英文誌である“Acute Medicine and Surgery”の副編集長を担当しています。今回は、投稿された原稿を受け取る側(editorial side)の思いについていくつかアドバイスできればと思います。
1. 内容にあった雑誌選びが肝心。
 雑誌のaims and scopeを熟読してください(最も重要です)。内容が充実していて読者に満足の得られる内容であっても、editorial sideでは、雑誌掲載の主旨に合致しなければその時点で即rejectとなるからです。
2. 論文の体裁を整えることは最低のマナー。
 提出された原稿は、まず体裁が整っているかチェックします。図表の表し方、字体、文献の提示方法、キーワード、字数制限、共同研究者のサイン、連絡先、利益相反の有無、必要書類へのサインなどです。雑誌の種類によって形式が異なりますので注意してください。体裁が整っていないと提出した論文が数日以内に戻ってきます。Authors serviceやpre-submission English language editingを利用することもお勧めです。
3. 色々な役割を持った査読者がレビューを開始します。  
 今まで努力してきた研究をまとめたわけですから、高ぶる気持ちを押さえられないといったところでしょうか。原稿提出までのご苦労はまさに努力の結晶です。たくさんの論文を読んで作成した原稿ですから、自分の右に出るものはないはずであり、自分はその分野の権威者であるかのごとく錯覚するわけです。実際に私もそうした感覚になり自己陶酔していることがありました。しかしながら、原稿の提出は、論文完成のための入り口なのです。
 査読者は、最低2名とeditor(時にeditor in chief)がつきます。私はある雑誌にreviewを投稿したのですが7名の査読者が付いたことがありました。査読者に統計学者を入れ、データ解析の質を担保する雑誌も最近あります。こうしたメンバーのなかで原稿採用(accept)の裁量は多数決ではなく、編集長に大きな権限があります。
4. 査読の返事はいかに。  
 数週間から数か月間、楽しみにしていた査読結果だったのに、その査読返事に圧倒されます。あれもこれもだめ。内容変更のダメ出しが数多く指摘されます。査読の返事でshouldを多用されるとまさに命令されていたような気持ちになり、何でそんなに偉そうに言われなければならないのか、私は大変いやな気持ちになりました。メイルの返信は、一転して不幸のメイルとなり、日常臨床、研究のactivityは落ち込み、自分自身すべてが否定されたような気分になります。しかしながら、この結果は、査読そのものの評価であって、もちろんあなた自身を評価しているものではありません。リバイス(再提出)は必ずあると考えておいた方が賢明です。それだけ真剣に査読者がチェックしてくれていると前向きに考えましょう。少し間隔をおいて査読結果を再度読んでみましょう。
5. 投稿者と査読者の思いは一緒です。
 良く考えてみて下さい。雑誌への投稿においては、その分野の最先端の先生方からコメントをいただき、今まで以上のエビデンスを積み上げていくチャンスをいただいたわけです。不幸のメイルから立ち上がり、今までになかったエビデンスを積み上げるための当然の作業だと考えています。査読を引き受けて下さった先生は、自然科学の進歩に対する一人の承認者としてなくてはならない存在なわけです。
 1回目の査読で、完全に修正がないような提出原稿を私は今までに見たことがありません。なぜなら査読者間でも読むポイントが微妙に異なることから、査読行為そのものは完全な作業とは言えないのです。原稿提出者と査読者が協力して一つの医学的事実を積み上げていき、そのプロセスから得られる経験や議論そのものはその後の論文作成時に大変有意義になるでしょう。査読者は、原稿に対して多くのアドバイス、コメントを投稿者に与え、読者に何とか踏ん張ってもらい、原稿を論文として世に送り出そうとバックアップしてくれます。査読者を信じて最後まであきらめずにacceptを勝ち取りましょう。
6. 論文査読者および編集者も評価を受ける時代です。
 最近、査読者に少しばかりプレッシャーがかかってきました。雑誌に投稿した原稿を誰がいつ査読したのかについて、モニタされるようなシステムが現在動き出しています。更にはrejectされた論文の行方を追跡して、その論文が最終的にどの雑誌に掲載されたかを調べるシステムがあります。自身が編集している雑誌よりimpact factorや citation indexが上位の雑誌に掲載が決まってしまうようなことが、もし発生したらその雑誌の編集長ふくめてスタッフは全員交代となる恐ろしい時代が今後来るかもしれません。編集者および査読者も真剣なのです。

(次号は、自治医科大学整形外科 竹下克志先生の予定です)

戻る 次へ