自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その9 同窓会報第64号(2013年4月15日発行)
「生物統計学の研究紹介」
三重野牧子(自治医科大学情報センター・医学情報学)
研究・論文こぼれ話,過去の記事を読ませていただきますと,著名な先生方の輝かしいお話ばかりで,「こぼれた」話しかない私が書かせていただくのは恐れ多いことですが,このたびはお邪魔いたします。医師でもなく実験をしているそぶりもない,ということで学生にも「先生何しているのですか?」と時々聞かれてしまいます。今日は,最近取り組んでいる研究のご紹介を少しさせていただければと思います。
生物統計学は,臨床研究デザインからデータ管理,統計解析まで幅広くカバーする学問です。データ解析だけでなく,方法論の良さの評価,さらには新しい方法論の開発まで含まれます。得られたデータに対して,臨床的にも統計的にもより良い方法で,治療効果等を評価することが重要と考えます。以前たまたま,再発寛解を繰り返す神経疾患の臨床試験に関わる機会があり,治療効果をどう測るかについて考えていました。その際に既存の方法(単純な再発率のみで判断)だけでなく各人の背景因子や再発の起こりやすさなどを考慮した方法が良いのではないかと考えました。そこで,実際のデータをもとに仮想的なモデル集団を作成し,治療効果の推定方法に関する比較研究を行った結果,提案した方法が良さそうだということを報告することができました。
こうした研究のほか,大規模データベースを用いた研究として,病理解剖データベースや疾患レジストリデータベースの管理およびデータ解析に10年以上関わらせていただいています。共同研究先である東京都健康長寿医療センターには数十年にわたる病理解剖(剖検)データベースがあり,全身の様々な疾患と臨床・病理データの関連を検討することができます。そこで,悪性腫瘍の生涯罹患率と血清Lp(a)値の関連が示唆されましたが,横断的な関係しか分からなかったため,前向き研究であるJMSコホートのデータで検討させていただいたところ,特にLp(a)の値が低い場合のリスクについてまとめることができました。疾患レジストリデータベースでは,日本における腎移植全症例の登録および追跡調査に関わり,紙の調査票で調査されていた頃からUSBメモリを用いた調査,そして現在のweb登録に至るまで,データベースの質を担保するには?より回収率を上げるにはどうしたらよいのか?など悩みながらデータベース構築をしてまいりました。長年にわたって集められた知見をそろそろアウトプットしていく必要があります。
(次号は、自治医科大学地域医療学(医療政策) 古城隆雄 先生の予定です)
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