前田佳孝 / Maeda Yoshitaka
日本人間工学会認定人間工学専門家(CPE)
e-mail: y-maeda"at"jichi.ac.jp
所属
- メディカルシミュレーションセンター 講師
- 附属病院 医療の質向上・安全推進センター(兼)
略歴
- 1989年1月生まれ.
- 2011年3月 早稲田大学創造理工学部 経営システム工学科 卒業
- 2015年4月 同学科 助手
- 2016年7月 早稲田大学大学院 創造理工学研究科 経営システム工学専攻
博士課程修了.博士(工学)
博士論文『血液透析における状況に応じた施術のための新人訓練項目に関する研究』 - 2017年 4月 自治医科大学メディカルシミュレーションセンター 助教
- 2020年12月 同センター 講師
研究活動
(1)ノンテクニカルスキル(NTS)に関する諸研究
- 熟練者の“暗黙知的な”NTSの明確化
2016年度まで早稲田大学創造理工学部の人間生活工学研究室(小松原明哲教授)に在籍し、現場安全のための新人訓練をテーマに検討を行ってきました.その中でも特に,透析に携わる臨床工学技士を対象に熟練者のNTSを明らかにし、訓練項目として整理する検討を行ってきました。
研究手法は以下の通りです。
(1)質問紙調査
(2)アイマークレコーダ(装着者の注視しているポイントを映像として記録できる装置)やビデオカメラでの行動分析
(3)熟練者へのインタビュー調査
こうした研究手法(認知行動分析)は,当シミュレーションセンターでの医療安全関連の訓練シナリオ作成においても役立てています.
(2) ヒューマンファクターズ&医療安全教育に関する研究
実際の現場での医療安全に関する実態調査を行い,学生への早期からの医療安全教育を行うための課題の整理と,教育デザインの検討を行っています.
- 効果的な事故再発防止策立案のための、インシデントレポートの質向上
患者・当事者・周囲の医療者・ソフト面(ルール等の整備)・ハード面(医療機器等の改良)・環境面(作業環境等)・マネジメントといった多様な側面から事故の再発防止策を考えるには、インシデントに関する十分な“事実”を収集する必要があります。現状のインシデントレポートは情報が不十分なものも多いため、レポートの質向上のための検討を行っています。
- 医療の質と安全の向上に効果的な確認行動の検討
現場では,様々な確認行動(手術前タイムアウト、読み合わせ、ダブルチェック、指差呼称等)が実行されていますが、効果的なやり方が行われていないケースも多くあります。また、最適なやり方が定まっていない確認行動もあります。前述の認知行動分析を通して、臨床での医療者の確認行動の現状を定量的に評価し、効果的な確認行動のやり方を明らかにしたり、その教育手法を検討したりしています。
- 臨床未経験の学生に対するシミュレーションを用いた医療安全教育
医学部1年生に基礎的な安全スキルを獲得させるための授業題材選びや方法論の設計に取り組み、教育効果を演習成果物等から検証する方法についても検討しています。一方で,基礎だけでは(1)実務においてどのタイミングで、どう安全行動(指差呼称やダブルチェック等)を取るべきか、(2)その行動が適切でなければ、どのようなプロセスでエラーや事故に陥るのか、(3)エラーの影響をどのように最小限に留めるのか、といった「実践的安全スキル」が身につきません。シミュレータを用いて、これらを教育することで、医療現場で取るべき安全行動の意義や、効果のある実践方法を身に付けさせる試みを行っています。
- 医療者をサポートする医療機器のデザイン研究
先ほどの認知行動分析を用い,医療機器の使いやすさについても検討しています。
研究業績
https://researchmap.jp/yoshitakamaeda/
教育活動
学生教育
『医療安全・ヒューマンファクター』をテーマに教育を行っています.医療安全では,“良くない習慣(安全行動の軽視、効果の低い安全行動の実施等)”が身に付く前に、早期から“安全に関する良い習慣”を身に付けさせることが重要と考え、医学部低学年の学生を対象に以下の授業を行っています.
- 医科教養(1年生必修科目:2学期 全4回)
7~8名で構成される小グループでのディスカッションを通して,他者の考え方や思考の多様性を感じさせるオムニバス形式の授業です.私の担当授業では,医療事故の①再発防止と②未然防止について,それぞれの考え方の修得を目標にしています.
①再発防止:医療事故事例(手術部位の左右取違え)のビデオを視聴し,原因と対策について討論させています。また,各学生に安全のためにどのような医師になるべきかについて考えてもらい,早期から安全に対する前向きな態度を醸成しています.
②未然防止:医療現場を描いた3種のイラストを用いて,各グループに危険予知(イラストから安全上の弱点や危険と思われる事項を抽出し,対策樹立等を行うこと)を実施してもらっています.ただし,臨床未経験の学生では幅広い観点での予知を期待しにくいことから,What-If展開といった他の産業界における“思考のための補助ツール”を取り入れ,低学年にも分かりやすいように工夫を施しています.
- 医療安全のための理論と実践(1年生選択科目:2学期 全10回)
臨床未経験の学生は医療現場を題材に安全教育を行ってもイメージしづらいと考えられます.一方,現場安全に関する技法(指差呼称やSBAR等)は医療以外の領域で開発されたものが多いため,日常場面をテーマに教育が可能です.この授業では,基本的な安全の理論や技法を学んだうえで,それを普段の生活に取り入れて習慣化することを狙いとしています.例えば,院内巡視のように校舎を点検して危険予知を行ったり、コミュニケーションエラーを実際に体験できるゲームを行ったりし,基礎的な安全の考え方と習慣を身に付けさせています.
医療従事者(看護師)教育
- 多重課題研修
新人にマルチタスクを模擬的に体験させるシナリオベースの訓練です.このシナリオは,看護師のマルチタスクに関する7つの能力(転倒リスクの管理,コミュニケーション,タスクの優先順序付け等)を体験できるよう,臨床の出来事を基に作成されています.具体的には3種類の患者への同時対応(点滴交換,トイレ介助,急な咳き込みへの対応)を模擬的に体験し,その後は,新人同士がディスカッションを行うことで7つの能力について“自ら気づきを得て”もらいます.患者役は病棟の先輩看護師にお願いしていますが,ディスカッションでは極力介入しないように心掛けています.
学外での研修
- 臨床工学技士養成課程の学生への医療安全教育(2018年~)
- 神奈川工科大学 工学部 非常勤講師
- 医療安全管理者養成研修 講師(2019年~)
- 東京都看護協会 『 医療事故発生のメカニズムとヒューマンエラー』
- その他、医療施設での研修
- 赤羽リハビリテーション病院 など
抱負
医療安全は,シリアスなテーマです.また,医師国家試験にも実践的な知識を問う問題はほとんど出題されません.つまり,学生の学習意欲はマイナスから始まることが多いかと思います.そこで,以下を教員側の目標として,卒前からしっかりと継続的に医療安全に関する知識・技能・態度を醸成させる仕組みを作っていきたいです.
- 学習意欲の向上:授業時間にしかできないことを経験させ、その体験を大事にさせる.
- 意味のある学習:「よかったね」「楽しかったね」で終わらせないよう,授業後すぐに実践できる事項を学ばせること.
- 持続的学習:学んだことを,日常生活を含む様々な場でも継続的に実践させること.
- 自主学習:「先生」がいなくても自主的に学びを続けさせること.
教育デザインやシミュレータ開発では,常に「学習者視点」「教育者視点」に立つことを忘れずに,それぞれ立場で効果・効率・満足度をいかに高められるかを目指して検討を行っています.