医学部生へのシミュレーション教育関連の研究

学生によるピアティーチングの導入とその効果

 日本の医学部の一年生は,高校を卒業してすぐに入学した学生がほとんどあり,医学知識は非常に少ない.そのため,一年生は医学のベースとなる,生物や物理,化学といった基礎的な科学系科目を学ぶことに多くの時間を費やす.また,一年次にシミュレーションを用いた学習の機会を設けている大学も少数存在するが,その多くは講師がシミュレータを用いて一方的に手技をレクチャーするものであり,個々の学生がシミュレータに触れられる時間は短いのが現状である.入学前の学生の中には,医学部での授業について手技の練習といった臨床に関わる授業をイメージする者も少なくないため,現状のカリキュラムでは,学習へのモチベーションを下げる可能性をはらむ.
 本研究では学生同士がシミュレータを用いて,手技の行い方とそれに関連する科学的,解剖学的な基礎知識を教え合う形式の授業を実施し,その教育効果について明らかにした.本授業形式の理由として,1)基礎的な科学系科目を学ぶことの重要性について学生が自身で気付けること,2)学生同士でのレクチャーにより,教える側と教わる側双方の学生がじっくりとシミュレーション学習を行えることが挙げられる.

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謎解きゲーム×医療シミュレーション

医学部1 年生の必修授業用コンテンツとして、パズルによる知識確認とシミュレーションによる技能・ 態度確認とを組み合わせた「謎解き」を設計・開発した。会場はシミュレーションセンターの1 フロアとした。授業時間は70 分であり、その40 分を「謎解き」とし、残りの時間は、ガイダンス、解答解説、振り返りおよび予備時間とした。「謎解き」の全体構成は、以下の通りとした。(1)開始時に3 桁の鍵付きの箱と4 問程度のパズルを配布する。
(2)パズルを終えると、2 つのシミュレーションが求められる。
(3)シミュレーション後に得られる情報を用いると、箱を開けることができる。
(4)箱の中にある謎を解くことで終了となる。
 (1)~(4)の中には、同科目での既習内容の復習に関するものも含まれる。また、(2)のシミュレーションを正しく実施できたか否かにより、最終ゴールの結果が変わるように工夫した。なお、一般的な「謎解き」ゲームの成功率(成
功率が数%)では十分な学びが期待できない他、学習者の自信や満足度にも影響を及ぼす恐れがある。そこで、一般的なゲームであれば20 分程度の時間制限となるような分量としたうえで、制限時間を倍の40 分とする、必要に応じてヒントを提示する、といった対応策を検討するに至った。

早期体験実習前のジャストインタイムシミュレーション実習

早期体験実習は、医療学部入学早期の段階に、病院等の医療の現場で直接的体験することにより、医療者を目指す動機付け、使命感を体得させることを目的に多くの医療系大学で行われている。本学では、まず1年時の6 月に大学附属病院における一連の診療の流れを体験するために外来および病棟各1 日ずつの実習を行っている。これまで、附属病院における早期体験実習前にオリエンテーションを行ってきたが、病棟実習に向けてより実習の目的をより明確化、具体化するために病棟実習直前にシミュレーション実習を導入した。
【目的】病棟実習直前に、患者体験、チームワーク、コミュニケーションをシミュレーションで体験することにより、実習の目的を具体化、明確化し、実習意欲を高めること。
【対象】医学部1 年生123 名
【方法】附属病院実習は、123 名を2 グループに分け、たすき掛けで外来と病棟を1 日ずつ行われる。今回は病棟実習する学生に対して、実習当日の実習前に2 時間のシミュレーション実習を行った。実習項目として、初対面の患者接遇体験(初対面の患者に対する自己紹介)、患者体験(車椅子、松葉杖体験など)、チームワーク対面(ストレッチャー移乗)を実施した。
【結果】実習後振り返りでは、学生から「患者の気持ちがわかった」「医療者間のチームワークが大事なことがわかった」好意的なコメントが多く有益な体験を提供できたものと思われる。また、「当事者意識を持って、一回一回の学べる機会を大切にしていきたい」「現場をイメージして行えば、細かな課題もみえる」など病棟実習への動機付けをうかがわせるコメントが得られた。

医療安全の実践も含めた静脈採血シミュレーション実習

一年生は「医学部では医学 の専門スキルを学べる」という期待が高い傾向にあり、安全に関する学習意欲を高めることは難しい。本研究では静脈採血のシミュレーションを通じ、一年生が主体的に専門スキルと医療安全を実践できる実習を検討した。
本演習は70 分の必修授業を計4 回使い実施した。到達目標を採血の専門手技、医療安全、感染対策、接遇について設定した。次に、学生の主体的な学びを狙い、評価方法をチェックリストによる学生間の相互評価とし、専門知識の無い学生でも読解可能なリストを作成した。また、実習では到達目標を含む採血の一部始終を示した動画とリストを学生に閲覧させながら練習させ、教員は極力介入せず、学生同士で教え合わせた。
学生が用いた動画やリストは専門手技(物品準備、採血環境の整備、血管選定、駆血帯装着、消毒、穿刺、真空採血管の取扱い、抜針)、医療安全(患者氏名の収集、リストバンドでの照合、指示簿と採血ラベルの指差呼称での照合、シャントや麻痺等の確認、痺れや痛み等の確認)、感染対策(手指消毒、マスクと手袋装着、翼状針の安全装置使用、針の廃棄)、接遇(患者説明、声掛け、挨拶や労い)が時系列で示された。全ての学生がリストの内容を一通り実施できるようになった。

主な関連業績(一部)