医療安全教育関連の研究
教育活動
『医療安全・ヒューマンファクター』をテーマに教育を行っています.医療安全では,“良くない習慣(安全行動の軽視、効果の低い安全行動の実施等)”が身に付く前に、早期から“安全に関する良い習慣”を身に付けさせることが重要と考え、医学部低学年の学生を対象に以下の授業を行っています.
- 思考のプロセス(1年生必修科目:1~2学期 全7回)
7~8名で構成される小グループでのディスカッションを通して,他者の考え方や思考の多様性を感じさせるオムニバス形式の授業です.私の担当授業では,医療事故の①再発防止と②未然防止について,それぞれの考え方の修得を目標にしています.
①再発防止:医療事故事例(手術部位の左右取違え)のビデオを視聴し,原因と対策について討論させています。また,各学生に安全のためにどのような医師になるべきかについて考えてもらい,早期から安全に対する前向きな態度を醸成しています.
②未然防止:医療現場を描いた3種のイラストを用いて,各グループに危険予知(イラストから安全上の弱点や危険と思われる事項を抽出し,対策樹立等を行うこと)を実施してもらっています.ただし,臨床未経験の学生では幅広い観点での予知を期待しにくいことから,What-If展開といった他の産業界における“思考のための補助ツール”を取り入れ,低学年にも分かりやすいように工夫を施しています.
- 医療安全のための理論と実践(1年生選択科目:1学期 全10回)
臨床未経験の学生は医療現場を題材に安全教育を行ってもイメージしづらいと考えられます.一方,現場安全に関する技法(指差呼称やSBAR等)は医療以外の領域で開発されたものが多いため,日常場面をテーマに教育が可能です.この授業では,基本的な安全の理論や技法を学んだうえで,それを普段の生活に取り入れて習慣化することを狙いとしています.例えば,院内巡視のように校舎を点検して危険予知を行ったり、コミュニケーションエラーを実際に体験できるゲームを行ったりし,基礎的な安全の考え方と習慣を身に付けさせています.
研究活動
臨床未経験の学生に対するシミュレーションを用いた医療安全教育
現在,前述のとおり,医学部1年生に基礎的な安全スキルを獲得させるための授業題材選びや方法論の設計に取り組み、教育効果を演習成果物等から検証する方法についても検討しています。一方で,基礎だけでは(1)実務においてどのタイミングで、どう安全行動(指差呼称やダブルチェック等)を取るべきか、(2)その行動が適切でなければ、どのようなプロセスでエラーや事故に陥るのか、(3)エラーの影響をどのように最小限に留めるのか、といった「実践的安全スキル」が身につきません。私はシミュレータを用いて、これらを教育することで、医療現場で取るべき安全行動の意義や、効果のある実践方法を身に付けさせる試みを行っています。
医療安全は,シリアスなテーマです.また,医師国家試験にも実践的な知識を問う問題はほとんど出題されません.つまり,学生の学習意欲はマイナスから始まることが多いかと思います.そこで,以下を教員側の目標として,卒前からしっかりと継続的に医療安全に関する知識・技能・態度を醸成させる仕組みを作っていきたいです.
- 学習意欲の向上:授業時間にしかできないことを経験させ、その体験を大事にさせる.
- 意味のある学習:「よかったね」「楽しかったね」で終わらせないよう,授業後すぐに実践できる事項を学ばせること.
- 持続的学習:学んだことを,日常生活を含む様々な場でも継続的に実践させること.
- 自主学習:「先生」がいなくても自主的に学びを続けさせること.
教育デザインやシミュレータ開発では,常に「学習者視点」「教育者視点」に立つことを忘れずに,それぞれ立場で効果・効率・満足度をいかに高められるかを目指して検討を行っています.
関連する主な業績
学会発表
- 前田佳孝,渡邊晃弘,鈴木聡.医療系学生に対する医療機器のユーザビリティ評価演習の提案.医学教育 2019; 50(supplement): 188 京都
- 前田佳孝,渡邊晃弘,鈴木聡.臨床工学技士養成課程の学生のリスクアセスメント力:安全巡視演習の結果に基づく分析.人間工学 2019;55: 2D4-4 東京
- 前田佳孝.医学部一年生に対する「安全巡視」型の医療安全演習の実施.医療の質・安全学会誌 2018;13(supplement) 名古屋(愛知)
- 前田佳孝,淺田義和,鈴木義彦,渥美一弥. 臨床未経験の医学生に対する医療安全教育の題材の検討:日常場面を対象として.医学教育 2018; 49(supplement): 228 東京
- 前田佳孝,淺田義和,鈴木義彦,渥美一弥,長谷川剛,河野龍太郎. 医学部一年生に対する危険予知訓練の実施とその予知傾向. 第4回日本医療安全学会学術総会抄録集 2018: 153 東京
- 前田佳孝,淺田義和,鈴木義彦,渥美一弥,長谷川剛,河野龍太郎. 医学部一年生に対する危険予知訓練の実施とその予知傾向. 第4回日本医療安全学会学術総会抄録集 2018: 153 東京
- 前田佳孝,淺田義和,鈴木義彦,渥美一弥,長谷川剛,河野龍太郎. 臨床未経験の医学生に対するWhat-If展開を用いたKYTの効果. 日本人間工学会関東支部第47回大会講演集 2017:10-11 船橋(千葉)
- 前田佳孝,淺田義和,鈴木義彦,渥美一弥,長谷川剛,河野龍太郎. 医学部一年生に対するグループ討論型医療安全教育の実施とその効果. 医療の質・安全学会誌 2017;12(supplement): 324 千葉(千葉)